ジェンダー 記憶の淵から
展覧会名:ジェンダー 記憶の淵から
会場:東京都写真美術館
日時:1996年9月8日
入場料:600円



 ヒロミックスとか長島有里枝とか、元気のいい女性(少女、かな)写真家たちがいっぱい出てきて、雑誌なんかのグラビアをどーんと撮ってたりするのを見て、苦節ン10年、エライ先生の下で修行を重ねてようやくカメラを持たせてもらえるようになった、日芸とか写真専門学校とかを出た兄ちゃんたちが、ギリギリしているのだとか。気持ちは解らないわけでもないけれど、実際ヒロミックスの写真って気持ちイイからねえ。カットとか色とか被写体の表情とかみいんな。コニカビッグミニで撮って近所のDPEに出して、こんな色が出せるのかねーって、ホントいつも思っちゃう。実はヒロミックス神話のために、何人もの影武者がいてコッソリとパトローネを入れ換えて、現像とかプリントもプロのスタジオでやってたりして。いやこれはほんの冗談。女性だからとか新人だからとかコンパクトカメラで撮ってるとかいった「雑音」を消去しても、ヒロミックスの写真はそれだけで立派に通用します。

 東京都写真美術館でやってた「ジェンダー 記憶の淵から」って、どうも女性写真家の作品を集めた展覧会らしいじゃない。話題のヒロミックスとか長島有里枝とかも出展してるんじゃないかって思ってのぞきにいったら、全然違ってた。すっげーマジな展覧会。なんせ「ジェンダー(社会的性差)」ってタイトルが入ってる展覧会だもん。女性が撮った写真なら、みいんな「ジェンダー(社会文化的性差)」を感じさせる作品になるってわけじゃなくって、やっぱりそこに性の違いによる抑圧だとか反映されていないと、「ジェンダー」って看板がかけられた展覧会には入れてもらえないみたい。確かに女性の歴史って、抑圧とか差別とかと切り放せないけど、でもあえてそうした側面だけを取り出して、1つの展覧会にしてしまうのって、なんだかよほどか差別的じゃないかって思ってしまう。差別し虐げてきた男の側からこう言い出すのって、酷く傲慢なのかもしれないけど。

 実際に展覧会を見てみて、「ジェンダー」なんて看板つけなくたって、人間としての尊厳に訴えてかけくる写真が多かったような気がする。アフリカから移住してきた人達の写真を赤と黒のモノクロ(っていうのかな)でプリントしたトリン・T.ハンミ作品群は、男とか女とかって差なんかじゃなく、人と人との間で生じた差の方が問題にされてたようで、自分たちの先祖(人間としての先祖という意味もある)が行ってきた同類へのいわれのなき抑圧や差別を、短い言葉と合わせて鋭く糾弾していた。

 それからハンナ・ウィルケって人の作品は、ガンにむしばまれた自らの肉体を、体に突き刺さったカテーテルや血の滲むガーゼ、放射線治療で抜け落ちてしまった毛髪なんかを含めてカメラの前にさらけだしていて、人が人として生きていくことの尊厳とか、肉体が病魔によって衰えていくことの無常観とかを、おのが肉体をもって訴えかけていた。このハンナ・ウィケって人は、20代から30代の頃は美しかった肉体をカメラ前にさらけ出したセルフ・ポートレートで一世を風靡して、時にはナルシスティックだとか批判も受けた人らしい。会場にはそんな頃のポートレートも飾ってあったけど、年齢とともに脂肪のついたありのままの肉体、それも病気で衰えていく一方の肉体を強い精神力でさらけ出した写真群といっしょに並んでいると、そんな意図はなかったのだとしても、作品を選んで展示させた人の差別意識みたいなものをうかがわせてくれて、ちょっとイヤになった。

 中国人の女性として文化大革命をくぐり抜けた芸術家の劉虹の作品とか、太った女性だけを撮影して原始の美を追求し人工の美だけを求める社会を糾弾するローリー・トビー・エディソンとかの写真にも、自信に強くかかわるジェンダーが表現されていて、見ていて感心した。あと、朝日新聞が主催だからっていうわけではないんだろうけど、従軍慰安婦の写真を戦時中に「産めよ増やせよ」ってのかけ声のもとで戦争の翼賛に使われた日本の女性の写真と交互に並べた写真集なんかがあって、ふーんと思った。「私たちってこんなに酷い目にあいました」って方法論は有効だし、酷い目に会わせた人達は反省しなくちゃいけない。でもやっぱり、今現実にある「ジェンダー」を顕在化させる写真の方に目が向いてしまう。これって過去からの「逃避」に過ぎないんだろうか。

 しっかし東京都写真美術館のある恵比寿ガーデンプレイスは若い女の子たちでいっぱい。男との子も男の大人もたくさんいたけれど、根が助平だからどうしてもベンチで足組んでマックかなんっかをほおばっている女の子の方に目がいってしまう。日曜に1人でこんなとこウロウロしてるのって、ヘンタイじゃないって目で見られているような気がして(被害妄想だよ)、差別だよジェンダーだよって大声で叫びだしたくなった。だったら平日にいけばいいじゃないって。いや、まあ、目の保養って言葉もあるし・・・・。やっぱり助平だ。
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