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Blues 花村萬月


 図書館で読んだ花村萬月を、古本屋で手に入れて、もう一度読んだ。
 なんてことだ。
 まったく。
 こんな切ない思いを、どうして、また味あわなくっちゃいけないんだろう。こんな青臭い中年男の身勝手な転落話に、なんで、もう一度涙しなくっちゃいけないんだろう。

 ブルース。
 ぼくがはじめて読んだ花村萬月。そして、バランスがいいという一点においてぼくにとっての最高の花村萬月。

 ブルース。
 挫折する理由も青臭かった、中年のブルースギター。ギターに惚れてるのにものにもできない日本刀。日本刀の唯一の親友、ハーフのねーちゃん。
 ねーちゃんの歌にギターが惚れて、ギターのプレイにねーちゃんが惚れて。抱き合う二人を窓の外から見つめる日本刀。
 ギターの青臭さが、ねーちゃんの過激な愛が、日本刀の過剰な愛が、それでも絶妙なバランスをやっと築くことができたのに。
 その危ういバランスは外敵から身を守るほど強いものではなくって。青臭さ故に、過激さ故に、過剰さ故にこれしかできない、という方法で対処したときには、もう元には戻れないバランスに変わってしまっていて。
 もちろん、誰かがちょっとだけ心に蓋をすれば新たなバランスが生まれるはずなんだけれども。ギターの、どうしようもない青臭さが、それも許さない。そして、その青臭さ、普通に書けばかっこよくもなれるその青臭さが、どうしようもなく滑稽で、かっこわるい。
 だから、ブルースなんだ。
 だから、切ないんだ。

 暴力もとびっきり。セックスもとびっきり。そして、切なさは思いっきりとびっきり。過剰な感情のバランス感覚がとびっきりなブルース。花村萬月の最初の一冊がこれだったら、しあわせだよ。


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