エリア51

 パッツと見た際の印象はスマートでスタイリッシュ。影絵のようで切り絵のようでもあって、ホワイトとシルエットで描かれるキャラクターも背景も、構築的過ぎていったい何が描かれているのかにまず迷い、そこに描かれているものに心を近付けるのに少し戸惑い、なかなか物語の世界へと入り込んでいけない。

 けれども、読んでいくうちにそのシルエット、そのフォルムで描かれているものがどういうキャラクターで、そしてどういう表情をしているのかが、だんだんと分かってくるから不思議なもの。目が慣れたのか、慣れるようにし向けてあるのか。いずれにしても、気が付くとその絵に目を引きつけられ、その物語に心を奪われている自分に気付く。

 魔物や妖怪の類が集められたアメリカ51番目の州、エリア51という場所を舞台に起こる、エキサイティングでハードボイルドな出来事を描いた久正人の漫画が「エリア51 第1巻」(新潮社、552円)。過去に「グレイトフルデッド」や「ジャバウォッキー」といった作品を描いて、それなりに名を知られた漫画家が、前にも増してスタイリッシュな絵柄でスリリングなストーリーを紡ぎだしている。

 主人公は女性の探偵。本名は真鯉徳子だが、誰もそうは呼ばずに名字を略してマッコイと呼ぶ。細いウエストに張り出した胸に長い髪。抜群のスタイルと愛嬌のある美貌を持ちながら、手にはコルトガバメントという、アメリカ製オートマチック拳銃のクラシックモデルを収めて飛び回り、危険とあらばぶっ放す。

 そのガバメント。1911年に誕生した拳銃の1912年製最初期ロットという骨董品。No.110というシリアルナンバーもついて、ガンマニアならずともお宝として欲しがる拳銃を、どうしてマッコイが持っているのかに、ひとつドラマがありそう。マッコイがまだ刑事だった時代に、何かの現場で出会った男から譲り受けたらしいその経緯が、いずれ語られることになるのだろう。

 もっとも今は、探偵として依頼を受けては、付喪神となって逃げ出した壺を追いかけつかまえ脅し、吸血鬼に奪われた妹を決死の覚悟で助けに行く少年を助け、マンドラゴラを使った暗殺を未然に防ぎ、そして蕎麦屋を襲う怪物と退治する。河童のキシローを相棒に、腕と度胸で乗り切っていくマッコイだが、最後にいささか危険な相手と出会ったその時。手にしたガバメントに奇跡が起こる。

 有り得ない奴らが集う街での、有り得ない事件を描いて、有り得ないビジョンを見せてくれる、クールでスタイリッシュな漫画。ガバメントがステップを一段上がって後に、見せてくるビジョンもおよそ有り得なさそう。それがどんなものなのか、期待せずにはいられない。

 何より我らがヒロイン、マッコイ自身にも大いなる秘密がありそう。稼いだ金をその身に惜しげもなく注ぎ込む理由は何で、原因は何で、どんな結果が待ち受けているのか。だからこそ急いで生きてやり遂げようとしている何かの正体は。果てに待ち受けている運命が、いささかの哀しみを帯びたものだとしても、今は救われる可能性を信じて、続きの登場を待ちたい。

 大きな尻と突き出た胸に比して、細腰のマッコイもなるほど美人だが、背中も胸元も大きく開いた衣装で、ひとりバーに酒を飲んでは、滅多に表に出ていこうとしない女性もまた美しい。ヤクザのパーティーに呼ばれながらも、やっぱり隠れている方が好きだと断るその美女こそが、岩戸に隠れた逸話を持つアマテラス。日本の最高神までいるエリア51とは、いったいいかなる場所なのか。

 謎多き物語に、さらに加わる謎に知性を刺激されながら、今は黙って展開を待とう。


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