イガジョ!

 バリボ、バリボ、バリボ!

 いったい何のことかと思ったら、瀧川武司の「イガジョ!」(富士見ファンタジア文庫、620円)を手に取ろう。表紙に描かれたブルマー姿の女の子が「バリボ」とは何かをずばりと言い表している。

 つまりはバレーボール。「イガジョ!」はバレーボールがテーマになったスポーツ青春ストーリーで、ネットを挟んで対峙する乙女たちが、汗を流して白球を追う華麗で可憐な姿が感動のドラマとともに描かれている。

 はずがない。何しろ富士見ファンタジア文庫だ。そしてタイトルが「イガジョ!」だ。三浦しをんの「風が強く吹いている」や、佐藤多佳子の「一瞬の風になれ」のような、当たり前のスポーツ青春ストーリーが繰り広げられる訳がない。

 だったら「イガジョ」とな何なのか。略称。伊賀女子高等学校の。それでどうしてスポーツ青春ストーリーにはならないのか。だから伊賀だから。伊賀と言えば忍者。その女子と言えばくノ一。「イガジョ」とはだからくノ一を養成する女子校なのだ。もう分かっただろう。繰り広げられるバレーボールが通り一遍のものではないと。

 繰り広げられるのは、忍法に武術を極めた者たちによる荒唐無稽な技と技とのぶつかり合い。それも過去に例のあるイナズマサーブや殺人アタックなどといった生やさしいものではない。

 放たれれば相手コートにいる選手が1人、また1人と倒れ伏し、2度と起きあがれなくなる呪いめいたサーブを放つ狐娘がいれば、当たれば人間くらい彼方へと吹き飛ばす、大砲サーブを放つ長身の少女もいる。どうみたって巨大な皇帝ペンギンにしか見えなかったり、テレビ局のバレーボール番組のマスコットにしか見えない、激しく人間離れした選手もいたりする。

 そんな超人に人外の選手たちが、それぞれに必殺の技を繰り出して戦う様は漫画に例えれば「アストロ球団」のよう。なおかつそんな技のぶつかり合いが、中盤以降は最後まで続いてあり得ない展開あり得ない描写に、あり得ない心の高ぶりを覚える人も多いだろう。

 とりわけ伊賀女子高等学校でかつてバレーボール部を率い、里に下りて一般人の男性と結婚した母親から生まれ、忍者だった母親の血を引き母親に負けない超人的なバレーボールの技量を持つに至った多々良という少女は、主人公だけあって明るく前向きで、そして秘めたる力もあって伊賀女の危機に立ち向かう。その活躍ぶりを読めば心は爽やかになり、強靱な気持ちを得られるだろう。

 ライバルの甲賀女子に所属する、狐の魔力を持った少女から狸と呼ばれた多々良は、何故か頭に1枚の葉っぱを乗せている。そのビジュアルを妖狐の少女は狸に例えたのか、それとも多々良の正体は狸なのかと興味も喚起される。とりあえず理由は明かされたものの、そんな単純なことなのか。あるいは。

 ともあれ開けば一気呵成にラストまで引っ張られてしまう愉快作。そして続きではいったいどんなエスカレートした技の競演が繰り広げられるのかに興味が及ぶ。自分でもバレーボールをしたくなる、ことだけは絶対ないか。当たれば吹き飛ぶくノ一のサーブ。受けられる選手が一般に1人でもいれば、日本は今なお五輪でメダルととり続けているはずだから。


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