アイドル
偶像列伝 オーケン×元アイドル

 偉いぞオーケン鏡だオーケン。アイドルとお近づきになりたいあわよくば結婚なんてしてみたいと思ってる明朗健全な男子諸君の願望を、それもおそらくは絶対口には出して言えない恥ずかしくもおぞましい欲望を、心の内の葛藤はともかく対談の場であっけらかんと出してしまえるオーケンこと大槻ケンヂに心からの拍手を賛辞と羨望から来る罵倒を贈ろう。

 アイドル不在の現代にアイドル誌として今なお燦然と輝く雑誌「ボム」で行われた、オーケンが元アイドルたちを口説く、じゃなくって元アイドルたちや現役バリバリのアイドルに、最近のこととか昔のこととかを聞いた対談が「偶像(アイドル)列伝」(学習研究社、1500円)にまとまった。男関係事務所関係アイドル仲間関係の話は御法度な時代をくぐり抜け、辛酸なめなめ地べたをはいはい到達して来た「元アイドル」の座。その高みから繰り出される少女に元少女たちの言葉はどれも生々しさに満ちていて、背筋を上から下に向かってナメクジが這うよーな快感が体を襲う。一体どんな快感だ。

 トップに鎮座ましますのは、66年生まれのオーケンにとって天地真里よりも山口百恵よりも時代的にストライクな榊原郁江。もちろん他にもキャンディーズカラピンクレディー、石野真子といった名前も挙げられるんだろうけど、そのハチ切れんばかりの肢体と天真爛漫さを表現した笑顔、何よりアイドル登竜門の一角にそびえる「ホリプロタレントスカウトキャラバン」第1回目の優勝者という経歴が、アイドル中のアイドルとしての榊原郁江の存在を不動のものとしている、ように思う、単にオーケンがグラマーが好きだっただけなのかもしれないけれど。

 そして三原じゅん子に伊藤つかさ、新旧「金八」の不純と清純を相対的に体現しているような2人の登場も、「あの時代」を越えて来た人だけが分かる渋さに溢れている。現実にはごくごくフツーの少女でしかなかった三原じゅん子が、イメージからなのかブロマイドでは笑顔を撮って貰えずブスったれた表情だけがひとり歩きしてしまった話がなかなかに時代的。ケンちゃん宮脇康之とのいつの間にか沈静化してしまった交際宣言の顛末も語られていて、アイドル稼業の厳しさ芸能界の不思議さを垣間見せてくれる。今もたいして変わってないんだけど。

 やっぱりな「おニャン子」に「CoCO」に「セイント・フォー」。美人度ではトップだったような気がする河合その子でも国生さゆりでもなく秋元某にヤられてしまった高井麻巳子でもなく顔ならフツーでボディもそれなりな会員番号4番新田恵里を狙って引っぱり出したあたりのコダワリ具合がちょっと良い。新田恵里ファンの心理というのはマジで新田が良かったのか、それとも手の届きそうな場所にいる娘としての扱いだったのか。「モーニング娘。」に置ける人気度とも合わせてこれは研究の余地があるのかも。大穴狙いでは世界でも希なインディーズ・アイドル宍戸留美もステキな脚線美を披露してくれてて素晴らしいの一言、ありがとうオーケン。

 元「セイントフォー」の濱田のり子もご登場、40億円かけて売り出したアイドルグループの初任給が5万円(ちなみにオーケンは3万5000円)だった話から、4畳半に2段ベッドで4人が寝ていた話とか、体育が2なのにバク転と宙返りを練習させられ失敗を恐れる気持ちでトラウマになって夢にまで見るようになった話とか、もうアイドル哀史な話が満載で読むほどに目から涙がにじんでくる、いや面白い。1人が突然辞めてしまって抜けた穴を埋めた新しいメンバーは「入ってすぐにやめちゃいましたね」「だから解散コンサートのときは3人でやりました」ってあるけど、この子ってやっぱり今は声優として活躍している岩男潤子のことなのか。

 最高なのが千葉麗子。単なるカワイサ物珍しさだけでオヤジに弄ばれているように見えた女社長転身初期も、すでに人脈作りから始めて「根回ししまくり! ゲーム会社やパソコン会社、ソフトバンク、出版社…。みーんな社長さんとお知り会いってゆーくらい根回ししてた(笑)」とか。元アイドルとゆー人間と知り合うことで自分にちょっとした遊び心があるんだってことを見せようともくろんでチバレイを手のひらの上で転がして、と思っていたおじさん経営者たちは実はチバレイの手の上で転がされていたのです。

 あのダイヤモンド社から出た異例な業界初の美人会社経営者写真集も「私の中にポイントがあって、経営者ってやっぱりダイヤモンド社から何らかの本を出版するのが夢なわけ…なんだけど私ができるのは写真集くらいしかなかったから、とりあえず出してみたの!」という裏があるらしい。そこまでの計算目算があったとは、驚きましたお見それしました、次はだったら東洋経済新報社からヘアヌード写真集か。

 さて肝心のアイドル口説きの件だけど、音楽と文章の才能にあふれトークも旨くお金だって持っているオーケンをして今もって実現していないところを見ると、アイドルとお近づきになりさらに親しい関係になるには越えなくてはならない山がほかに幾つもあるのだろうか。否。伊藤つかさは大学時代の同級生とゴールイン、千葉麗子はファミレスに連れていってくれたごくごくフツーのミュージシャンと結婚して子まで作ってしまった。自家発電製の白ジャムを送りつけるよりデニーズで晩飯だったのか(当たり前だ)。

 「アイドルってそれなりにプライドが高い。だって自分に自身がないとアイドルなんてやってられないじゃない。自意識過剰だし。だから、まずはそれを打ち砕かないと」。打ち砕かれたチバレイの言葉はだから重さが十分。それができないオーケンは、やっぱりいろいろ気を回しすぎるんだろう。あるいは下心がミエミエとか。まあ良い世の中にはきっとUFOも格闘技も特撮も好きなアイドルがいるはずだ。その日までオーケン伴侶を求めて突っ走るのだ倒れても。


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