ゴシック
Gosick

 ミステリーとは唄っていながら、スリラーにファンタジーといった作品も交じって同じ富士見のファンタジア文庫とどう区別すれば良いのか、悩ましい富士見ミステリー文庫だけど、桜庭一樹の新作にして新シリーズの「ゴシック」(富士見書房、600円)は、シャーロック・ホームズばりに鋭い観察眼でもって、起こる事件の真実を見極める美少女を主役に据えた物語で、同じレーベルの本の中でもトップクラスに真っ向からの謎解きを楽しませてくれる。さすがは「米子東高校硬式庭球部最後のブルマ隊」といった所か。これが何を意味するのかは後書きで。

 時代は1910年代のソヴュールという欧州にある小さな国。そこに建つ聖マルグリット学園に日本から留学して来た軍人の三男坊、九城一弥は何の因果か、図書館のある塔の最上階にひとり住む妖精のような見かけをしながらも、口を開けば悪口雑言罵詈雑言の限りを尽くして一弥のトロさをなじり、彼から不思議な事件を聴いては即座に合理的な理由を挙げて謎を解いてしまう少女ヴィクトリカの相手をする羽目となり、今日も教師から預かった連絡事項を持って、塔へと上がってはやっぱりヴィクトリカに虐められていた。

 そんな所にやって来たのが、格好ばかりつけてる癖に中身の方はからっきし。ヴィクトリカの謎解きをあたかも自分が考えたものとしてパクっては、手柄にしてしまうヴィール・ド・ブロワ警部。村で起こった占い師の老婆が射殺された事件を話すブロワ警部の言葉から、即座に犯人を言い当ててしまう。ところがそれは一件落着ではなく、すべての始まりだった。

 事件を解決してくれた礼として、ブロワ警部に贈られたクルージング船の中から見つかった招待状を手にとって、一弥とヴィクトリカの2人は殺された占い師が誘われていたという、客船でのクルージングに代わりに出向く。そして2人はそこで世にも恐ろしい経験をすることになる。このあたりで読む人はオカルティックな印象を作品に持つかもしれない。けれどもご安心、徹頭徹尾に本格的なミステリーとなっているから。

 例えば人が狙ったように殺され、さっきまでいた部屋が次の瞬間にボロボロになってしまうシチュエーション。幽霊船ともマリー・セトレス号ともとれる怪奇と幻想を想起させられ展開だが、それらのことごとくをヴィクトリカは合理的に解決してしまう。加えて繊細な心根も持ち合わせていて、向こう見ずにも危地へと飛び込もうとしていた一弥を巧みな言葉と行動で、安全な場所へと誘い救い出す冴えも見せてくれる。

 顔はビスクドールのよーに可愛らしく、なのに性格は我が儘で考える時とかは手にパイプを持ってタバコをふかす大人びた所もあるヴィクトリカの、突き抜けたキャラがいかにもと言えばいかにも過ぎるけど、エンディング近くで示される、彼女が塔にずっといる理由あたりから、その特異な性格にはいろいろ裏がありそうで、これから続くかもしれないシリーズにどう描かれるのか期待もかかる。あるいは誰かに悲劇の起こる、恐ろしくて哀しい話になるかもしれないけれど、それも運命と受け入れる心構えをして続きを待とう。後書きではコワモテのナースで金色のブラジャーをしている通称「ザ・ゴールデンブラジャー」の話を是非に。


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