3.11を忘れないために


 3.11。それは今も終わってなくて、避難した場所で暮らしていたり、遠くの場所に移っていって、元の場所に帰れない人たちがいっぱいるし、帰れてはいても、あの日の前と同じ暮らしは、その身には取り戻せていない。

 だから今も、大変な暮らしの助けになればと、現地でボランティアに勤しんでいる人もいるし、お金を寄付している人もいる。ただ、やっぱりあの日から遠く離れれば離れるほど、どうにかしてあげたいという思いも細くなって、自分たちのまわりに起こっている大変なことが、気になってしまう。

 それは仕方のないことかもしれないけれど、でもちょっとだけ、あるいはもういちどいっぱいに、3.11という日を境にして、東北に起こったいろいろなことと、そこに暮らしているたくさんの人のことを、思ってみていけないなんてことはない。絶対にない。

 今のあの場所と、あの人たちは、未来のこの場所であり、この自分かもしれない。そう考えてみると、3.11を忘れてしまうなんてことはできないし、遠くにいる誰かのことだなんて脇に置くこともできない。とはいうものの、前のようには動けないし、いっぱいの寄付だって難しい。だったら。

 今、できるせいいっぱいのことをしよう。復興に勤しむ被災地の品を、進んで購入することでも良いし、「3.11を忘れないために ヒーローズ・カムバック」(小学館、905円)という、9人の漫画家が描き下ろした9つの短編を集めた1冊を、手元に置くことでも良い。

 「さすがの猿飛」の細野不二彦が、被災地を歩き書画骨董の修復に勤しむフジタという男を描いた「ギャラリーフェイク」があり、「鉄腕バーディー」のゆうきまさみが、懐かしい作品を現代に甦らせた「究極超人あ〜る」があり、奇態な生き物たちの不条理なやりとりが、懐かしくも面白い吉田戦車の「伝染るんです。外伝 サラマンダー」がある。

 映画「009 RE:CYBORG」では“彼の声”として示唆された天啓を、天使の直接の支配として描き、それに立ち向かう009の姿を、原作者と寸分違わぬ絵によって描いた島本和彦「サイボーグ009」があり、別れてしまった少女の迷っていた思いが晴らされ、彼岸へと向かう藤田和日郎「うしおととら」がある。

 “それから”のかごめと犬夜叉が見られ、圧倒的な敵を相手に戦う犬夜叉の奮闘ぶりが今一度見られる高橋留美子の「犬夜叉」があり、主人公たちが北海道で暮らようになった“これまで”が、過酷な北海道での暮らし、朝敵として圧迫された東北の人たちの苦境も含めて描かれた荒川弘「銀の匙 Silver Spoon」があり、これもアニメ化までされた傑作が、美女のグラマラスな姿態とその心情も含めて鮮やかに甦った椎名高志「GS美神 極楽大作戦」がある。

 そして「沈黙の艦隊」のかわぐちかいじ。3.11の直後から現地に入り、余震も続く中で懸命に生命を探し、生命を守った自衛隊員たちの、苦しみを噛みしめ希望を繋げつづけた活動が記された「俺しかいない 〜黒い波を乗り越えて〜」がある。直接、震災の市町村が出てくるこの作品と、「ギャラリーフェイク」の2作を読めば、あの日から続く困難に、改めて思いがおよぶだろう。

 そこまでには至らず、あっけらかんして愉快な「究極超人あ〜る」に、これが連載されていた往時の喧噪を思い出し、細めた目つきが凶悪に見える女性が、実は意外な“正体”を持っていたことが分かる「銀の匙 Silver Spoon」に、萌え心を感じて終わってしまって、良いんだろうかと悩む人もいるかもしれない。収められた短編は、どれもがそれだけ楽しくて、面白い。

 ただ、この「3.11を忘れない ヒーローズ・カムバック」を手元に置くだけでも、その収益や印税は、被災した子供たちに本を届ける「大震災出版復興基金」に寄付される。また、岩手県や宮城県、福島県の各県庁が運営している、震災遺児への育英基金に寄付される。

 遠い場所で漫画を読んで味わった楽しさの端から、東北の地で本を読んで楽しむ子供たちが生まれたり、本を楽しめる暮らしに戻れる子供たちが生まれたりする。だから、まずは手にとって読んでみよう。そこに参加した漫画家たちの、漫画のテーマだけでなく、参加すること自体に込められた思いを感じ取って、次になにをすればいいのかを考えよう。

 始めていこう。ここからまた。そして永遠に。


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