82.

リリイ・シュシュのすべて



映画を見た。
リリイ・シュシュのすべて
岩井俊二の、新作。親友が、突然いじめをはじめた。標的は、自分。14歳。
心の安らぎは、この世を満たすもの「エーテル」を唄う歌手、リリイ・シュシュ。
リリイについてネットの掲示板で語り合うことだけ。
心を許すのは、掲示板の仲間、青猫だけ。
元親友は、少年からすべてを奪っていく。
金。友達。少年に思いを寄せる少女。少年が思いを寄せる少女。
そして、リリイ。
そして、青猫は。。。

目を、逸らしたかった。
でも、出来なかった。
涙で、清められたかった。見なかったことに、して欲しかった。
でも、出来なかった。
pureが壊されていく。逃げ場は、ない。
鼻をふさがれ、開けた口に熔けた鉄を流し込まれる。
どうすればいい?
どうしようもない。
早く終わってくれ、そればっかりを考えてた2時間。
目は、釘付け。
泣きたいのに泣けない。
口を開けても空気が入ってこない。

ああ
これは海の中。
酸素ボンベすらなく、心の準備もなく放り出された、深い海。
深い闇。
もぐっても、心地よくない。全身に棘が突き刺さる。
肺の中にも棘が入ってくる。
痛みを知ってしまったら、もう元には戻れない。
世界が平和に見られない。ああ、この感触。
ちょっと懐かしい感触。
ボンベすら、持つことが出来なかった純粋さ。こういう海を、色恋を抜きにしてくぐった時代。
それを突きつけられるのは、ほんとに辛かったけれど。
でも、なんとなく懐かしい。
想いだしてはいけない記憶。
思いだしたくないけれど、だれかと共有したい体験。

遺作にしたい、と語った岩井俊二。
彼はどこにくんだろう。
おれは、ついていけるのだろうか。


 

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