巡幸の半女神

 3年と8カ月という期間は、作家にとってどれだけ長いものなのだろう。純文学系ならそれくらいの間、何も本が出なかったところで、待つ人は待つし気にしない人はまるで気にしない。けれどもこれが、年に3冊から最低でも2冊は出していかないと、途端に忘れ去られてしまうライトノベルの作家の場合は、もう永遠にすら匹敵する年月に違いない。

 スニーカー大賞を「シュガーダーク 埋められた闇と少女」(角川スニーカー文庫)で受賞した新井円侍は、そこからまさに3年8カ月、沈黙の中にいた。いや、これを原作にした漫画は出ていたし、続編の噂もあるにはあったけれど、自身の著書として刊行されるまでには至らず、そして時間だけが過ぎていった。

 そんな新井円侍が、レーベルも変えて第2作目となる小説「巡幸の半女神」(講談社ラノベ文庫)を出した。とてつもなく悲劇的なシチュエーションを描きながらも、希望を失わないで生き続けようと足掻く人類の姿から、諦めない気持ちというものを強く喚起させられる小説になっている。

 人類が地球で文明を育み、宇宙にも進出して繁栄の絶頂にあったその時、神にも匹敵する強大な力を持った存在が現れ、人類を襲い始めた。マンイーターと呼ばれる蟲を巨大化させたものを送り込んで来たものもあれば、触れるものをすべて灰に変えてしまう驚異的な力を発揮するものもあって、人間にはまるで歯が立たない。逃げる場所すらなく無為に追いつめられていく。

 それでも宇宙へと進出したテクノロジーを使って、人型ロボット兵器のようなものを作って反攻に出る動きもあった。もっとも、マンイーターにはあある程度の効果を発揮したものの、すべてを灰に変える女神のような存在にはまるで適わず、チームは1人減り2人減っっていった果てに、レウレッドという名の男がたった1人だけ生き残る。激しい戦闘で傷つき、意識も失っていたレウレッドが意識を取り戻した時、周囲に見方はおらず、それどころか花が咲き乱れていて、ひとりの少女が彼を介抱していた。

 いったい何者? どうやら普通の人間ではないらしい。むしろ敵となっている神に匹敵する存在に近そうなエウトリーネという名の少女は、自分を半分人間で半分神だと良い、人間を滅ぼそうとする動きが嫌で逃げ出してきたのだという。最初は信じることが出来なかったレウレッドは、自分の分身ともいえる鎧巨人に乗り込みその場を離れ、そしてかろうじて命脈を保っていた村落へとたどり着いてそこで襲ってくる巨大な虫、マンイーターを相手に戦うことを迫られる。

 やがて追いついてきたエウトリーネとともに村落を出た男は、仲間の敵とも言えるすべてを灰に帰る力を持った女神アンテァメネアと対峙する。果たして勝てるのか。勝って世界を救えるのか。

 そういった興味を誘いつつ続く2巻で神とはいった何者で、何が狙いなのかといったあたりも明らかにされるのだろう。今はちょっと謎が多すぎて分からない。宇宙人とも言えないし、かといって神と言い切るには存在が高邁さとはかけ離れている。

 そうした敵の設定の不思議さに加え、レウレッド主人公が操るパワードスーツもSF的なガジェットとして面白そう。同じ遺伝子を持った生命を違うかたちに培養して作りあげた巨人。それを制御するのに同じ遺伝子の強大である人間が乗り込み操るという形は、ロボットが他の誰かに利用される可能性を防ぐ一方で、血のつながりめいたものが生み出す不思議で強大な力の可能性を感じさせる。

 シンクロすれば強くなる。そういう代物。それがいったい世界にはほかにどれくらい用意されていて、侵攻してくる神を相手に立ち向かえるだけの強さを持っているのか敵はより強大で、主人公の帰る場所を奪ったようにすべてを灰に変えてしまうのか。そうだとしたらとても勝てそうにないけれど、そこで意味を持つ半神半人の少女エウトリーネの存在。彼女と組むことで相手を抑え、自らを高めた戦いの果てに来る平和を願いたい。

 いずれにしても次は3年8カ月も待たせないことを願いたい。


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