群青竜騎士

 中途半端に発達した科学は、機器や材料のいらない魔法にはまだ及ばないにしても、そうした機器や材料さえあれば、魔法の素養を必要としないくても魔法的なことができてしまう科学は、やはり捨て置くことはできない。そのどちらかに傾くのではなく、どちらも取り入れることによって世界は大きく発展していくのかもしれない。

 尾野灯による「群青の竜騎士1」(ヒーロー文庫)で舞台となっているのが、まさにそうした魔法がありながらも科学が育ち始めているという時代。扶桑という国の貴族の子弟ながら、国を出てテルミアという国の空軍に入り複葉機を飛ばしている結城文洋が、三都同盟という敵対勢力との交戦を続ける中、そんな敵対国のひとつでアリシア王国の貴族の家柄に生まれ、優れた魔法の力を持ったレオナ・セプテントリオンという少女と出会う。

 赤水晶を媒介に発動させる炎の風の魔法にかけては、アリシア王国でも名高いセプテントリオンの家系だったものの今では家は没落し、クラウスという執事を伴い弟のルネとどうにか家名を保っている。そんな状況に置かれたレオナは、国に戦いを求められれば嫌とはいえず、まだ少女といった身でありながら戦場へと出向いて最前線に立ち、1度は文洋と対峙して魔法の力を見せつける。

 その戦いではいったん離ればなれになったものの、続く戦いでレオナはとされててしまう。責めてきた三都同盟の船に対してテルミアを守護する竜が怒り、向かってくる敵を粉砕したためいったん休戦となった。その戦いで落とされたレオナは、偶然にも文洋が暮らすアパートの大家で長命のエルフ、ローラに拾われていた。

 休戦になったからといてレオナは敵国の人間で、大手を振って本国に戻る訳にはいかなかった。そもそも故国で策謀に巻き込まれ、戦場へと放り出された身では戻っても居場所はなかった。気がかりなのは弟のルネが今も故国に残って権力者から圧迫を受けていること。それをレオナから聞かされた文洋は、知人で貴族で軍人の男の助けも借りて敵国に乗り込み、レオナの弟を救出いようと動き出す。

 そのために必要となるのがレオナの身分。なんと文洋はエルフのローラと結婚し、レオナを養女に迎えることでパスを取得してしまった。何と大胆で、そして羨ましい大技。政略結婚で偽装結婚にも近いやり口でありながら、それが進んでしまうところが毎回の連載の中で常に驚きの展開を入れ、読者を引きつけようとしているネット小説から生まれた作品ならではの特色なかもしれない。

 もちろんローラ自身が文洋に強く関心を抱いて、偽装ならぬ真実の結婚を求めたのかもしれないけれど。とは言え、見た目は若くても実際は結構な年齢で、なおかつずっとそんな容姿が続くローラが、いつかは老いて死んでしまう人間の文洋を夫に迎える心情を想像すると切なさが浮かぶ。見送る悲しみはあるだろうし、文洋に自分を置いて逝かなくてはらなない寂しさを味わわせる悔しさもあるだろう。

 それでも一緒になったのはレオナを助けたいという意識が強かったから。そう思いたい。そして、文洋自身に対しても年の差を気にせず、寿命の差を超えてでも連れ添いたいという思いがあったのかもしれない。いったい文洋の何がローラを引きつけたのか? 強くても恋愛には疎い朴念仁のお坊ちゃま。けれども男気は強くて実直。そんな人間に人は、女性は惹かれるものなのかも。

 文洋の配下に入ったダークエルフの女性で、飛行機乗りで敵を惨殺することも厭わないラディアからも惚れられてしまうあたりに、日本男児的な雰囲気を持った文洋の実直で真っ直ぐな気質がもたらす効果が伺える。

 潜入からレオナの執事のクラウスを助けよとする戦いがあり、そして脱出という冒険を経てもルネは連れ出せず、文洋自身にもレオナが大事にしていた祖父から受け継いだスレイプニールという魔法で飛ぶ乗り物に乗って戻ってきたことからスパイの疑いがかけられる。情報部の拷問にも似た仕打ちの中でさしのべられた意外な手。それを知ってなおのこと、ローラとの婚姻が持つ意味の凄さが感じられる。

 スレイプニールが戦いの中で傷ついたのを見て涙ぐむレオナのいたいけさ。それを見て敵国の機体ながらも絶対に直してやると盛り上がる整備士たちの心根の良さ。感じ入るシーンも多いストーリーや、来たる凄まじい最終決戦を経て一端の決着を迎える。戦いの火種は未だくすぶり、死んだと教えられた姉レオナの仇だと文洋たちを弟のルネが狙う可能性も示唆される中、ストーリーはどこへと向かうのか。先を想像すると楽しい1冊。続きを待ちたい。


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