拝啓

TONY WILLIAMS殿

 

 

はじめて、あなたをみたのは、小雨の山中湖でした。

そのころ、駆け出しのジャズファンで、
実はよくわかっていなかったぼくにとって、
そのときのあなたのバンドは、
ちょっと難しすぎました。

寒い夕方の、それも小雨の山中湖で、
がらがらのお客さんのなか、
それでも真剣に長いドラムソロをとっているあなたを、
不謹慎にもぼくは、
「はやくおわれよ」
なんて考えながらふるえていました。

だって、スケールを上ったり降りたりするだけのルーニーと、
たしかサックスかピアノは代役だった気がしたし、

・・・とにかく、ぼくにとってのあなたの第一印象は・・・

 

 

でも

その二年後に、
ぼくは、自分の耳のなさを恥じることになりました。

おなじ山中湖畔。
もう、あたりもくらくなろうかという頃。
ぼくはまた、あなたの演奏を聴きました。

正直、期待していなかった。

 

でも、

でも、

いまでも思い出せるよ。

「きょうのトニー、すごいじゃん」

っていったっきり、声もでなかったこと。

ほんとに、すごかった。
ドラムリーダーのバンドって、こういうもんかと、思った。

いつの間にかはいってきたメロディーが、
そのあとずっと、抜けなかった。

 

そして、ぼくは、一生ついていく宣言を、した。

 

 

ぼくが、はじめて女の子とふたりでいったブルーノートが、
あなたにあった最後になってしまったけど、
そのときのあなたの演奏がレコードになって、
ぼくの大切な記念になってるよ。

おんなのことは、はなれちゃったけど。

 

あの、山中湖の夜のあと、
手当たり次第に集めたあなたのディスク、
まだ、きけないよ。

 

ひどいよ、tony

あんそにー・ういりあむす

 

まだまだ、これからだったのに。

 

でも、ありがとう。