クラブクライム
CLUBCRIME

 箱を開けると中にはお腹を割かれて目を見開いたまま息絶えた猫の死体。添えられたメモには一言「どう?」。こんなシュールなシチュエーションを、普通一般の人なら「ストーカー」の被害に遭っているものと認識したって不思議じゃない。事実、凛野ミキのコミック「クラブクライム」(発行・一賽舎、発売・スタジオDNA、552円)の冒頭に登場するこのシチュエーションで、主人公の少年・境大は即座にストーカーだと認識して、驚き慌てて家の中へととって返して両親に対策を訴えた。

 なにしろしばらく前から850通ものメールが一度に届いたり、ファクシミリにやっぱり「どう?」と書かれた紙が延々と届いたりと、ストーカーとしか言いようのない現象が幾つも周りで起こっていたから、トドメとばかりに届いた猫の死体に「どう?」の紙切れなんて極めつけの贈り物に、大が家を飛び出しどこかへ逃げ出したくなったのも不思議はない。

 そこで父親の遠い遠い伝を頼って、山奥にあるセキュリティ管理が行き届いているという触れ込みの、「世淵学園」へと転校することになった大だったけど、偶然にもストーカーに絡まれていた美少女・赤池綺瑠に出会い、彼女を助けついでにほのかな恋心を抱く。そんな聞くもありがちなイントロに、先への興味を失いかけたその矢先、部活動の入部先を探していた大の目の前に、胴体を袈裟斬りにされて息絶えた女生徒が転がっている場面が描かれギョッツとさせられる

 死体の横には落ちた鞄からCDを抜き取っている少女。もしかして彼女が犯人? そう思ったのも束の間、逃げようとするした少女の頭を、美少女のふりまわすトゲ付き鉄球が粉砕する。いったいなにごとが起こったの? 目の前に現れた鉄球美少女の顔に大は驚愕し、さらに彼女こそが大に散々”愛情”たっぷりのメッセージを贈って来た人物だったと知って、大が思い描いていたバラ色の学園生活は、一気に血塗られたスプラッタなものへと突き進んでいく。

 鉄球美少女にしてストーカーの正体とは? なんてことは言わずもがなだから本編を読んで頂くとして以後、大は世淵学園に存在する、部活動をサボる者に対して死の制裁を加える「部活動管理調整部」、通称「サツケン(殺人鬼研究会)」に無理矢理引っ張り込まれ、美声年ながら性格は幼児な呉部、自殺願望があっていつも死に方を考えている別府、覆面姿で金にうるさい占い師といったと面々と、いやいやながらも部活動に励むことになる。

 いかにもラブコメといった雰囲気の物語に、逃げる少女の頭が粉砕されるとか、カラオケボックスの一室を乗っ取るために先客が全員殴られ斬られ血の海に沈ませられるとかいったスプラッタな描写が唐突に挟まって、シュールに迫ってくる様が読む人をあっと言わせる。帯の占い師の言葉ではないけれど、表紙の可愛い美少女に期待して確実に読むと裏切られる。それが良い意味なのか悪い意味なのかは人によるかもしれないけれど。

 悩ましいのは冒頭数話で繰り広げられる理不尽にしてシュールな血みどろの展開が、話数を重ねるに連れて月並み、でもないけれど想定範囲内の一風変わったラブコメに収まってしまって来ている点。一方でスプラッタさが後退するのと入れ替わるように、大に対して理不尽きわまりない仕打ちをする大の両親のキャラクターが存在感を増していて、これはこれで面白い。

 なにしろ届けられた猫の死体に驚き慌てず「おや、これはご丁寧に」と礼をいう父親に、せっかくの贈り物だからと慈愛を込めてキッチンで取り扱う母親だ。以後も大をいなくなった存在、というより元からいなかった存在として無視するわ逃げるわといじくり倒す、そのひょうきんさは見ていて飽きず、次ぎにどんな方法を使って大を嘆かせるのかと期待もふくらむ。

 ただやっぱり、絵柄に似合わないスプラッタさがあってこその「クラブクライム」だし、そんな作品の核となっていた未だかつてないヒロインをただの乱暴者へと押し込めてしまうのは勿体ない。作者には是非に本来の「サツケン」としての、全部自前で作り上げた屍を乗り越え血の海を泳ぎながら進む活動が主体の物語を、全編ではくどいだろうから少しは織り交ぜて頂きたいもの。飛び散る脳漿を今ふたたび。


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