拝啓
はじめて、あなたをみたのは、小雨の山中湖でした。
そのころ、駆け出しのジャズファンで、
実はよくわかっていなかったぼくにとって、
そのときのあなたのバンドは、
ちょっと難しすぎました。
寒い夕方の、それも小雨の山中湖で、
がらがらのお客さんのなか、
それでも真剣に長いドラムソロをとっているあなたを、
不謹慎にもぼくは、
「はやくおわれよ」
なんて考えながらふるえていました。
だって、スケールを上ったり降りたりするだけのルーニーと、
たしかサックスかピアノは代役だった気がしたし、
・・・とにかく、ぼくにとってのあなたの第一印象は・・・
でも
その二年後に、
ぼくは、自分の耳のなさを恥じることになりました。
おなじ山中湖畔。
もう、あたりもくらくなろうかという頃。
ぼくはまた、あなたの演奏を聴きました。
正直、期待していなかった。
でも、
でも、
いまでも思い出せるよ。
「きょうのトニー、すごいじゃん」
っていったっきり、声もでなかったこと。
ほんとに、すごかった。
ドラムリーダーのバンドって、こういうもんかと、思った。
いつの間にかはいってきたメロディーが、
そのあとずっと、抜けなかった。
そして、ぼくは、一生ついていく宣言を、した。
ぼくが、はじめて女の子とふたりでいったブルーノートが、
あなたにあった最後になってしまったけど、
そのときのあなたの演奏がレコードになって、
ぼくの大切な記念になってるよ。
おんなのことは、はなれちゃったけど。
あの、山中湖の夜のあと、
手当たり次第に集めたあなたのディスク、
まだ、きけないよ。
ひどいよ、tony
あんそにー・ういりあむす
まだまだ、これからだったのに。
でも、ありがとう。