国家魔導最終兵器少女アーク・ロウ

 小学館ガガガ文庫や講談社ラノベ文庫で主に書いていたツカサが、富士見ファンタジア文庫に初登場して出した「国家魔導最終兵器少女アーク・ロウ」(富士見ファンタジア文庫、580円)は、エルファレスという小国から、魔導に優れたフレアリアという国にある魔道学院に留学したエルク・リードという少年が主人公。

 出立に当たってエルクは、父母や妹に見送られ、長兄からも期待され、次兄からは皮肉を言われて来たけれど、今となっては軍事的に発達してしまったエルファレスが、魔導にだけ頼って時代遅れになりつつある中で、どこか不安定な立場に置かれていて、異国人が大嫌いらしい教師からも嫌みを言われる毎日だった。

 それでも、大貴族のルビーレッド家に連なるミラに次ぐ序列2番目の位置は確保し、学校ではそれなりにやっていたエルクだったけれど、ある夕暮れ、歩いていた街で同級生のミラが、ひとりの女性剣士と対峙しているところに行き会わせる。ミラが護送していた何かを奪おうとして襲ったらしく、魔術の力をうち消す何かを持った剣士にミラはかなわず追いつめられていく。

 そこに飛び込んだエルクも歯が立たず、ミラが殺されそうになったその時、運んでいた荷らしい箱の中から声が聞こえ、開いた箱の中から現れた13、4歳くらいの少女がエルクの味方となり、戦いを始めてその圧倒的なパワーで敵を退ける。スピネルと自らを名乗った少女はいったい何者? それは、エルファレスが持つという最強兵器の虚神ですら打ち破るという力を持った虚人(ドーレム)だった。

 本来だったらミラと交わすはずだった契約を横取りするような形となって、エルクはスピネルのマスターとなり、やがて本格的に始まったエルファレスによるフレアリアの侵攻に、エルクはスピネルと共に対峙することになる。

 その身分に秘密があるエルクにとって、エルファレスとの戦いは半ば骨肉の争いとも言えるもの。故郷に残した妹や、威厳のあった父、優しかった母、そして兄たちのことも気になりながら、それでも、というよりむしろそれ故にエルクは、エルファレスを絶対に打ち破ろうと決意する。

 エルクのプロフィール設定に妙味があり、本来だったら味方であるはずの側に裏切り者がいて、そして侵攻が始まろうとしていたりする謀略の仕掛けもありといった具合に、複雑で多層的な人間関係の上に成り立つドラマを楽しめる。

 スピネルという虚人は、エルクと常にくっついていないと魔力が供給されないため、裸でベッドに潜り込んできたり、ピタリと寄り添ったりとなかなか健気なところを見せる。とはいえそれは端から見れば相当なエロス。とりわけエルクにどこか気があるミラなり、エルクにとっては幼なじみにあたり、訳あって同じ学校に通うようになったイスカという剣士の少女なりの気持ちは揺れ動く。

 もっともエルクとスピネルの間はあくまで主従関係。むしろミラとイスカとの間に、エルクをめぐる火花が散っていきそう。どちらも強いだけに勝負は付きそうもないけれど。

 さらに、エルクがその本来の身分を示して決断した事態の先に、さらなる恋の火花が散りそうな問題があって先が気になるというか、未だ見ぬその存在にいったいどういう人物なんだろうかといった興味が浮かぶ。そんな関係性を噛みしめながらも、本筋として祖国を相手に異国に身を置き、仲間を集めながら戦わなくてはいけないエルクの冒険にも興味が尽きない。エルファレスからやって来て、虚神を操りフレアリアを襲った双子の少女を説得して味方に付けられるのか、といった辺りとか。

 そこを乗り越えても、先に現れる強敵を倒していけるのか。さらには本当の敵を相手にやっぱり強さを貫けるのか。クライマックスのその時まで、目が離せそうもないシリーズ。しっかりと続いて完結の時を迎えることを願って止まない。


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