代償のギルタオン

 哀しみを乗り越えて進む程度の強さでは、集英社スーパーダッシュ小説新人賞で優秀賞となった神高槍矢の「代償のギルタオン」(集英社スーパーダッシュ文庫、600円)は、きっと受け入れることができないだろう。哀しみを心に深く刻みつけて決して忘れず、世界を向こうに回しても絶対に引かない壮絶な強さがなければ、この「代償のギルタオン」を読んだら挫けてしまうだろう。

 代償で動く超兵器を巡る物語。読み終えた人のきっと全員が慟哭に咽び、憤怒に呻いて叫ぶだろう。どうしてそうなったのだと。どうしてそうしなくてはいけなかったのだと。憤りは書いた作者にまで及んで、目にしたらその胸ぐらをつかんでなぜだ、どうしてだと聞きたくなる。それほどまでに凄まじい物語だ。

 ギルタオン。それは巨大な人型をした兵器。誰が作ったのかも、いつごろ作られたのかも分からない。古代人なのか宇宙人なのか。ロボットなのか生命体なのか。見ても調べても何も分からない、謎しかない存在だったけれど、ただひとつ、ギルタオンが年若い少年や少女を搭乗者にして、強大な力を発揮する兵器になることだけは分かっていた。

 そして発掘が始まり、奪い合いが始まって戦争が始まった。ラーンハイムとリオンザイルという2つの大国が、遺跡に眠るギルタオンの発見と発掘にしのぎを削り、そしてギルタオンの奪い合いと潰し合いに血道を上げる過程で、人々の暮らしは切迫して貧しさを増し、老いも若きも誰も彼もが明日をもしれない運命に喘いでいた。

 ライクという少年をまん中に、姉のヤシャナと妹のミコも、ラーンハイムにあるルトニザーノという街で苦労しながら毎日を生きていた。それでも日々増す治安の悪化に、3人は比較的安全で仕事もあるだろう首都ランドフェルドへと向かおうと決めた。偽造の切符を1枚だけ買い、それでヤシャナが列車に乗り込み、飛び乗ったライクが何食わぬ顔で加わり、ミコは荷物の中で我慢しながらランドフェルドへと到着するのを待ちわびていた。

 希望があった。3人で生きていけるという希望だけがライクやヤシャナ、幼いミコの心にはあった。それが底知れない絶望へと変わる。

 何者かが列車を攻撃して来た。近くを飛行していたラーンハイムの軍艦ヘルヴィータが救出に来てくれたまでは良かったけれど、敵の攻撃は止まず続いて、ライクやヤシャナ、ミコたちは心休まらない時間を過ごす。ヘルヴィータは究極兵器のギルタオンも搭載していて、2人のパイロットが襲ってくる敵を迎え撃つ。

 それでもジリジリと追いつめられ、もはやこれまでという段階で軍人が、列車に乗っていたところを救われ、ヘルヴィータに乗り合わせたライクたち少年少女たちに迫った。ギルタオンに乗れと。そうしなければ誰も生き延びられないことは明白だった。だからといってすぐにイエスとは言えない気持ちが誰にもあった。

 代償。それがギルタオンに乗るパイロットに求められた。人間の強い執着を糧にするかのように奪い喰らって、ギルタオンは強大な力を発揮した。策敵能力に優れたギルタオン「ワイズマーレ」に乗るミルリーチという少女は、ギルタオンに乗れば乗るほど視力を失っていった。何でも喰らい、飲み込む力を振るう「オルタロット」を駆るグラカリムの舌は、どんな味も感じなくなっていた。

 ひとつひとつが違う代償を求めるギルタオン。その発掘されたばかりの機体を目前にして軍人は求めた。とてつもない代償を。かけがえのない代償を。そして起こった悲劇を前に、誰もが驚きを感じ、憤りを覚えて血の涙を振り絞ることにる。凄絶にして残酷。だからこそ胸をえぐる問いかけがある。

 正義とは何だ? 幸せとはどういうことだ? 世界が平和であることより、家族がしっかりと手を取り合って生きていける方が良いに決まっている。誰かを失ってまで手に入れた平和に何の意味もない。そう言いたい。そう訴えたい。けれども、世界がそんな幸せを認めないなら、社会なんてなくても良い。そう叫びたくなる。

 冒頭で示唆され、巻末で示された世界より家族を選ぶ生き様に、もはや誰も異論をとなえられない。そのとおりだとしか言いようがない。それでも訴えたい。どちらかを選ぶしかなかったその運命を、どちらも選べるようにはできなかったのかと。だから願う。救済を。導きを。物語が続いていった先にそれが得られるのなら、何かを犠牲にしても構わないとすら思う。心底からそう思う。


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