ドリーズパーティー
DOLLY’S PARTY VOL.1

 眼鏡で。巨乳で。女医で。たぶんS。

 それだけで“大正解”だと、朱印を押したくなる上に、メーンとして繰り出されるネタはさらに強力。出たばかりにして殿堂入りを確約された作品だと、山本和生の「ドリーズパーティー VOL.1」(少年画報社600円を断言して、誰にはばかることはない。

 表紙を見て浮かぶのは、平野耕太の「ヘルシング」に連なる作品といった印象。ページを開いて冒頭を読んでも、アウトローたちが銃器を振りまわし、暴力を振るう世界観の中で、強気の美女が活躍するシチュエーションが、最強の吸血鬼アーカードを従え、怪物たちを蹴散らす「ヘルシング」でのインテグラを類推させる。眼鏡だし。

 もっとも、アーカードのような超越的な強者が主役となって、群がる敵を相手に圧巻の戦いぶりを見せる物語へとは、「ドリーズパーティー」は現時点では向かわない。まず登場するのはひとりの女医。名をドリー・シロマという彼女が、荒くれ者たちの大勢いる街に開いている診療所には、どう見ても真っ当に見えない奴らが治療を受けにやって来る。

 それはドリー・シロマの腕を見込んでものも。腕がちぎれても、代わりに役立つドリルを取り付けてくれるし、全身に火傷を負ったアイドルも、見た目は前のまま、胸だけ大きめにして治して感謝される。そりゃあ感謝されるよな。

 とてつもない名医。それがどうして荒くれ者たちを相手に、闇商売をしているのかは謎めくものの、それはいずれ明かされるとして、次に登場するアーロンという名の患者によって、物語は前へと進み始める。全身を包帯で縛り頭からマントを被ったその患者をチラリと見て、ドリー・シロマは治る確率0%の病気に罹っていると判断し、別の患者を優先しようとしていたその時。

 現れた3人組が、高い診療台を吹きかける診療所にあるだろう金を狙って暴れ始める。マントを被った男は真っ先に心臓を撃ち抜かれて絶命、したはずだったのに3人組が暴れている最中に復活し、再び銃弾を喰らっても倒れず、手にした剣をふるって3人組を叩き伏せ、そして女医に治療を懇願する。

 ドリー・シロマによる見立てでは、マントの男は全身が腐敗して崩れ落ちるまでは、死ぬに死ねない病気に罹っていて、完治は絶対にあり得なかった。それでも荒れる現場を収めようとした心意気に免じたか、あるいは別に思惑があったか、マントの男にとある方法で延命治療を施そうとする。何でも良いから生きたいと願い、何をされても後悔しないと約束して、治療を受け入れた男が眠り目を覚ました時。男の世界は大きく変わっていた。というより男の世界ですらなくなっていた。

 そこから「ドリーズパーティー」では、弓月光の「ボクの初体験」やら秋本治「Mr.Clice」やらロバート・A・ハインライン「悪徳なんかこわくない」やらと、挙げれば前例の多々ある設定が繰り出され、お約束とも言えそうなエピソードが展開されて、そうした方面への興味と志向を抱く者たちを楽しませる。

 どうやら前は精鋭中の精鋭と言われる帝国剣護兵(インペリアルオーダー)の一員として刀を振るっていたアーロン。猛者でも腕1本で軽くひねる強さを保持しながらも、低くなってしまった背丈でドリー・シロマに取り上げられた刀を取り戻そうとぴょんぴょん跳ね、足にすがりついてすすり泣く姿から醸し出されるギャップが、哀切さを誘い愛着を生む。

 そんなアーロンとドリー・シロマの状況を、周囲で見ているのが最初にアーロンを襲った3人組。良い機会だからを荒事から足を洗ってドリー・シロマの手伝いをしながら、時にアーロンをからかいつつ、危機に現れ救ってくれるアーロンの心情に心を揺らされ親近感を抱いていく。泥の中からでも生まれる友情の美しさを、とくとご覧あれ。

 まずは中身と外見とのギャップが生みだすおかしさを誘いつつ、頑張るアーロンの姿に同情させつつ、格闘するナースのビジュアルの麗しさなり、血が飛び散り肉がひしゃげるバイオレンスの迫力なりを堪能させるエンターテインメントとして巻末まで来た「ドリーズパーティー VOL.1」。そのラストでアーロンの正体が来訪者によって指摘され、書き下ろしの特別編で新たな展開も示された先に待つのはいったい何か。

 アーロンを狙う勢力の登場に、ドリー・シロマと仲間たちが立ち向かっていくアクションか。アーロンを病にしてドリー・シロマの元へと赴かせ、肉体を変じさせた陰謀との対峙か。待合室のアーロンを一目見て何かを感じ、その証でもある刀を最初はアーロンから取り上げようとし、やがて転じて別の短刀とともに持たせたドリー・シロマに何か思惑があるのか。そもそもドリー・シロマとは何者なのか。

 想像すれば浮かぶさまざまな展開が、そのまま繰り出されても良し。しばらくはドタバタとした日常の中、眼鏡で巨乳で女医のSぶりが発揮されるだけでも良し。いずれにしても絵で見て楽しく、物語として読んで面白い漫画であることに間違いはない。今はただ作品としてこれが続いていくことを願い、新たなエピソードを収めた続刊が出る日を待ちわびよう。


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