ゆい ごじ
「新生スペシャル宇治金時ランチタイムスの演奏レベルは、」
短い沈黙の後、バンドマスター恩田誠一は、そこに集まった皆の顔を見回してこう言い放った。
「レコーディングに耐えうるもの、を目指します」
そして、また、沈黙。
1987年4月12日。
北浦和で行われた新生うじきん発起大会の席上であった。
あれから十年がたった。
アマチュアバンドには珍しいこの気合いに満ちた「決起集会」に、幸運にも居合わすことのできた私は、心の片隅にこのバンドを意識し続けてきた。
その間、あちらでライブが開かれると聞けば新幹線のチケットをとりに走り、こちらでフェスティバルがあると聞けば、電脳上で宣伝役を買ってでたりもした。
それもこれも、冒頭のバンドマスターの一言が、強烈に心に焼き付いているからである。
レコーディングに耐えうるレベルを標榜するアマチュアバンド。
伊達で口にするべき言葉ではない。
しかし、本気で口にするには、バンドマスターが楽団員の前で口にするには、相当の覚悟が必要な言葉ではある。
アマチュアバンドである。
週に一回、これる人だけ練習にきて、楽しく音を出してたまに演奏会をする。
そういう道だってとることができたはずである。そして、そう考えていたものだって、いたはずである。
しかし、バンドマスターは敢えて、そういう道は選ばなかった。
年二回のコンサートとライブ。
これを自らに課して、あくまでレコーディングレベルにこだわった。
そのバンドが、十年の歳月を越えて、満を持して解き放ったアルバムが本作である。
サンプル版をかける私の手がふるえたのも無理のないことだと思っていただきたい。
メンバーをみてまず驚くのが、あの日、あの場所にいた者の多さである。これだけの大所帯を、ほとんどメンバー交代もなしに率いてきたバンドマスターの手腕と人柄に、大きな拍手を送りたい。
そして、肝心の演奏である。
私は、世辞をいうつもりはない。アマチュアレベルを超えているなどというつもりは、毛頭ない。
しかし、あくまでレコーディングレベルにこだわったバンドマスターが、十年後にやっとOKを出した演奏だということは、一聴して頷ける。
個々の演奏にふれることは避けるが、折に触れて棚から取り出す、私の愛聴盤のひとつになりそうである。
最後に、私の個人的な希望を連ねて、筆を置くことにしたい。
これを、結果だと考えないでほしい。
これで、満足しないでほしい。
次の演奏を聴くのに、十年も待たせないでほしい。