あめのちはれ

 それは驚きと戸惑いの連続で、好奇心よりも怯えの方がややはり先に来るものらしい。男の子が女の子になってしまうという事態は。

 可愛らしい絵柄で、少年少女たちの日常をリリカルに紡で評判の漫画家、びっけの「あめのちはれ1」(エンターブレイン、620円)は、新しく始まった新学期に、名門男子校の雨谷学園に入った生徒たちに起こる、うらやましくも不思議な事件を描いた物語だ。

 雨谷学園には女子部もあって、男子校とは山上で背中合わせに建っていて、行き来するにはいったん校門を出て、アプローチの坂道を下の分岐点まで降りなくてはいけないから、飢えた男子が進入したり、逆に女子が彼氏を慕って男子校へと入りこんだりするようなことは起こらない。

 そんな雨谷学園に入学した生徒のうち、5人の男の子たちが入学式の終わったあとで、学校にしばらく残って見学して回っていたところに大きな落雷。停電して真っ暗になった教室でへたり込んで目を開けると、なぜか5人とも体が女の子になっていたから驚いた。

 これ幸いと体をなでまわし、ついているかを確認してみるのが従来のパターン。けれども雨谷学園の5人のうち、校舎内ですぐに合流した4人は、まずは校舎を出て、どうにかしようかと裏手の雑木林へと入りこむ。そこで、男子寮の寮監をしている春人に見つかってしまい、慌てず逃げないで事情を説明すると、不思議と春人も納得して、5人を部屋に招き入れてくれた。

 この理解の良さに何か裏があるのか、それとも4人のうちの寮生になった人間の名前を、寮の名簿で見知っていたから了解したのか。ともあれ4人は春人の世話になりつつ、翌朝になって戻っていた体で学校へと通い出す。ところが、ポツポツと雨が降り出してからしばらくして、5人とも再び体が変化してしまった。

 走り込む春人の部屋。そうやって変化を周囲に気取られないよう生活していった中で、5人は雨が降り出してから1時間ほど経って止まないと、そのまま女の子になってしまって以後、12時間ほどその姿が続くと知った。

 戻る前に雨が降り出すと再度の12時間が待っているから、授業に出るのもままならない。さらにもう1人、落雷直後には出会わなかったものの、男子寮に暮らしながら悩んでいた真城悠介という生徒にも、同じ現象が起こっていると知って仲間に引き込み、都合5人が不思議な体質を隠しながら、男子の時は男子校で学び、女子になった時は女子部へと通って授業を受けるようになった。

 基本的に女子だけが異能の持ち主に変身して戦いを繰り広げる中に、男子としてひとり引っ張り込まれた結果、変身すると体が女性になってしまう瀬能ナツルの、大変にもうらやましい日々を描いた築地俊彦「けんぷファー」(MF文庫J)にも似たシチュエーション。ナツルの場合も、やはり同じ学園で背中合わせにに建ちながら、交流の一切禁じられた男子部と女子部の双方に生徒として登録し、通う羽目となっている。

 1人ですら男子部と女子部の双方に、同じ名前の生徒がいると評判になったくらいなのに、それが1度に5人ともなると、いったいどんな憶測が飛び交うのか。悠介が悠子といった具合に、名前を変えたところで雰囲気の似た5人が同時に行ったり来たりすることがもたらす騒動の愉快さや、女性だから興味を持たれても男性として興味をもたれたい変身組の心の葛藤の面白さ、そこから起こるすれ違いのドラマを、これからの展開で楽しませてくれそうだ。

 走るのが大変だという体の構造の違いに対する感想や、はじめての下着選びで恥ずかしさに赤面してしまう純情さなど、性別を越えた変身によくある描写もあって楽しめそう。ないのはだから直接的に肌を見せ、違いを確かめるような場面だけれど、変身後の5人の可愛らしさ、とりわけ関西弁で繊細そうな眼鏡の真城悠介が、悠子に変身した時に見せるロングヘアーの姿の可愛らしさ、戸惑う姿のいたいけさは群を抜くので要注目。他の面々は変身しても割にショートのままなのに、どうして悠介だけが長くなるのか? 理由も知りたい。

 「けんぷファー」のように戦いを目的にしたものではなく、ただ変身してしまうだけの状況が、いったいどういう理由によるものなのか、これが果たして目的にしていることがあるのか、といった辺りもおそらくは、これからの展開の中で明らかになっていくのだろう。春人と同様に、女子部の校長の薫子が妙に理解の早いわけ、そんな薫子に事情を話す春人に重なるセーラー服姿の人物の正体なども気になるところ。

 雨がもたらす椿事が5人にどんな経験を与え、そしてどんな心や考え方を育ませるのか。すべてが終わって晴れ渡った空の下に、どんな姿で5人が立っているのか。先を楽しみにして待とう。


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