白銀のソードブレイカー 聖剣破壊の少女

 これほどまでに美少女剣士、あるいは美女剣士をむだ遣いしたライトノベルがあっただろうか?

 美少女もしくは見た目が美少女の剣士たちが、次から次へと現れては主人公の青年と関わっていく。普通はそこで恋情なり、逆の憎悪なりが浮かんで強い関係ができあがり、ハーレムにもなぞらえられるシチュエーションが生まれては、ガヤガヤとしてドタバタとした賑やかな展開へと向かっていくものだ。

 ところが、松山剛の「白銀のソードブレイカー 聖剣破壊の少女」(電撃文庫、630円)は違う。なるほど最初にひとりの美少女剣士と出会い、ひとつの関係が持たれるけれど、問題はその後。最強と呼ばれ、なおかつ善良さを人々から慕われ敬われている美少女剣士、あるいは美女剣士たちが、たったひとりの美少女剣士の前に次々と倒され、退場していく。命もとろも失う形で。

 もったいない。とてつもなくもったいないけれど、そこで情けをかけて生き残らせては話が続かない。なぜなら……。という理由も、この「白銀のソードブレイカー 聖剣破壊の少女」のポイント。だからこそ、剣士でも能力者でもパイロットでも良いから美少女たちが次々と集まって来て、恋もあれば戦いもあるような日々を送りながら、ひとつ目的のために進んでいくようなストーリーとは違った帰結が期待できる。

 始まりはとある屋敷。百剣のレベンスと異名を取る、若いながらも凄腕の剣士が雇われ警備についたその屋敷には、古来より世界の平穏を守護すると言われる7人の剣聖たちのうち、二百戦無敗を謳われるハズキ・ユキノシタが暮らしていた。強いのに警備を求めたのは、自身を守るというより屋敷に暮らす他の人々を守るため。剣聖自身は誰かに負けるとは考えていなかったし、周囲の誰も同じように剣聖の敗北はあり得ないと考えていた。

 そもそも剣聖とは、かつて地上に現れ7人の女性に渡された聖剣を使う者たちで、時代の時々に現れてはその剣を受け継ぎ、振るって横暴な権力者を退け、民を守る存在として崇められてきた。今もそうした剣聖たちがいて、都市のようなものに暮らして住民たちを守っていたり、旅をしながら正義を貫いる。

 共通するのは、誰もが剣士として最強ということ。互いに戦えば優劣はあっても、普通の剣士が挑んでは誰もかなわなかったはずだった。それが倒された。屋敷に侵入してきた1人の少女によって。だからレベンスは驚いた。そして興味を持った。

 というのも、エルザという名らしいその少女が持っていた巨大な剣に触れると、かつて彼が暮らしていた村を襲った、光る眼をした狂剣士の姿が脳裡に浮かんだ。父母を殺し妹も手にかけたその存在を、レベンスはずっと追い求めていた。

 その手がかりを、エルザという少女が知っているらしい。だから追いかけ、次にエルザが立ち寄りそうな剣聖の所在地に先回りし、日常生活ではまるで頼りない姿をさらすエルザを助けたりもして、次第に関係を築いていく。

 その先々で、エルザは前と同じように剣聖たちに挑みかかる。その誰もが最強でありながらも善政を敷き、領民から慕われ崇められていた存在。いなくなったら果てしない混乱と虐殺が起こるかもしれないとレベンスに問われ、エルザ自身もそうと知りながら1人、また1人と剣聖を殺していく。

 誰もがとても善良で、そして魅力的な剣聖たち。戦い方もバリエーションに富んでいて、どういった流儀の剣を振るうのか、それはどれほどの強さなのかを楽しめるようになっている。そんな剣聖を相手にひけをとらないエルザの戦いぶりも。というより、剣聖ですら油断してしまうようなエルザの恐るべき肉体の秘密も。そうまでして彼女は戦い、確実に剣聖たちの息の根を止めていく。すべての聖剣を集めて壊すために。

 なぜ? 何のために? 平和に仇なす行為でありながら、それを止めることがないエルザの真意。彼女から剣魔という名前だと聞いた狂剣士の正体。それらを探るストーリーがこの巻で繰り出され、続く巻ではより真実へと迫った形で繰り広げられそう。世界は混沌に向かうのか。その先に平穏は訪れるのか。読んでいきたい。続く限り。


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