大正地獄浪漫1

 “大正悪夢に異能の暴威”とでも言うのだろうか。

 一田和樹による「大正地獄浪漫1」(星海社FICTIONS、1400円)は、大正時代に帝都を騒がす邪悪な犯罪者たちを専門に取り締まる部隊が存在。その名も内務相直属秘密組織「特殊犯罪対策班ゲヒルン」には、両親を殺し妹も四肢を切り落として死ぬに任せた犯罪者の氏家翔太や、4つの班からなりそれぞれは100人単位で精鋭をそろえた人形女給兵団を指揮し、自身も相当な格闘技の使い手だったりする美少女の人形屋藤子が所属している。

 人形女給兵団には武闘派の第三班を率いる、見た目は可愛らしい少女でありながら実は少年という蓬莱霞といった面々がいて、カフェに集い、普段は女給の蓬莱や男装の麗人というマスターの接客を請けつつ、事件があれば地下から出動をして帝都に起こる猟奇な事件を解決する。

 そんな特殊犯罪対策班ゲヒルンに新しく配属されたのが事務屋知解子という女性。やはり特殊な能力の持ち主で、高い記憶力を持ち且つ予知にも長けている知解子だったけれど、本当は行きたくなかった特殊犯罪対策班ゲヒルンに放り込まれ、顔に包帯をまいて片目をおさえた片目金之助というリーダーの下、まずは自殺を教義としたような集団を取り締まり、続いて少女の死体を引きずり回す集団に挑む。

 最初は良家の子女ばかりが自殺していたものが、だんだんと出自に関係なく教義として自殺していった事件の裏にあった真相からは、木を隠すのなら森の中といった格言が浮かぶ。つまりは、良家の体面を整えるためのでっちあげが本物になってしまった挙げ句の騒動。そのことに知解子は情報を吟味し、流れを整理した上で気付いていくけれど、片目は即座に真相に気付いていた様子だった。

 もとより話す中身も最初と最後だけで途中がなく、どう解釈したら良いか分からない。けれども絶対に意味がないことは言わないのが片目金之助という人間。そんな帰納の天才と、演繹の秀才という対照的な2人を起きつつ間で武闘派として戦い、犯罪者ならではの才知を見せる面々が蠢く展開が面白い。しかしどうしてカムフラージュが本物になってしまったのか。誰もが今を厭い死に救いを求めたかったからだろうか。大正でもそうだったのか。関東大震災に昭和恐慌、そして戦争。人間はその動物的な勘で遠くを見えていたのかもしれない。

 死体を大八車に乗せてあちらこちらに出没する集団「屍屋」の事件では、犯罪者でありながら片目の配下で犯罪者特有の勘を働かせ、事件の解決に当たっている氏家が戦陣を切っては拉致されて、だんだんと身に覚えのない記憶をすり込まれていく展開に人の記憶の曖昧さといったものが浮かぶ。そこに関わってくるのが本の力。自分で読んでも誰かが読んで聞かせても同じように効果を発揮する謎めいた力を持った本を作り、人心を操る存在が強敵として立ち現れ、それが知解子とも因縁の相手と分かって話に対立の構図が浮かんでくる。

 その対決を明快にしたのが片目で、その目的のためには知解子以外は氏家はもとより懸命に働く人形屋も実直な働き者の桂木丈太郎も、すべてが駒だというから恐ろしい。いったい何者だ、片目金之助はという男は。どうしてそこまで犯罪を憎む。そんな興味も浮かぶ物語。それだけに今後も続いて知解子の因縁がどう立ちふさがり、それを片目がどう突破していくか、その過程で人形屋や蓬莱や氏家はどうなるかを読みたい。続くだろうか。


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