IOTA 戦術機巧歩兵 彼女は危険な戦闘兵器

 自衛隊がファンタジー世界の住人たちと戦う「ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり」の作者であり、自衛隊の狙撃手が戦国時代で腕を見せる「戦国スナイパー」も書いている柳内たくみが、近未来の日本を舞台にしたSFアクションに挑んだ作品が、「IOTA 戦術機巧歩兵 彼女は危険な戦闘兵器」(宝島社、1380円)だ。

 ストレートの銀髪を持ち、ホットパンツのように細い脚を剥き出しにした美少女が描かれている表紙に惹かれて読み始めれば、その美少女のどこか達観していて、苛烈な運命にありながらも減らず口を叩きながら戦うスタイルにグッと惹きつけられるだろう。

 名をリブというらしい美少女は実は人間ではない。いや、もしかしたら人間かもしれないけれどもそれは脳だけで、身体は自衛隊が密かに開発していた戦術機巧歩兵(IOTA)の最新実証機。近未来、東京湾岸の埋立地に出現した無法地帯で起こる犯罪を捜査し突入する仕事を請け負っている。

 そして向かった先で現れた不死身の美女との戦いでボロボロになりながらも脱出したリブは、意識を薄くさせたままで高いビルの上から廃棄された工場へと落下する。そこにいたのが、まだ年若い北機壮士という名の技術者。リブを拾い調べそして使われてる技術に気付いて、ひとつの行動に出る。

 そんな幕開けから始まるストーリーは、機械の身体をバラバラにされて売り払われてしまい、そして残された脳まで廃棄されるのではないかと怯えながらも、手足を持たずどうしようもない状況に焦燥するリブの心理が綴られ、いっしょになって焦り慌ててしまう。

 けれども、それではヒロインは務まらないだろうと理解しつつ、壮士がいったい何を知っているのかといったところから辿って、彼がまだ少年だった頃に天才的な技術者として生み出したある技術が、リブに使われていて彼女を動かしつつ、その命を限りあるものにしているのだと知る。

 脳と機械を結びつけるようなその技術が実用化されていれば、人は永遠の快楽をも身に得て生き続けられるようになった。ただしその技術には欠陥があって、異常蛋白が脳にたまってアポトーシスを引き起こすことが分かった。だからいったんは葬ったはずの技術が、何者かによって広められ、リブにも使われていた。

 そしてリブは、いつか自分の命が止まる前に、自分の唯一の生体である脳がいったいどこから来たのか、親はいるのかを探ろうとしてる。けれどもそんな脳ですら、人工的に作り出されたものかもしれないという可能性、あるいはうっすらと刻まれた記憶すら、誰かのものを転写されたかもしれない可能性が浮かんで、リブを迷わせる。生きていくことに絶望感すら与えてしまう。

 それでも、少しの希望をもって戦いの場に戻り、再び現れた人工生命で倒しても簡単に再生してくる美女と少女を相手にした戦いを繰り広げながら、警察内部で繰り広げられていた謀略を退け進んでいく。そのスピーディーでスタイリッシュな戦いの描写がなかなかに読ませる。武器や魔法が飛び交うファンタジーや剣と鉄砲がメインの時代物とは違った、SFならではのサイボーグと生体アンドロイドとのバトルを楽しめる。

 いったいどうして敵はあそこまで再生力が強いのか。その意識はどうなっているのか。いろいろと関心が浮かぶ。そもそも誰に作られたのか。その謎がラストに明らかになる。人工冬眠の装置から現れた女性。MIT時代に壮士と関わりがあった彼女は、壮士が作り出した技術を大きく育てようとしつつ、失脚したはずだった。

 その彼女がどうしてそこにいるのか。どうして人工生命体を従えて犯罪組織を率いているのか。その体内に仕込まれている爆弾のようなテクノロジーが、ブレイクスルーを迎えることはリブの限られた生命を未来に繋げる意味も持っている。そんな状況が浮かび上がってくる。

 過去に残してきた後悔を改めて感じ、引きこもっていた壮士が戦いの場に復帰し、そしてリブは運命を切り開くための戦いに邁進していく。そんな続きが描かれ、誰もが幸せになれる展開へと向かっていくだろうか。そう期待しつつ、今はといんかく続きが書かれることを願おう。


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