探偵はぼっちじゃない

 15歳の時に書いた作品で応募して、見事に第21回ボイルドエッグズ新人賞を受賞した坪田侑也の「探偵はぼっちじゃない」(KADOKAWA、1600円)が、とても15歳が書いたものだとは思えないといった噂に違わず、本当に15歳が書いたものとは思えないくらい凄かった。そして誰が幾つで書いたかは関係なしに素晴らしかった。

 緑川という名の、高校受験を控えた中学3年生の男子は、勉強をしろ、良い高校に行けと言う親からのプレッシャーもあってか日々に倦んでいる。学校経営者の息子という原口は、御曹司の暇つぶしめいたものだと思われることを承知で、その中学校の新米教師となり、熱血を試みるも空回りしている。そんな2人の学校での日々を交互に描きつつ、緑川が求められて書くことになった1本の小説が綴られていく、というのが「探偵はぼっちじゃない」のおおまかな構成だ。

 緑川が長野の小学校にいたころに、図書室で小説を書いていたことを知っている同級生が、長野を離れて今、緑川が通っている中学に偶然いた。星野温というその同級生が、緑川に学園祭の舞台にかける物語のために、いっしょに小説を書こうと誘って来た。

 緑川には、星野が同じクラスにいたという記憶がなかったけれど、それでも求められたことを嬉しく思ったか、星野の誘いを緑川は受け、美術部のモザイクアートが密室の中で消えてしまうといった学園ミステリを2人で書き始める。

 そうしたエピソードの一方で、新米教師の原口は、石坂というベテランと共に教頭からマラソンコースの選定をしろと命じられる。原口は御曹司なのに現場をかき回すこと、石坂は他の教師とあまりコミュニケーションをとろうとしなくなったことを疎んじられるのか。そんな可能性も勘案しつつ、一緒になったことで会話を始めた原口と石坂の間にある問題が浮かび上がる。

 2人は、特に過去にいろいろあったらしい石坂は、教師として絶対に認めがたいある行為を阻むことに挑もうとする。「探偵はぼっちじゃない」は、そんな2つのエピソードが並行して走るストーリーに、学園での密室での消失事件を描く緑川らの小説が挟まれる。

 驚くのは、緑川が星野と書いた作中作の小説が、しっかりと学園ミステリになっている点だ。トリックめいたものへの考察があって、驚かされる真相があってと、抜き出しても学園ミステリの1章として成立しそう。キャラクターが突飛ではないところでライトノベルミステリとしては弱いかもしれないけれど、そこは修正すればいくらでもライトミステリに寄せられる。そういう依頼をして、1冊に仕立てようとする編集者がいても不思議はない。

 もっとも、緑川は星野から時折出される修正、たとえばとあるキャラクターの頭が良すぎるから変えられないかといった求めを認めようとはしない。自分が造形したキャラクターたちにこだわっている。そこに書き手としてキャラクターに込めたかった心理があったのかもしれない。だからこそそうした心情が浮かび上がって、緑川の絶望にも似た決断へと向かっていく。

 そこに重なる原口らのある問題への探索。誰がいったい問題を起こそうとしているのか。明らかになる真相の意外な着地に驚かされる。その解決で、教師2人の頑張りが活かされたか、2人に救いはあったかが気になるところ。結局は説得は教師では間に合わなかった訳だから。

 とはいえ、彼らの探求で救われた部分もあるなら無駄ではなかった。何より教師も同級生もともに誰かを気にかけていたことが分かった。そうした気持があり続けるなら、人は不幸にならないと思わされた。

 そうした内容や展開に加え、大人の教師たちや司書の心理をしっかりと描けたところが15歳だからこそ凄いと言える。自分と近い15歳の青春は経験として描けても、大人は大人が読んで納得の姿に描くのは大変なものだから。そこもだから才能なのだろう。

 これからいったい坪田侑也はどういった作家になっていくのか。15歳だからこそ凄い内容は、20歳では凄くないということではない。誰がどの年に書いても読ませる内容になっている。けれども人は15歳の才能が20歳になった時の飛躍を期待してしまいがち。そこをどう凌いで自分ならではの、坪田侑也ならではの物語を紡いでいけるかが、若くしてデビューしてしまった作家には必要だろう。書き続けよう。どこまでも。どれだけれも。


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