「ご破算」で願いましては。
 <地獄の相続・借金苦・自宅競売からのサバイバル!!>

 前に確かロフトプラスワンのトークライブで、久美沙織が登場した時のゲストとして登壇した少女小説界の女王、花井愛子が、「小説を1万部も刷ってくれない」「遺産相続で揉めててお金がない」「自己破産したくても手続きのお金がない」といった感じで昨今の窮状を訴えていたのを聞いた記憶があって、その時の話をさらに詳しく書いた「『ご破産』で願いましては。」(小学館文庫、533円)の満を持しての登場に、何が花井愛子に起こったのかを知るには最適と思って手に取って読む。

 一説にはアイドルに貢いでいただとか、宗教に走っていただとかいった噂も流れた花井愛子。その真相は、なるほど少女小説でピーク時には月1000万円(!)の印税収入を得ていた花井愛子、使わない分を父親名義だかにしておいたのが後に大問題へと発展して、父親の死去に伴う遺産相続時に自分以外にも相続の権利を主張する人が現れスッタモンダの大バトルが勃発。かくしてお金が動かせなくなったところに、出版業界に吹く不況の嵐がかつての女王の発行部数も激減させて、日々の生活にも困るくらいの状況になったってのは事実らしい。

 もっとも本を読むとすでに凍結は解除されていて、いささか大きな金額を持っていかれはしたものの、まだまだそれなりな額を取り戻せたらしい話が書いてある。だったら何でトークライブの時に自己破産まで考えるくらいに来ているけれど手続きのためのお金が払えないんで自己破産すら出来ないってなことを言っていたんだろうと思ってよく読むと、なるほどかつての少女小説の女王にも今はそれほどの需要がない上に、稼いだお金であちらこちらに不動産をローンで購入していた反動が加わって、相続のゴタゴタから取り戻した金額ではとても足りないローンを返さなくてはならない事態になっていたらしい。

 つまりはバブル崩壊の影響モロ受けって奴で、その意味では非道な親戚の企みに陥れられた全面的な被害者って訳ではないのかもしれないけれど、例のゴタゴタの期間にまるっきり仕事ができなくなったことが、印税前借りとなって後に原稿を半ば借金のカタとして入れるサイクルを産み、内容を荒れさせて後の人気退潮につながって、ペースさえきっちりと保っていれば返せた借金が返せなくなったと言えないこともないだけに、単純にバブルに乗せられただけだと判断するのも難しい。もっとも

 現時点でもすべてが片づいた訳じゃなく、競売にかけられてしまった自宅(とはもう言えないのかな)マンションから追い出される恐怖に脅える日々ってのもなかなかにシビアで、「死なずに済めばいいのですが……」という言葉がまるで冗談に聞こえない。突然の両親の死といい、失ってしまう仕事といい、ストレスの溜まりすぎによって起こった神経的なダメージといい、人が生きて行く上でいつ直面するかもしれない困難を、自らの恥も含めてさらけ出した覚悟の1冊だと言える。金額の多寡こそあれど、いつ何時ふりかかってこないとは言えないだけに、都会の独り暮らしな人にとっては読んで結構身につまされる。

 某週刊誌のコラムで描き続けられる現役「借金の女王」の、だからと言って今も変わらない散財ぶりがエンターテインメントにすら見えて来るほど過酷にして辛辣、自虐にして自戒の書。借金完済には焼け石に水かもしれないけれど、これが売れまくれば「死なずに済」んで続きも読める訳で、かつての花井ファンも含めて是非とも応援を。家族に連なる花井家の猫たちのためにも。


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