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これを手にとるまで、船戸与一という作家を、知らなかった。
山本周五郎賞を受賞した作品だけど、それにつられたわけじゃなかった。
帯のコピーに惹かれて読んだ。
「冒険小説の完璧、船戸の神業」
こんな傲慢なキャッチコピー、いったいどういう作者の、どういう作品がつけるんだろう。そんな気持ちで読み始めた。
分厚い単行本。その頁をめくってみると、三段組みの恐ろしく小さい字が並んでいる。
各章のタイトルは大仰に芝居がかっている。
ちょっと、、、
と思いながら読み始めて、ぶっとんだ。
ごつごつとした、圧倒的な質量をもった岩が、角がとれて丸くなることなしに、真っ向から襲いかかってくる。そんな感じだった。
必死で頁をめくって、終わるのがもったいなくて、でも読まずにはいられなくて、
そして、
読み終わって、呆然とした。
ハードボイルドとはこういうものか、と思った。
ならば、いままでハードボイルドと思っていたものは、それはハードボイルドではない。そう思った。
そして、チャンドラーが、嫌いになった。
その後、ぼくが衝撃をうけたストーリー展開は、この作家の常套手段だとわかった。
それがわかっても、ちがう作品を読むたび、ぼくは衝撃をうけ続けた。
この作家の新作を、そのたびに読んでいけることは、大きなしあわせである。