大学におちた日


僕と彼女の小さい部屋


 大学にはいったらいっしょの部屋に住もう。と交わした固い約束は地理的条件に邪魔されてしまった。僕と彼女の大学は、いま住んでいるところからまったくの正反対、百八十度の角度で反対の方向にあったのだ。
「まあしょうがないじゃない。家は近いんだし」
 いつでも会えるじゃない。と彼女は落ち込んでいる僕を慰めてくれた。
「いつでも会えるだけじゃ駄目なんだ」
 彼女の親切心を痛いほど感じながら、それでも僕は八つ当たりをしてしまう。
「いつも会えなきゃ、駄目なんだ」
 僕と彼女は、僕の部屋でお酒を飲んでいた。僕は、最後にのこった大学の、合格発表を見てきたばかりだった。不合格にはなれているけど、今日の合格発表ほど僕を落ち込ませたものはなかった。
 「いつもいっしょにいなきゃ、何のために今まで我慢してきたのか、わかんなくなっちゃうよ」
「ううん、困ったな。どうしたらいいんだろう」
彼女はあくまでも優しく、きちんとした善後策を考えている。
 われながら情けないな。と思った。彼女はちゃんと約束の大学に合格して、彼女との約束を破ったのは僕のほうなのに、それなのに僕は、お気に入りのおもちゃを理不尽な母親にとられたガキみたいに、ひとりで駄々をこねている。
「そうだ、こうすればいいんじゃない。二人でおんなじ学校へ行くのよ」
「それができないから困ってるんじゃないか」なおも駄々をこねる僕を手で制して、彼女が続けた。
「そうじゃなくて、例えば月水金はあなたの大学に行って、火木土はわたしの学校にくるの。もちろん履修は半分しかできないけど、二人でまじめに講義を聴くんだから、成績もよくなるんじゃないかしら」
「そんなことしたら四年じゃ出れなくなちゃうよ」
「べつにいいじゃない、留年したって。二人でおんなじ年にでられれば」
 そんなもんかな、と全面的に納得したわけじゃないけど、僕に残された方法はこれしかなかったんだ。
 そんなわけで、僕らの一日置きのダブル・スクールが始まった。


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