ひげを剃る。そして女子高生を拾う。

 転がり込んできた女子高生が、体を差し出す代わりに泊めてと言ってきて、別にいらないけれども追い出したら同じ事を誰かに言うだけだと思い、アパートに泊め続ける会社員のその生真面目さに頭が下がる。

 ある意味でストイックだけれど、そこで女子高生に手を出したら法律的に問題となってしまう。だから手を出さないというのは当然の振る舞いだ。なおかつ他で被害に遭うのを防ごうとする意志を尊重したいといった意識は覚える。

 その一方で、女子高生の方は自分に手を出さない会社員への感情をしだいに募らせ、この幸せな環境を追い出されたらどうしようと思い、会社員の機嫌を損ねないように務め始める。これは正常な意識だろうか。少し違う。閉塞的な環境によってもたらされるある種の依存で、それが続くと自立ができなくなってしまう可能性があったりする。

 そして、依存された相手、この場合は吉田という名字の会社員も、いつまでもアパートに紗優という名前の女子高生を泊め続けることは難しい。近隣の住民たちの目も気になるところだし、会社の同僚たちからもいろいろと詮索が入り始めている。遠からず露見する可能性は低くない。

 だからといって紗優を安心させようとして、完全に受け入れてしまえば、関係が発生して途端に淫行の類へと堕してしまう。ここは大人として紗優から事情を聴いて、暴力の類が原因ならシェルターへと送り、ただのいざこざなら家族との間を取り持つような解決方法が、吉田の取るべき態度として正解のような気がしてならない。それが社会のリアルというものだ。

 だから、そうした将来の泥沼を見せないで、今のふわっとした関係を停滞の中に幸福気味に描いているところに、しめさばという作家による「ひげを剃る。そして女子高生を拾う。」(角川スニーカー文庫、620円)へのいささかの違和感を覚えないでいられない。現実を見ていないところに引っかかっているとも言える。

 このまま紗優が自分を吐露せず、ただの異分子として存在しながら吉田の落ち込んだ心をまっすぐにして過去へと去って行き、そして現代に紗優が好意を抱いて交際を申し込んだものの断られた先輩の後藤愛依梨として再会させるような時空間的ひねりでもあれば、まだ先に救いは得られそう。けれども、そうしたSF的なニュアンスはなく、現実の中で解決する道を探るしかなさそうだ。

 吉田が好意を抱きながらも、彼氏がいることを告げて会社員を振った愛依梨は愛依梨で、口では彼氏がいるとはいったものの、なぜか後輩の後藤のことを気にしている感じがある。また吉田の後輩で、仕事ができないようで実は自分でやらないだけで、やればやれる三島柚葉という女性社員も、吉田にどこか好意を抱いている節がある。

 そうした上から下からの関心に挟まれるという、羨ましい限りのハーレム状態にある吉田が、家に帰れば拾った女子高生と同居しているといった事実が、いったいどれだけの衝撃をもたらすか。社会の中ではまっとうと思われがたい状況を、愛依梨や柚葉が認め赦しながら共に解決の道を探していくような展開があれば良いけれど、それだと依存が恋情に化けかかっている紗優に救いは無い。出て行くしかないからだ。

 果たして紗優が吉田への気づかない依存から抜け出し、自分の抱えている問題を解決できて、吉田は自分の思いを成就できて、それはすなわち愛依梨との恋を実らせることで、それを見ながらも柚葉はしっかり自分を保ち続けるような決着へと至るのか。波乱があって混乱が起こってとんでもない状況へと至るのか。

 そんなあたりをどう決着させるのか、気になる結果を知るには続きを読むしかなさどうだ。


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