デュアル・イレイザー

 昔で言うなら「プラレス三四郎」で、今ならさしずめ「ダンボール戦機」か。折口良乃の「デュアル・イレイザー」(電撃文庫)は、プラモデルよりはもう少し精巧なロボットをステージにセットした上で、カプセル型の筐体に入ってコックピットに座ると、あたかも自分がそのロボットを操縦しているような感覚で、ロボットどうしのバトルを楽しめるというゲーム、デュアル・イレイザーが実現した世界が舞台。

 決して強くはない2人組のうちのひとり、東城刀雅がその日もゲームを終えて見渡すと、プレーヤーとして名前が出始めてからずっと連勝を重ね、すぐに日本屈指のプレーヤーとなっていた如月紀沙羅が現れ、その時間帯だけ自分専用となった筐体に入って、相変わらずの勝ち星を積み重ねていた。もっとも、本来は2人で動かすのが基本のデュアル・イレイザーを、なぜか彼女はたった1人で戦っていた。それは天才だからという理由とは別に、誰かのせいで自分は負ける訳にはいかないという理由があった。

 ゲームのデュアル・イレイザーを開発したのは、紀沙羅の母親で天才科学者のレイラ・キサラギ。革新的な技術が使われているそのゲームを見て、よからぬことを企む勢力が現れ、まだ幼かった紀沙羅を誘拐してレイラ博士に技術を寄越せと要求してきた。官憲の働きで紀沙羅は無事に奪還されたものの、その際に紀沙羅は、排除された教団の教祖によって、デュアル・イレイザーで負けた時は死ぬ時だという強迫観念を、心に植え付けられていた。

 だから負けられないという強い気持と、持ち前の天性で今は勝ち続けている紀沙羅。とおろが、そこに宗教団体の後をついだカイという名の少年が現れ、紀沙羅に強いプレッシャーをかける。自分と戦って敗れるも良し。拒絶しても恐怖から操縦を間違えれば結果は同じ。だから紀沙羅はカイの挑戦を決して受けようとはしない。

 精神的なプレッシャーに加え、実際的な暴力にも及ぼうとしてみせたカイだったけれど、そこに刀雅が通りかかって紀沙羅を助け、そのついでに紀沙羅を護っていた竜胆さんという美女のボディーガードから頼まれて、刀雅は紀沙羅の身辺を警護することになり、延長でペアも組んでデュアル・イレイザーを戦うようになる。

 そこで紀沙羅は、刀雅には一切の操縦をさせないようにしていたし、実際、刀雅が触れない方がかえって紀沙羅の天才が発揮されて、どんな敵にも触れさせないで勝利をおさめ続ける。もっとも、そこは直情径行気味な脳筋野郎の刀雅だけあって、勝手に操縦パネルに触って紀沙羅の愛機<薄花桜>を動かしては彼女に怒られ、それどころか危機にすら陥れる。

 どうにも鬱陶しいキャラクター。なんとも暑苦しいキャラクター。そう思わされることも多々ある刀雅だけれど、紀沙羅ではできない戦い方が求められた時に、ずっと武道をやっていた刀雅の経験が発揮され、互いを補うような戦いぶりを見せる。人間、なにかしら取り柄があるものだ。とはいえ、最初に刀雅が余計なことをしなければ、そうした力が発揮されることもなかったかもしれないと思うと、やっぱり鬱陶しいことこの上ない奴なんだろう、東城刀雅は。

 紀沙羅たちをライバル視する陵岬と安曇野あずさという少女2人デュアル・イレイザー選手たちが、挑発されてカイと戦い、反則を平気で繰り出す彼のイレイザーによって愛機を奪われたのを奪還しようと、紀沙羅が嫌がっていたカイとの戦いに乗り出す展開。以前だったらわれ関せずとばかりに己のことをのみ、考えていただろう紀沙羅が、他人のために動くようになったのは、そうした刀雅とのコミュニケーションを経たからなのか。人間らしさを見せるのは良いことだけれど、天然が消えてしまうのは少しもったいない気もしないでもない。それ以上に孤高ゆえの絶対の強さが消えてしまうのも残念だ。

 だからといってもう戻れない。人は変わり世界は動く。そうなった後で果たしていったい紀沙羅はどう戦い、そして刀雅はどう成長していくのか。ひとまずついた決着のその先に、再起をかけるカイとの再戦へと向かうのか、それともより強力な敵と遭遇するのか。トラウマ克服のためにカイと共闘するといった展開も可能か。楽しみにしたい。

 トーンとして、やはり漫画やテレビアニに先行されてるアイディアであり、無口で感情が希薄な美少女に直情径行で熱血の男子といったキャラクターの配置もやや類型的。全体として浮かぶ既視感だけれど、それはすなわち誰からも関心を持たれているジャンルであり設定ということの現れ。読んで楽しく面白いならそれで良し、ということで。


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