女王蟻 第1巻

 こんな帯がかつてあったか?

 曰く「パンツ! 蟲! パンツ! 蟲! お尻(ハート) 蟲!! パンツ! 蟲! お尻(ハート)」。エロティックな漫画やノベルズの帯にだったらあったかもしれない。それだったら蟲が蠢いていたってシチュエーション的には理解できる。

 しかしこれは一般漫画だ。ウェブサイトでのみ展開されている青年誌「幻蔵」に連載されている作品だ。18歳以上といったアクセス制限がある訳でなし、普通に見られて読めてしまう漫画の1番のセールスポイントが「パンツ」に「蟲」に「尻」。どんな内容かと見たくなる気持ちが沸いて当然だ。

 ウェブコミックという性格上、書店で立ち読みをして目に入れる機会はきわめて少ない。無料キャンペーンの時期などにふと、アクセスして見てなるほどこれはと記憶に止め置く人もそうはいない。単行本化されて、ネットを見ない人たちの目に初めて触れる時に訴えかけるべく、敢えて過激な言葉を選んだといった見方も出来る。

 ならば単なる煽り文句で、見せ物小屋の口上に過ぎないのか? というと断じて違う。大井昌和の「女王蟻 第1巻」(幻灯舎コミックス、590円)には真っ白な「パンツ」がいっぱいある。丸くて柔らかそうな「尻」も溢れんばかり。見る者の気分をドキドキさせてくれる。トゲトゲとした「蟲」もたっぷり登場して、目に入れた者の気分をジョリジョリさせてくれる。

 帯に偽りなし! そして、帯に惹かれた者をさらなる深淵の境地へと誘うドラマがここにある。

 地球から移住し、月面都市で警察官となったハヤセという女性が本編のナビゲーター。ドジながらも一所懸命に仕事に取り組み、今も地球から来た要人を追跡する任務に就いていた彼女の運命が、乗っていた蟲を改造したような乗り物の背中を切り開いて飛び込んできた過激な少女との出会いによって変わる。

 少女は「女王蟻」。エネルギーの運動変換効率が良いからと、生態改造され人間たちにあらゆるシーンで利用されているバイオロボットのような蟲たちが暴走した時に現れ、誤りを糺す役目を担った存在。その女王蟻が現れたのは、発動すれば月面の崩壊に至りかねない蟲たちに対する謀略を暴き、抑えるためだった。

 圧倒的な身体能力を、スカート丈の短いワンピース姿で披露する女王蟻の大きく開かれた脚の付け根にのぞくもの。そして背後や真下から見た女王蟻の胴体から脚へと流れるラインを構成するもの。帯は真実だったと納得できる。なお且つ蟲たちが舞う中空や、地下の通路で繰り広げられる圧巻のアクションシーン堪能できる。

 そしてテーマ。蟲を改良して使わざるを得ない月面都市の過酷な事情。その月面都市に優越感を抱きつつ、発達する月面都市のテクノロジーに畏怖も抱いて謀略を仕掛ける地球の支配者たちの狭量さ。宇宙が舞台となったSFには定番の、あるいは冒険に挑む者を描いた物語に必須のテーマが響いて己を試される。

 そんな月になぜかあこがれ、地球から移住するハヤセの感情と彼女を理解せず地上で悲嘆にくれる母親との関係もまた、挑む者と止める者、万物を愛する優しさと高みに立つ優越感との対比となって心を衝く。さらにテクノロジーの進歩がもたらす可能性の是非。生まれ出た生命が求める存続の本能が秘める危険性。常に進歩し進化しようとあがく人類に、遠からず訪れるかもしれない悲劇を示唆して心に響く。

 こちらも女王蟻に負けじと、飛び転がっては脚の付け根を見せまくった挙げ句、女王蟻と街のコントロールを操る街使いとの戦いの場に使命感から場に飛び込み、深く傷ついたハヤセの命運は? ハヤセを助ける形になった女王蟻との関わりがこれからどこへと向かうのか? 止まない地球からの干渉と、暴走の可能性をはらむ蟲たちの動静の中で、少女たちの新たな戦いが幕を開ける、その物語が描かれるだろう続刊に期待。

 そしてもちろん、これまで以上のサービスにも。「パンツ! 蟲! パンツ! 蟲! お尻(ハート) 蟲!! パンツ! 蟲! お尻(ハート)」×3くらいの分量で。いや、蟲はさすがに3倍の量で来られると恐ろしいからここだけは×0・8くらいの案配で。


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