F1 CLIMAX Sep. 10, 2000 at ITALY
9月10日のこのレースで、オフィシャルの方が一人、亡くなってしまいました。
心よりお悔やみを申し上げます。
残り4戦、6ポイントのビハインド。
開幕3連勝でスタートダッシュを決めたシューマッハ。でもそれはミカとクルサードがトラブルに泣いたから。
たぶん本人はそのことをよく分かっていたのだけれども、周囲のモチベーションを保つには、3連勝で築いたアドバンテージはあまりにも大きくて。
ミカの不調を補うクルサードの調子がよかったものだから、今年の相手はクルサードだと思いこんで甘く見ていて。
だから、シーズン中に思いきって休暇を取り、心身共にリフレッシュしたミカが完全な体勢で牙をむいたとき、シューマッハは貯金を切り崩して対処するしかなかったんだ。
そして、悪夢の3戦連続リタイア。それもスタート直後の第1コーナーで連続クラッシュ。
どうにか走れる体勢をつくって予選をがんばってみても、本戦ではミカに力負け。ポールをとってもスタートで抜かれ、ミカがスピンしても、ストレートで抜かれる屈辱の連続2位。
なんとあのシューマッハが、5戦優勝なし。そして気がついたら残り4戦、6ポイントのビハインド。
そして迎えた地元、イタリアグランプリ。
予選はフェラーリのワンツー。超高速のサーキットで、一発の早さを見せつけた。
そして。
死者を出してしまった壮絶なクラッシュのあと、10周続いたセフティーカーが抜けたあと、ゆっくりと、だけれども着実にリードを広げるシューマッハ。タイヤの苦しいフェラーリは、マクラーレンほど粘れないから、どうしてもタイヤ交換に早く入らなくてはいけないんだ。タイヤ交換の時には当然ガソリンも入れるから、シューがピットに入ってからミカが入るまでの間は、重いシューマッハと軽いミカのクルマが競争する。そしてその重さは、一周1.3秒のビハインドをもたらすんだ、計算上。さらに後に行けば行くほど、入れるガソリンの量も少なくて済むから、止まってる時間も少なくなる。つまり、シューが必至に築いた9秒を、もしミカが6周余計に走ったら、それだけで帳消しにされてしまう、ってこと。
だからシューマッハも粘る粘る。タイヤ苦しいはずなのに最速ラップを連続して。
そして、シューがピットイン。
ミカは当然気合い入れて猛プッシュ。だけれどもシューが粘ったおかげで6周は長く走れずに、3周後にピットイン。当然シューのあとにピットアウト。そしてそのままゴール。
シューマッハ、6戦振りの優勝。
残り3戦、ビハインドは2ポイント。
レースはまあいいのだけれども、そのあと。絶対に起こるはずのない光景が、僕の目に映った。
シューマッハの優勝インタビュー。
「うれしいですか」
嬉しい、とはいえないね。そんなものを飛び越えたこの気持ちを、なんていえばいいんだろう。ただ満足で、ただとても疲れて。言葉にならない。
「41勝でアイルトンに並びましたが、感慨はありますか」
言葉を失い、両手で顔を覆って、声を上げて嗚咽するシューマッハ。もはやインタビューにならず。
インタビュアーがとなりのミカに水を向けるが彼も回答を拒否。3位のラルフがインタビューに。
再びシューに戻って。
「アイルトンに並ぶのが嬉しい理由を教えてください」
他の質問にしてください
「ありがとうございました」
なんの涙だったんだろう。
あのブラジル人、と決してアイルトンの名を呼ばなかったシューマッハ。
誰もが認めた音速の貴公子を蹴落とすはずだったのに、蹴飛ばしたはずの足が宙を斬り、ライバルのいない不毛な地に着地してしまったシューマッハ。
楽に抜けるはずだったワールドチャンプ3回は未だに果たせず、優勝回数も5戦足踏みを強いられたシューマッハ。
そしてなにより、開幕3連勝のアドバンテージを守りきることができなかったシューマッハ。今年のシューマッハは、もしかしたらアイルトンの亡霊と、戦っているのかもしれないね。
その亡霊を、やっとの事でひとつやっつけたシューマッハ。
残り三戦、二勝した方の勝ち。
最終戦のマレーシアは、とんでもない。