CONCERTs 2000


2000年12月29,30日

第9シンフォニーの夕べ
朝比奈 隆:指揮
大阪フィル
フェスティバルホール 1階M列L1番、L3番

ベートーヴェン 交響曲第9番

 さて、朝比奈さんのベートーヴェン・サイクル完結編にして、年末の、第九。
 今回は、大阪公演が二回ということで、思いきって二回ともいっちゃいました。

 第九ってさ、年末用の曲、ってのがあるよね。12月になると、どこでもやってて、素人合唱団の身内が来るから、どこもけっこういっぱいになって。でも、年の真ん中あたりにはほとんど聴かない。そんな曲。
 僕も、ミーハーだから、フルトヴェングラーのバトロイトのディスクくらいは持っていたりするのだけれども、録音が悪いせいか、やっぱり年末くらいにしか聴かないなあ。この前手に入れたソルティ/シカゴ響のやつは、、、、だったし。

 そんなこんなで。
 今回の第九。

 ひとことでいっちゃうと、すごく完成された曲だったんだ。っての。とくに1楽章と2楽章。もう、今まで企画モノだと思ってたのが申し訳ないくらい(って申し訳ないんだけど)の、曲のすごさ。壮絶、ですね。

 肝心の演奏は。
 二日通してほとんどおんなじ席で聴いたから、耳はどうしても比べちゃんだけれども。
 でも、二日ともとってもよかった。
 でも、どっちかっていったら、迷わず二日目。なんていうのかな、一日目はパートごとに音がまとまって聞こえてたのが、二日目は、全体が一つになってうねってた、って感じ。一楽章のあたまからそうで、これはもう二楽章、どうなってしまうんだ、って思ってたらそのままの調子でずっと続いたし。一楽章の終わりからずっとこらえていた涙も、結局最後にはこらえきれなかった。

 一日目は、曲に圧倒されてしまって、二日目にやっと演奏を聴けた、というのもあるかもしれないけれども、私のなかでは、一日目は年末の第九。二日目は、朝比奈サイクルの最終回。

 サイクルのなかでは、7番、3番っていう大名演があって、今年のベストはそのどっちかかな、って思ってたんだけど、第九もその中にはいるね。絶対。

  今年、数えてみたら10回の朝比奈さんのコンサートに通ったのだけれども。そのどれもが、本当にいい思い出になってます。ありがとう、朝比奈さん。来年もよろしく。

2000年11月27日(月)

大阪新音創立50周年記念演奏会
朝比奈 隆:指揮
大阪フィル
ザ・シンフォニーホール A席1階L列3番

大栗 裕 大阪新音30周年のための祝典音楽「大阪のわらべうたによる狂詩曲」(指揮:下野竜也)
ブルックナー 交響曲第4番 ロマンティック

 おなかいっぱい! ロマンティック

 朝比奈さんは単身上京してN響を振って。大フィルは定期でパーヴィの指揮で演奏して。マンスリーロマンティックの締めくくりは、やっぱり朝比奈/大フィル。
 僕は、大フィルの定期を観て、朝比奈/N響を、FMとBSで試聴して、さらにCD2種類を子守歌にするという、どっぷりマンスリーロマンティック。後半は聞き飽きないようにって、ちょっとセーブしてたんだけどね。

 まあ、それはそれとして。コンサート。
 前座は、吹奏楽でもよく名前を聞く大栗さんの作品。重厚なファンファーレからティンパニの連打、それからfzっていうおきまりの吹奏楽パターン。まあきっと、このパターンを作った人なんだろうね。あんまり金管いじめないでよ、って思いながら懐かしく聞いてました。

 休憩のあと、朝比奈さん登場。
 9月から、毎月朝比奈さんシリーズが続いてるけれども、今回はなんか緊張した。初めてのシンフォニーホール一階席、そして初めての朝比奈ブルックナー。どんな音が聴こえて来るんだろう。
 そして。
 トレモロからホルン。
 トレモロの音って、結構大きいんだ。ホルンが時折苦しそうなのはしょうがないや。でもまあ、いい感じ。
 だけど。
 なんかいまいち、入っていけないんだよ。CD聴きすぎたのか、あ、テンポ違う、バランス違う、響きが違う、って。頭の中で違うところばっかり耳について、純粋に神様と向き合うってところにたどり着かない。
 多分、金管トゥッティのところで、トロンボーンの音があんまり聞こえないのが原因なんだと思うけど。

 そんなこんなで、悶々としながら三楽章まで進んでしまって。いよいよフィナーレ。
 ここで一気に、キてしまったんだけれども。
 何度も何度も、昇りつめられるのに途中で引かれて焦らされて。長い四楽章の間ずっとずっと焦らされて、いよいよ最後に大爆発。まあ、朝比奈さんたらテクニシャン。決してフィナーレだけ大音量でつじつま合わせ、っていう曲ではないのだけれども、1時間の締めくくり、いいなあ。

 余談なんだけれども、シンフォニーホールって、天井が高いんだ。その天井に吊り下げられた照明から、明かりはすとんとステージに降りてきていて。四楽章の間に、明かりの輪がどんどん狭まって、最後は朝比奈さんの見事な白髪だけを照らしてた。その光景がね、なんだかフランダースの犬の最後を思い出してしまって、ちょっと胸が詰まってしまった。まだまだ連れてかないでね、神様。

2000年11月7日(水)

大阪フィルハーモニー交響楽団  第343回定期演奏会
パーヴォ ヤーヴィ:指揮
諏訪内 晶子:ヴァイオリン
大阪フィル
フェスティバルホール A席 1階 N列 R3番

ショスタコーヴィッチ ヴァイオリン協奏曲 第1番
        en  J.S バッハ 無伴奏ソナタ第2番より アンダンテ

ブルックナー     交響曲 第4番 「ロマンティック 」ノヴァーク版

諏訪内晶子の弦が切れた!

 加藤知子、戸田弥生に続いて、今年三人目のヴァイオリニスト、諏訪内晶子。僕の中での第一次クラッシックブームの時に、チャイコフスキーコンクールで一躍有名になった人。おまけに、僕の知り合いのヴァイオリン弾きが好きだって言ってたから、僕の中では(聴いてもいないのに)かなり高い位置にいる人。
 指揮者より前に堂々と入ってきた諏訪内さんは、かなり大柄。まあどうでもいいのだけれども。指揮台のすこし奥に陣取り、いざ、開始。それはそうと、チューニングって、舞台袖であわせてきて、ステージでは微調整、って感じだと思ってたんだけど、この人は違ったね。ステージ上で、豪快に駒をひねるひねる。最初はどうしようと思ってた音程が、見事スパ、っと壺にはまってくのは聴いてて楽しいものでした。
 さて、曲。
 曲が始まったのだけれども。しばらくして、チャリン、っていう硬貨を落としたような音がして、諏訪内さんのはだかのソロで、曲が止まってしまいました。指揮者と二人でそそくさと退場して、そのまま休止。
 そう、諏訪内さんの弦が切れてしまったのでした。緊張の糸も切れなければいいのだけれども。
 弦を張り替えた諏訪内さん。曲は最初から仕切り直し。
 さて、この曲。たとえばメンデルスゾーンみたいに唄うバイオリンではなくって、もうちょっと技巧的。なんていうか、男性的な曲。そういうせいもあって、思ったほど(身体ほど)音が大きくない諏訪内さん。オケのトゥッティだと、完全に埋没。カデンツァは見事に決めたもののちょっと残念。でも、ヴァイオリンって、響きの長さまで自分でコントロールできるんだ。すごいね。
 幾度かのカーテンコールのあと、アンコールは無伴奏ソナタ。

 これがさあ。
 よく分からないのだけれども、この曲って難しいのかな? チャイココンに優勝した人が手こずるほど。通奏低音の上に乗っかるメロディを一人で引くんだから、簡単ではないんだろうけど、アンダンテだしなあ。通奏低音のリズムが揺れるは音はうわずるはで、なんかあんまりいい気持ちじゃなかったな。

 紙の上に神は宿るか。

 さて、ブルックナー。
 僕の持っているロマンティックのCDには、神が宿っている。朝比奈/大フィル、1993年のやつだけどね。ただ、僕はこの曲、この演奏でしか聴いたことがないから、神は紙(スコア)の上に宿っているのか、棒の先に宿っているかが分からない。それを確かめにきた、今日のブルックナー。
 演奏は随所で盛り上がりを見せながらもさわやかに淡々と進んで、神の宿るべき場所は幾つもあるんだけれども、なかなか宿らない。三楽章の宿りどころもそのまま通り過ぎて。今日は来ないのかな。やっぱり神は棒の先に宿るのかな。紙は神の宿りやすい曼陀羅にすぎなかったのかな(曼陀羅には仏だって)。
 そう思ってあきらめかけたフィナーレ。1時間以上の大曲のフィナーレ。突然それはやってきた。
 結構前の席で、ブラスはよく見えないし、前の人との高さの差もあんまりないしで、天井の方をみていることが多かったのだけれども。そこに、突然日が射した。それも、あるはずのないステンドグラスの天窓から。柔らかい日差しが、埃の中に色とりどりの筋を作る光景が、突然目に焼き付いた。

 きっと、神様が覗きにきたんだね。
 ああ、よかった。

 大満足で歩く梅田への道で、僕には分かったよ。神を宿すのは何か。神様はどこにでもいたんだよ。ビルの間のケーナにも、陸橋の上のブルースハープにも、そしてその下のコンボにも。
 そして、その神様を見つけるのは、僕の耳。
 僕の心に神様を宿すのは、だから僕の耳。

 僕の耳が、もっといっぱいの音楽の神様を見つけられますように。

2000年10月20日(金)

大阪フィルハーモニー交響楽団  第342回定期演奏会
朝比奈 隆指揮
大阪フィル
フェスティバルホール B席1階AA列L34番

ブラームス アルト・ラプソディ
      交響曲 第2番

 体調は最悪。
 外は雨。
 おまけにB席。

 でも、朝比奈さんの ブラームス。今年のお正月にはじめて朝比奈さんを聴いて、それ以来虜になった朝比奈さんのブラームス。とっても楽しみにしていた、朝比奈さんのブラームス。

 アルト・ラプソディは、物々しく合唱団が入って、指揮者のとなりにはアルトのおばさんがでんと構えていたんだけれども、短い短い。15分くらいしかなかったんじゃないかな。あれ、もう終わったの、って感じで、拍手も遠慮がち。
 合唱、というと、つい先月聴いたスカラ座合唱団とどうしても比べてしまうんだけれども、ううむ。なんかずっと遠くにいるみたいな感じ。
 アルトが真ん中に立った関係で、ちょっと斜めに置かれた指揮台から、普段は見えない指揮する朝比奈さんの横顔が結構よく見えたのが嬉しかった。

 カーテンコールの後、7時20分から20分間の休憩。
 そして、交響曲第二番。
 ブラームスは、1、4番しか聴いたことなかったから、プログラムみてから慌ててかったのは、小澤/サイトウキネン。ただし、このごろブルックナーにはまってて、あんまり聴いてないんだな、ちゃんと。
 演奏が始まって。
 なんか違和感。なんていっていいかわかんないんだけれども。
 よく、音が聞こえない。ホールのせいもあるのか、端っこの、壁に近い席ってのもあるのか。 いや多分体調のせいなんだと思うけど、遠くでなっているオーケストラを、薄い布で包んだような音しか聞こえてこない。耳、悪くなったんだろうか。
 遠くでなっているオケの音は、当然ながら襟首を掴んで引きずり込むようなパワーはなくって、それは心地の良いBGM。背中の痛みと微熱との闘いに疲れた身体は白河夜船。たまにはっと戻って来るんだけれども、まだ泥の中のまどろみに引き込まれていく。
 三楽章のバイオリンが、唯一、薄い膜を破って直にきこえてきたのだけれども、それも長くは続かず。
 四楽章のフィナーレ。華々しい金管の咆吼もとってつけたようで。

 なんかもったいないことしちゃったな。
 体調整えて、曲だってしっかり聴いてからいってたら、きっとたくさん楽しめたのに。
 朝比奈さん、ごめんなさい。朝比奈さんの無駄遣い、しちゃった。

2000年9月24日(日)

朝比奈隆の軌跡2000 ベートーヴェン選集
朝比奈 隆 指揮
大阪フィルハーモニー
ザ・シンフォニーホール 2階CC列9番 A

ベートーヴェン 交響曲第8番
        交響曲第7番

 さて、とんぼ返りで大阪に戻って、朝比奈さんのベートーヴェン。シリーズ通し券だったから、見慣れた席での朝比奈さん。それも今日でおしまいかと思うと、ちょっと寂しい。

 今日は、ちょっと地味な(人気的にね)8番7番。予習はムーティ/フィラデルフィア。だって安かったんだもん。。。開演前の一杯も、今日は気合いを入れてコーヒーで我慢。

 きのうの席に比べたら、今日のがちょっと、近いのかな。そのせいか、最初の8番、細かいところがよく聴こえた。なんていえばいいんだろ、弦の一人一人が聞き分けられる、って感じ。毎日聞いてると耳慣れするのかな、とか思ってみたけれども、なんかバラバラでちっともアンサンブルになってない。曲として聴こえてこない。

 一楽章終わって、非常に長い、間。ハンカチを口元に持ってく朝比奈さん。体調悪いのかな。ちょっと心配。

 なんかあんまり入り込めないうちに8番は終わっちゃったのだけれども。こっちの精神状態のせいかな。ちょっとしゅん。

 休憩が終わって、7番。
 最初の一音。のけぞりました。
 だってさっきと全然違うんだもん。響きが。音のつながりが。そして朝比奈さんの姿勢が。管は倍になったけど、おんなじ人数の弦楽器から、おんなじバンドからでる音とはとても思えない。

 朝比奈さんの後ろ姿も、そりゃあムーティのような華麗さはないけれども、さっきとは全然違う。左手をフルに使って、ひとつひとつ、ていねいに指示を出す。
 そして、単純なテーマの、ひたすらの繰り返し。

 涙こらえなきゃ、と思って聴いてた一楽章。
 鼻啜る音、出さないようにしなきゃ、と思ったのは、二楽章。
 嗚咽する声だけは、出さないようにしようと思った三楽章。
 結局どれもあんまり効き目はなかったけど。

 もし、この体験を共有できたなら、つまらないことで喧嘩なんかしないで、きっと誰とでもすぐ仲良くなれるのに。
 もし、世界中の人がこの演奏を聴いたら、世界はもっともっと、しあわせになれるのに。
 そんなことを考えてた、終楽章。

 僕にできるのは、せめてこのページをみてくれた人だけでも、一度だけでもいいから、朝比奈さんを聴いてみて、っておすすめするくらいなんだけれども。

 ほんとにつらそうだった朝比奈さん。何度も呼び出してごめんなさい。でも、総立ちの聴衆は、本当に朝比奈さんお礼が言いたかったんです。
 どうもありがとうございました。

2000年9月23日(土)

ミラノ・スカラ座特別演奏会
リッカルド・ムーティ:指揮
ミラノ・スカラ座管弦楽団
ミラノ・スカラ座合唱団
ミリアム・ガウチ:ソプラノ ヴィオレッタ・ウルマーナ:メゾ・ソプラノ
ファビオ・サルトーリ:テノール ロベルト・スカンディウッツィ:バス
NHKホール 2階C14列 20番 A席

ヴェルディ レクイエム

 さて、怒濤の九月攻勢の第三段は、長年の夢が叶って、ムーティのレクイエムを聴きにNHKホールへ。

 たとえば朝比奈隆で、サーチエンジンから引っかけてこのページにたどり着いた人なんかは、きっと鼻で笑うでしょうね。ムーティだって。
 それはそれでいいんだけれども、オーケストラはスペクタクルだ、っていうわたしのような人には、たまらないんだなあ。ムーティ。

 今回のレクイエム、10年まえにナブッコいったときに是非、聴きたかったんだけれどもチケットとれなくて。5年まえに来たときは都合でいけなくって。だから10年間の念願。NHKホールまでだって軽い軽い。

 席は二階のかなり後ろの方だったんだけど、ど真ん中。あと数枚、というところを取った割にはいいところで満足満足。ステージの後ろの方にはコーラス用の階段があって、気分は盛り上がります。
 始まるまえに、恵比寿ビールでちょっと喉を潤して、いざ、本番。

 ムーティ、何回目だろう。ナブッコ、ボレロ、それからプロコフィエフの3番、なんてのも聴いたな。それ以来だから、四回目、かな。もう10年ぶりくらいになるんだけど、相変わらず若々しいまま、あんまり変わってないぞ。

 さて、レクイエム。
 この日に備えて、ちょっとだけCDで予習したんだけれども。もちろんムーティ/スカラ座。ちょっとだけ、っていうのは、2枚組の一枚目だけってこと。。。それも流しで聴いただけ。それじゃあ、有名なディエス・イレだけじゃん、知ってるの。まあそうなんだけどさ。ひさびさに聴いたこのCDでおったまげたのはバスドラム。これ、すごいよね。録音もすごいんだけど、バスドラの音も半端じゃない。今回の目玉は、このバスドラ、生で聴くこと。
 曲は、チェロのpppから始まるんだけど。ムーティの音楽は、とにかくダイナミックレンジが広い。最初のpppなんて、客席でもきこえないくらい。合唱のきれいさと、ムーティの後ろ姿のかっこよさに見惚れることしばし。
 そして、ディエス・イレ。バスドラム。
 いやあ、まってました。はるばる渋谷まで、来た甲斐がありました。このバスドラ。思いっきり叩いてるのに、歪まない。いいなあ、これ。もって帰りたい。
 一枚目しか聴いていかなかったから、ディエス・イレがクライマックスなのかと思ってたら、後半、きれいな曲が目白押し。

 10年ぶりのムーティも相変わらずで、大満足のNHKホールでした。

2000年9月15日(金・祝)

オーケストラ・アンサンブル金沢 第21回 大阪定期公演
岩城 宏之:指揮
戸田 弥生:ヴァイオリン
オーケストラ・アンサンブル金沢
ザ・シンフォニーホール 1階G列23番 A席

シューベルト   交響曲第7番「未完成」
メンデルスゾーン  ヴァイオリン協奏曲 Op.64
ベートーヴェン  交響曲第5番 「運命」
     en   J.S.Bach G線上のアリア

 先日、むかしちょっとだけ住んでいた金沢時代の知人と逢うことがあって。その場で「大阪には朝比奈さんがいるけんね」と自慢したら、「なんのなんの、金沢にはアンサンブル金沢があるたい」というご返事。「そぎゃんこつ自信ありげに言うちょったら、いっちょ聴かんばならんでごわす」というわけで、チケットとりました。

 会場ついてみてびっくり。前から7列目の真ん中から右に2席。どこでもいいから選びなさい、っていわれたとしても選びそうないい席。シンフォニーのチケットセンターに行って、ちょうどキャンセルがでたところだったんだけど、ラッキー。

 アンサンブル金沢って、ちょうど僕が金沢にいた頃にできた記憶があるんだけど、フルオーケストラではなくって、ハイドンやモーツァルト用の、小編成オーケストラ。10、5,4,5,2の弦編成、各二人ずつの管編成。打楽器一人。がフルメンバー。これだけのオケで、「運命」やるか?ふつう。というわけで、今までちょっと敬遠気味でした。まあ、金沢にいた頃はクラッシックモードではなかったんだけど。

 プログラムは、「未完成」「メンデルスゾーン」「運命」という企画もの。いかにもお出かけよう、って感じであんまりいいイメージじゃなかったんだけど。
 大フィルみたいに、メンバーがたらたらステージ上に集まってくる、っていうんじゃなくって、開演ベルのあと整列して入ってくる。女の人は、紫、紺、緑のドレス。こぢんまりとした椅子の配列と相まって、宮廷演奏会みたいな雰囲気。

 とまあ、ここまでは比較的冷静だったんだけれども。
 岩城さんが入ってきて、未完成の一楽章。最初のヴァイオリンのピアニッシモ。ここですでにやられてしまいました。綺麗。ひとことでいうとこうなんだけれども。前の席だからいわゆる「生音」が聞こえてるのもあるし、人数が少ないせいもあるんだろうけれども、綺麗にそろった音の粒。これがヴァイオリンだけではなくビオラもチェロも、コントラバスだってそう。またその出番が均等にでてくる第一楽章。これにやられてあっという間に終わってしまった未完成。ううむ、やっぱ二楽章で終わるのはいただけないな。
 次は戸田さんのメンデルスゾーン。これもいい。ちょっと大柄で意志の強そうな容姿の戸田さん。チューニングの音がもう、攻撃的で容赦なし。そう、甘ったるい曲を弾くのに甘ったるい音出しちゃ、いけないんだよね。この音で弾きまくるコンチェルト。とってもよかったです。幕間に岩城さんがでてきて、名古屋大雨の義援金募集。わざわざ戸田さんのところにいって寄付してしまいました。

 さて、運命。
 さすがにトロンボンはトラが入るものの、あとは編成かわらじ。あたしゃ朝比奈のハイブロウ聴いてんのよ。こんな小さい編成でどうしようっていうの。

 って聴く前は思ってたんだけれども。
 結果としてこれも一楽章でノックダウン。席が前の方だっていうのも多分にあるんだろうけど、人数はまったく気にならない。そして、絶対的な音量が小さい分、ソロが引き立つ引き立つ。クラリネットおばさん、すごいよ。それから、これは絶対大フィルより勝っているホルン。一糸乱れのないピッチとアンサンブル、ううん、四人いたら3番演って。 さすがに終楽章の迫力はかなわないものの、大満足の運命でした。
 しっかし、いい席って偉大だね。いつもの朝比奈さんの時の席で聴いてたら、ここまで伝わってきたのかな、って思っちゃいました。だから、いい席で聴くために、やっぱり定演の会員になろうっと、大フィル。

 60万円以上の義援金を集め、アンコールのアリア。とっても胸に来る一夜でした。
 いい演奏家は、日本にもたくさんいるね。

 といったところで、次回は、ムーティ/ミラノ・スカラ座。やっぱオーケストラはスペクタクルだよ、とかいって帰って来るんだろうなあ。

2000年9月5日(火)

佐渡 裕 20世紀の交響楽展
佐渡 裕:指揮
山下洋輔:ピアノ
大阪フィルハーモニー交響楽団
ザ・シンフォニーホール 2階DD列53番 A席

バーンスタイン 序曲キャンディード
ガーシュイン  ポギーとペス
ガーシュイン  ラプソディー・イン・ブルー
     en  スウィングしなけりゃ意味ないね ピアノソロ
バーンスタイン シンフォニックダンス
     en  マンボ シンフォニックダンスより

 さて、夏休みも終わって、怒濤の九月攻勢。その第一弾は、待ってました。佐渡/山下のラプソディー・イン・ブルー。お祭り騒ぎの「ローマの松」のあとだけあって、期待は高まるばかり。

 今回の席は、前回「ローマの松」のちょうど真反対。普通にステージをみれる、コントラバス側。ベートーヴェンの左右反対側、というくらい。それよりも結構後ろかな。20分くらいまえにホールについて、席確認したら、ロビーのバーに一直線。普段は飲まない赤ワインを一杯引っかけて。今夜は確信犯的ほろ酔い気分。だって、バーンスタインにガーシュインだからね。リラックスリラックス。

 最初は、バーンスタインの「序曲キャンディード」。名前はよく聞くんだけれども何でかな、と思ったら始まったとたんに分かった。吹奏楽コンクールでよく聞くよね、この曲。長さもちょうど自由曲にぴったりだし。まあ私はやったことがないのだけれども。
 というわけで、どうしても仮想吹奏楽と比べて聴くことになってしまうのだけれども、そうすると??? なんかブラスの迫力に欠けるぞ。とくにラッパとトロンボン。それから弦の細かいところ。これは吹奏楽だとクラリネットのフレーズになるわけで、だから音の分解能とか比べると厳しいんだろうけれども、それにしてもちょっと。。。
 どっちも席が後ろなのが原因なのかな、と思うのだけれども、 朝比奈さんの時には気にならない、というか重厚なブラスだしなあ。松の時もすごかったしなあ。なんでだろ。

 まあでも、いいや。
 今回は、洋輔さんのラプソディー・イン・ブルー。これだからね。
 休憩あとの一発目。いつもの白い燕尾服の洋輔さん。 クラリネットのグリサンドがあっけなく終わるともう、洋輔さんの独壇場。おっきな佐渡さんと比べるといかにも小柄な洋輔さんの全身から、大オーケストラと対等に渡り合う音がでてくる。
 そしてソロパート。おいおい、そんなに長かったっけ、このパート。でも終わらないで。
 考えてみると、オケの人って、いつ終わるか分からないソロパートを待つって、あんまり経験ないんだよね。緊張感が続かなくって弓を落としちゃう人や、どんな顔作っていいか分からずに固まっちゃう人。待ってるオケをみてても楽しめました。でも、いちばん楽しそうに待ってたのは、あたま緑のクラのお兄ちゃん。自分の席からはきっとよく見えなかったのだろうけど、ずっと右側に身を乗り出して、食い入るように洋輔さん(か鍵盤か?)を見つめているのが印象的でした。
 二つの長いソロパートで、曲の長さを倍くらいにした洋輔さん。カーテンコールはいつまでもやまず、6回目くらいのときにはついにまた、ピアノに座ってくれました。ソロで「スイングしなけりゃ意味ないね」。結構佐渡さんって人気あって、この日もとくに洋輔さんの客がみんな、というわけではなかったと思うのだけれども。クラッシックのコンサートで、汗吹き出し、椅子から立ちあがり、足踏みでテンポを支配して、挙げ句の果てに肘打ち食らわす洋輔さんにちょっと引いちゃったおばちゃんとかも結構いたと思うのだけれども。それでもこのソロの時には、ジャズなんて聴いたこともない人たちを一気に引き込んでました。

 そしてトリは、佐渡さんの師匠であるバーンスタイン。僕はこのシンフォニックダンス、というかウエスト・サイド・ストーリーが大好きなので、期待と不安が入り交じっていたのだけれども。でも元気な曲をやらせたらぴかいちの佐渡さん。ディジー・ガレスピーのように大きなお尻を巧みに振ってオケを操る。いいなあ、この曲。そして最後を静かに締めくくるマリア。。。

 ところが。

 こんないい演奏会を、ぶちこわすのはたった一人で十分でした。
 曲は大いに盛り上がって、盛り上がって、フォルテシモのコード。それが切れて一人だけ残っているフルートのソロ。
 のはずだったのだけれども。
 心ない、ただ一番にブラボーをするためだけにやってきたおっさんが、 ここでやっちゃったんです。ブラボー。もちろんソロは続いていて、幸いなことに追随する人が30人くらいしかいなかったので、拍手はすぐにやみ、演奏は続いていったのだけれども。本当の最後、ピアニシモで終わる最後は、曲の余韻が終わるまで、それはもう緊張感に満ちた沈黙が保たれたのだけれども。

 でも、こちらに振り向いた佐渡さんの顔。三年越しのシリーズを、最初から決めていた恩師バーンスタインで締めくくった佐渡さんの顔に、笑顔はまったくありませんでした。

 アンコールのマンボは、本編に比べても元気いっぱいで華々しかったのですが、泣きべそかきながら笑っている、そんな印象になってしまいました。

 オケの去ったステージで、それでも、佐渡さんがでてくるまで鳴りやまなかった拍手は、心ない観客に傷ついた佐渡さんへの、慰めの拍手に聞こえました。

 これを機に、一人でもいいから、意味ないブラボー屋が減ってくれることを、祈っています。

2000年8月5日(土)2nd

エリアデス オチョア as featured in the film 'BUENA VISTA SOCIAL CLUB"
BLUE NOTE TOKYO

8月はクラッシックのコンサートがシーズンオフになるみたいで。
定期演奏会も企画ものもない。

というわけで、久しぶりのブルーノート。
とはいってもジャズではなくって。映画「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」でブレイクした、キューバ音楽。
僕にとっては、ブエナビスタよりも、その前に映画「KYOKO」でブレークして、ムラカミズ・レーベルで定着してたんだけれども。でも今回のブームはすごくって、一年まえには誰も名前すら知らないミュージシャンなのに、ブルーノートは完売状態。

ブルーノートのノリも、なんかいつもと違うな、と思ったら、結構外人さんが多い。
日本人のおねえちゃんと白人男性、 もしくは白人のカップルが結構目立つ。
僕のとなりも白人のにいちゃんだったのだけれども、彼らはやたら乗りがいい。
机はたたくわ口笛は吹くわ、オチョアさんが曲の度にいう「グラシアス・アラ・ファミリア・グランデ」 も、みんな一緒に叫ぶわ。いつものブルーノートのように、ありがたい演奏だから、一生懸命聴く、なんて姿勢はどこにもない。

よかったよ。
やっぱポピュラー音楽なんて、そうやって楽しく聞くものだからね。クラッシックもおんなじはずなんだけど。

もちろん聞いたことない曲ばっかりで、言葉だって全然分からないんだけれども、技巧を凝らしたシンプルさ、っていうのかな。とってもスッと身体に入ってきて、いいなあ。
曲目表をみてたら、僕の知っている唯一のキューバの歌、シボネイをやったときもあったのね。聞いてみたかったなあ。あのおじさんのシボネイ。

2000年7月8日(土)

朝比奈隆の軌跡2000 ベートーヴェン選集
朝比奈 隆指揮
大阪フィルハーモニー
ザ・シンフォニーホール 2階CC列9番 A

ベートーヴェン 交響曲 第一番
        交響曲 第三番「英雄」

ちょっとまだ巧く言葉にできないので、
某掲示板に書いた文章をそのまま載っけます。

 

gojiともうします。
私も聴きました。生涯最高のエロイカ!!!

とくに第二楽章の、あの重厚な弦。
聴衆に咳払いひとつ許さない、圧倒的な緊張感。
おもわず手を握りしめ、祈るような気持ちで聴いていました。

 何を祈ったのでしょう。
  この時間がおわらないこと?
  この緊張感が途切れないこと?
  この演奏が破綻しないこと?

祈りは通じたのでしょうか。 演奏は最後にいたるまで、陳腐なことばですが、圧倒的でした。
オケが退場したあと、誰もいないステージに朝比奈さんを呼び戻したスタンディング・オベーション。予 定調和を感じたコンサートもないわけではなかったのですが、この日だけは、本当に、もう一度朝比奈さ んに会いたかった。お礼を言いたかった。

 

この演奏を聴くためにのみ、HDCDのハード、かってもいいかな、と思います。

2000年6月28日(水)

佐渡 裕
20世紀の交響楽展
佐渡 裕指揮
大阪フィル
ザ・シンフォニーホール B席2階W列29番

ジャン・シベリウス 交響曲 第二番 ニ長調op.43
リヒャルト・シュトラウス 二重コンチェルティーノ(クラリネットとファゴット)
オットリーノ・レスピーギ 交響詩「ローマの松」

 わーい。松聴いたよ。ローマの松。
 高校にはいって初めてあそびに行った吹奏楽部の部室で、先輩たちが一生懸命練習してた曲。ぼくにとって初めてのクラッシック音楽。

 今年のあたまに、ファンタジア2000という映画を観て、それからぼくのコンサート通いが始まったのだけれども、そこで使われた曲、全部聴いてやろうと思った。そして、この映画でぼくのいちばん好きだったのが、このローマの松。ただ意味もなく鯨がはねてるだけなんだけど、なんかもう、どうしようもなく涙が出てきた。

 そんな、思い出の曲、ローマの松。
 指揮は、山下洋輔のバッハのときにも聴いた、佐渡さん。若々しい、元気な指揮をするヒト。

 曲を知らないひとのために、ちょっとだけ解説をしておくとね。
 ローマの松っていう曲は、「絢爛豪華」な曲です。倍管の大編成のオーケストラに、ピアノ、チェンバロ、ハープ、そしてパイプオルガン。はては舞台袖からラッパや小鳥の鳴き声が聞こえてきたり、ステージのなおかつ後ろからラッパとトロンボンのバンダ隊が現れたりと、もお、すごくたくさんのヒトが繰り広げる一大絵巻です。

 その、色彩に満ちたるつぼの中の、ぼくの席ときたらもぉ。。。
 すんごいんだから。

  ザ・シンフォニーって、コンサート専用のホールだから(かしらないけど)、ステージの横や後ろ側にも席があるんです。僕の席は、そのステージの後ろ側のいちばん端のいちばん前。ホルンのベルの正面でピアノのお姉ちゃんの胸元がのぞき込めちゃう席。覗いてないけど。。。
 指揮者がみえる分、音のバランスが良くなくって、シベリウスなんかはちょっと引いてしまったのだけれども。
 でも、松だよ、松。あのお祭り騒ぎは、その真ん中にいなくっちゃ。
 (フェスやシンフォニーって、予約するときに席が選べるんだ。だからすごく時間かかるけど、うれしいよね、この曲だからこの席、ってえらべるの)

 というわけで、冒頭のホルンから、袖のラッパ(これはすごい。ムーティ/フィラデルフィアより色気あった)、そしてクラリネット。トロンボンのユニゾンから四声に分かれるところ、ハープの伴奏、そしてペダルしか使わないパイプオルガン、なんといってもバンダ隊。
 お祭り騒ぎは、ほんとに楽しくて、でもすぐにおわっちゃった。

 休憩時間に飲んだワインもおいしかったけど、おわったあとの余韻に浸りながら、もういっぱい、飲みたかったな。 だって、あんまりにこにこしながら電車乗るのって、みっともいいものじゃないもんね。

2000年6月14日(水)

大阪フィルハーモニー交響楽団  第339回定期演奏会
朝比奈 隆指揮
大阪フィル
フェスティバルホール A席 2階 B列 R22番

リムスキー=コルサコフ 序曲「ロシアの復活祭」作品36
チャイコフスキー    交響曲 第五番 ホ短調 作品64

 今年のはじめのブラームスとおんなじ、二階席のいっとう前で聴く朝比奈さん。期待はいやが上にも高まるのだけれども。
 毎度のことながら、一曲捨て曲を選ぶとして、今回はもう、ほんとに迷わないのだけれども。そして、事実、「ロシアの復活祭」は、絢爛豪華で、聴き応えのあるソロもあったけど、朝比奈・大阪フィルじゃなくってもいいな、っていう感想におわったのだけれども。

 ここまで読んで、あれ、今回はあんまり乗り気じゃないな。と思ったあなた。それは正しいよ。

 チャイコフスキーの五番、って、まったく知らなかった。毎日、お昼についているテレビのコマーシャルに流れる曲がそれだ、っていうことも知らないほどの全くの無知。
 編成は、これまで観たなかでいちばんじゃないか、っていうほどの大編成。4ラッパ4トロンボンそして5ホルン。木管もたぶん普段の倍だね。弦もたぶんそれなりに多くって。そしてそいつらが鳴りまくる。初っぱなの和音がいかにもチャイコ、って感じで、それからも。ティンパニの乱打もたくさんあって、オケは大音響のスペクタクルだ。っていうのも頷ける。そして朝比奈さんの力強さ。重厚さ。前回とはうって変わって体調の良さそうな朝比奈さん。年齢からくる貫禄、だけじゃないんだろうなあ。これ。

 ってなわけで、たいへんすばらしい演奏なんだけれども。なんだかなあ。取り残されちゃったよ。
 いくつかはっきりしている理由があって。いちばん大きいのは座席、なんだろうなあ、きっと。むかし、マウントフジを一回だけ自由席で観たことがあって。それはそれで楽しいんだけれども、指定席のように演奏を聴く、っていうんじゃなくって、リゾートしてて、気がついたら演奏が鳴っている。って感じ。 それとおんなじなんだ。
 大音響のスペクタクルが展開されてるのに、それを外から見てる、って感じ。いま公開中のえすえふ映画、ミッション・トゥ・マーズをテレビで見てる、みたいなの。
 それから、曲を知らない、っていうのも大きいのかなあ。この演奏がどうこう、っていういぜんに、曲を知らない。クラッシックは、偉大な楽曲と偉大な演奏家が火花を散らす場だから、判断基準をその場で作ってハイ判定、っていうのは、やっぱりつらいのかなあ。
 ちょっと体調不良、っていうのもあって、いろんなこと考えちゃいました。

 ああ、もう一つ。
 最後はやっぱり大団円だから、気持ちよく盛り上がろうとしたんだけれども、指揮棒が振り下ろされる前どころか、音(余韻じゃなくって音)が消えないうちから待ってましたの「ブラボー」コール。これで一気に褪めちゃったのかな。「ブラボー」するほどの演奏じゃないだろう、って。
 カーテンコールも、少な目の二回。それはいいんだけれども。

 今度からはやっぱり一階で観よう、と決めた夜でした。

 でも、梅田に向かう帰り道。ガラス張りののっぽのビルに、まあるい月がいびつに映ってた。どこ?って振り返るんだけれども、これまたビルの間に隠れて見つからない。街灯かな、と思うんだけど、やっぱりまあるくって黄色い。どこ?ってうしろを振り返る。
 こんなことを何回も繰り返してやっとみえたお月様。まんげつまであと二日くらいの、まあるい月。こんなになるまで、知らなかったよ。梅雨、だもんね。
 なんてことをしながら歩いてたら、やっぱり気持ちよかったよ。

2000年5月10日(水)

朝比奈隆の軌跡2000 ベートーヴェン選集
朝比奈 隆指揮
大阪フィルハーモニー
ザ・シンフォニーホール 2階CC列9番 A

ベートーヴェン 交響曲第4番
ベートーヴェン 交響曲第5番「運命」

 まえに書いたと思うけれど、クラッシックのコンサートって、メインの一曲以外は、捨て曲になっちゃうことが多いよね。とくに今回みたいな交響曲ふたつ、みたいな場合。  そんでもって、ベートーヴェンの4番と5番、っていったら、捨て曲はどっちか、決まったようなもんだよね。片や泣く子も黙る運命。片や、、、知らんよ、4番、、、ってなもんだから。
 最初の一曲で、ささくれだった心の棘を、柔らかい弦の弓で削ってもらって、芯に固まった頑固なしこりを解きほぐして。そして二曲目でどっぷり浸る。そんなことを考えながら開演を待ったんだけれども。

 そうそう、今回は5年振りのザ・シンフォニー。といっても前回はウイントンだったから、ここで聴くはじめてのオケ。会場はとっても立派で、オケのための小屋、って感じ。

 さて、開演。一曲目は4番だから軽く流して。
 ところが、始まってすぐにそんなペース配分は吹っ飛んじゃった。だって、すごいよこれ、この緊張感。管の編成は小さいのだけれども、そのぶん弦が引っぱる引っぱる。知らない曲だったのだけれども、小さいしかけに引きずり込まれてウォームアップ、なんて忘れてしまいました。
 ピアニッシモが途切れたあとの静寂の緊張感って、家のオーディオじゃあ逆立ちしたってでないもんなあ。

 というわけで大満足の4番のあと。休憩を挟んでの5番は、朝比奈渾身のヒートアップ。弦も管も鳴らす鳴らす。さすがにオーバーヒートこそしなかったものの、3,4楽章ぶっ続けのクライマックスにわたしの方がちょいバテ気味。やっぱコンサートは一曲まで、なのかな。しっかし4楽章ってあんな長かったっけ?
 別に二時間なくてもいいから、交響曲は一曲ずつ聴きたいなあ。

 というわけで満腹だったのだけれども、楽章の合間に背もたれに寄っかかるほど体調の悪そうだった朝比奈さんが、団員の去ったあとのステージに出てきてくれたカーテンコールは、やっぱりじわっ、てしてしまいました。

 おきにのサマーセーター越しに感じる夜風がとっても心地よい、梅田までの道でした。
 

2000年4月14日(金)

第42回 大阪国際フェスティバル
Round About BACH Night --バッハをめぐる夜--
山下洋輔 
フェスティバルホール S席1st FL.ROW-B NO.R 5

J.S.バッハ プレリュード〜無伴奏チェロ組曲第一番 BWV. 1007より
J.S.バッハ 三声のリチェルカーレ〜音楽の捧げもの BWV. 1079より
山下洋輔  エコー・オブ・グレイ
J.S.バッハ G線上のアリア
山下洋輔  メヌエット

J.S.バッハ チェンバロ協奏曲第三番 BWV. 1054
山下洋輔  ピアノ協奏曲第一番 即興演奏家のための<<Encounter>>

ガーシュイン ラプソディー・イン・ブルー より 

 山下洋輔を、はじめて生で聴いたのは、たしか金沢のときだったな。ちっちゃなジャズ喫茶でのライブで、グランドピアノを挟んで洋輔さんと差し向かいになる席で、はじめての洋輔さんを聴いたっけ。じつは、あまりの心地よさに、大きな古時計を奏でているピアノに触れながら、ちょっとうとうとなども、してしまったのだけど。
 それから、何回目だろうな。あの時はトリオだったけど、そのあと、ビックバンドも聴いたな。去年の夏は、カルテットだったっけ。そういえば、社会人になってはじめての土曜日、はじめての大阪ではじめての洋輔さん、結局行き損なったっけ。

 そんなこんなで、今回は、洋輔 in クラッシック。そのむかし、読響かなんかとやってたラプソディ・イン・ブルーをテレビで見て、ぶっ飛んだのがたしか洋輔さんとの出会いだから、楽しみだったんだよね。これ。

 まあ、いいや。
 プログラムはね、最初はソロのバッハ。というか今回はバッハナイトだったので、バッハばっかだったのだけれども。洋輔さんのクラッシックといえば、彼の名盤「センチメンタル」で聴けるような、一応テーマはあんだけどやっぱり肘打ちぼこぼこ、でも題名は「センチメンタル」みたいなのがイメージだったのだけれども、それに比べれば非常におとなしくて、スコア通 りのバッハ。でも後ろで聴いてた、その道40年のシイクラお父さんの目は点になってたみたいだけど。
 いつも礼儀正しい洋輔さんのしゃべりのあとは、茂木大輔木管トリオでのバッハ。これはほんとのスコア通 りのバッハなんだけど。いいじゃん、これ。なんかいままでバッハって、たとえばカナディアン・ブラスとかの金管五重奏でしか聴いたことなかったんだよね。そうじゃない、オリジナルのバッハって、こんなにほっとするんだ。っていつもグレゴリオ聖歌聴いてるのに。オーボエとクラリネットだと、クラが音負けするんだ、ってのも新発見。
 まあ、あとはパーカッションが入ったり、N響のトリオにフリーのソロとらせてジャズ研の先輩みたいにいたぶってみたりして一部がおわり。

 そんで、二部では佐渡裕率いる京都市交響楽団とのコンチェルト。
 とくに、最後は山下洋輔自作自演。和太鼓入り。
 こればっかりは聴いてもらわないとね。やっぱバッハと並べちゃあなあ、とか、うわっ、この吹奏楽っぽい現代の響き、 とか冷静に聴いてられたのは、一楽章までだね。あとはもう、うぎょ、ぐがっ、がへっ、かっかっかっこいいじゃねえかこのやろう。 オーケストラそっちのけで太鼓とセッションしてるよ。あーあわあわあわあわしずかに肘うちしてますこの人。 そんなわけで抱腹絶倒、お客も絶叫のうちに大団円。めでたしめでたしとなるところが、まだおわってないんだなあ。
 なんと、アンコール、ラプソディ・イン・ブルー。ははは、へへへ、ふにょふにょ。生で聴いちゃったよ、わーい。 京都市響って、みんなとっても若くて、かわいいおねえちゃんも何人もいたりして、とっても印象のいい楽団なんだけど、演奏も若い。おもわず母校の吹奏楽を思い出してしまったよ。

 ああ、いいなあ、山下洋輔。次はいつかな。
 あれ、このチケットなんだ? 九月五日? 山下洋輔? 佐渡裕? ラプソディー・イン・ブルー? あれ? もう聴いちゃったぞ? 今度は大フィル? おお、楽しみじゃないか。

2000年3月10日(金)

大阪フィルハーモニー交響楽団  第336回定期演奏会
朝比奈 隆指揮
大阪フィル
フェスティバルホール B席 1階 CC列 R36番

ベートーヴェン:交響曲 第2番 ニ長調 作品36
ベートーヴェン:交響曲 第6番 ヘ長調 作品68「田園」

 さて、待望の朝比奈、ベートーベンチクルス第一回。正確にはチクルスじゃないんだろうけど、今回と、シンフォニーホールでの三回で一から八まで。そして、世紀末の年末に第九。というベートーベン全集。ふふふ、シンフォニーホールの三回も、もうチケット取っちゃったもんね。
 というわけで、今回は二番と六番。
 ベートーベンって生で聴いたの第九だけだし、CDでもってるのって、1,3,5,9くらいかな。誰の演奏家は秘密ね。ちょっと恥ずかしい人です。というわけで、二番は初聴き。六番は、さすがに知ってるよね。

 この前も書いた様な気がするけど、ほんとに集中できるのって、一曲だよね、きっと。聴く方も演奏者も。でもって、今回は交響曲二つ。豪華だなあ、と思う人もいるかもしれないけれど、もったいないなあ、と思うよね。せっかくの朝比奈のベートーベン、一晩に二つも聴かなくっちゃいけないなんて、もったいない。

 というわけで、というか体調が悪かったせいか、席が良くなかったせいか、最初の二番、あんまり入り込めなかった。すごく心地いいんだけど、なんか遠くでなってる感じ。ああ、B席ってこんな感じなのかな、って思ってたんだけど。
 でもどうやら、それは違ったらしいね。
 だって、休憩あけの六番。いきなりがつん、だよ。それはもしかしたら、小耳にはさんだことのあるメロディが流れてきたから、なでのかもしれないけれども。いや、でも違うよ、きっと。だってさっき(二番)と全然違うもん。オケとの距離感も、でてくるサウンドも。ああ、これが田園なんだ、って。
 一楽章の途中で、椅子に寄りかかるのをやめて前のめりになって、最後まで。楽章が進むに連れて終わりが近くなるのがいやでいやしょうがなくって。このままずっと続けばいいのに、って思った。

 お気に入りのコンサートのあと、フェスティバルホールから阪急梅田までの道のりって、なんか楽しいよ。


2000年3月8日(水)

リンカーン・センタージャズ・オーケストラ
with ウイントン・マルサリス
フェスティバルホール S席 1階 H列 L27番

Back to Basics
Blue Bird of Delhi
Goodbye Parkpie Hat
I mean you
Asia Minor
Old circles Train Turnarand Blues
The Woogie
Manteca Suite III
Darriene Niles
Sisters
Dead Man Man Blues
Big Train

Things to Come
Dead Man's Blues

 「あの」マウントフジでの演奏から、もう10年になるのかな? あの三日三晩の興奮が忘れなくて、聴き逃すまいと決めたウイントン、この10年でやっと3回目のコンサート。
 五年前のザ・シンフォニーでののセプテット、ピット・インでのエルビンと組んだカルテットに続いて今回は、自分のビッグバンド、リンカーンセンター・ジャズオーケストラ。

 ウイントンって、正確無比だけど冷たいヤツ、って思われてるじゃない、いまだに。ディープサウスのブルース三部作で、「女性の閨の声をモチーフにした」とかいっても、ビデオ見て研究したのね、チェリーボーイちゃん、って感じで。
 「あの」マウントフジを見たひとはそんなこと思わないんだけれど、そういうイメージ、ってあるよね。残念なことに、それ以降のアルバムやライブでも、そのイメージを完全に払拭できるものって、ないんだ。おれのなかでも。
 というわけで、今回こそは、という期待半分、不安半分でのコンサートでした。

 最初の曲、ウイントンはピアノ前でオン・ステージ状態。お得意のばこばこミュートをフューチャー。ああ、ウイントン with リンカーン・センターなのね、と思ったら、ウイントンはすぐ4th Trpの位 置に。そのあとは「普通の」ビックバンドもの。思ってたよりもモダンで、音も薄目かな。うちのバンドでもやったポークパイハットをTrbフューチャーで。これはかっこよかったね。
 コンサートは「淡々」といった感じで進んでいって。ウイントンもとくにソロが多いわけでもなくて、みんなにまんべんなくソロが回る。ふうん、こんなもんか、と思った矢先。やってくれました待望の「ジャングル・サウンド」そうそう、そんな薄い音のヤツなんかMJOにまかせといてさ、ウイントンのビックバンドってったら、こうじゃなくっちゃ。いいなあ、最後の決めが不発におわるところなんか、とってもいいなあ。
 結局、これが最後になっちゃったんだけれども、次のアンコール。ガレスピーのぶっぱや。なんだ、あるんじゃん、こんなの。ガレスピーの曲のときだけ、ウイントンのソロって違うんだよね。普段使わないハイ・ノートびしばし。それが全部決まるんだ。すごいよ。
 ほんとの最後は、コンボでデキシー。単純な二拍子が、いいなあ。

 というわけで、最後の三曲で大満足してしまいました。おまけに、日本盤はないと思ってたBig Trainもあったし。満足満足。
 ただ、最後に張り出された曲目表を見たら、最後のジャングル(Big Train)の代わりに、予定されたのはAd lib on Nippon。ううむ。こっちも聴きたかったなあ。


2000年1月25日(火)

朝日新聞創刊120周年記念 朝比奈隆のブラームス
朝比奈 隆指揮  
大阪フィル
フェスティバルホール S席 Lサイド 2階 F列 22番
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 v.加藤 知子
ブラームス:交響曲 第一番

 元気なうちにいつか聴かなくちゃ、と思いつつ今まで足遠かった朝比奈/大阪フィル。最初に聴くならベートーヴェン、と思ってたんだけれども、公演直前に目に入った新聞広告で衝動聴き。でも、こんなコンサートに出会えたんだから、取ってたかい、あったなあ、朝日新聞。
 まず驚いたのは、元気なんだ。朝比奈さん。92歳だよ。なのに、長大な交響曲振るのに、指揮台に椅子もない。きちんと立って、すばらしい指揮をする。
 最初のヴァイオリン協奏曲はね、眠かった。そういえば、むかし通ったコンサートでも、お目当ての目玉 曲以外は、こうやってうとうとしてたな、とか思いながら気持ちよくうとうとしてた。二階席だから、かもしれないけれども、ヴァイオリンのソロも貧弱に聞こえて。まあ、10年振りくらいのオーケストラのサウンドが、耳に心地よかった。
 20分の休憩を挟んで、ブラームスの一番。ブラームスっていうと四番、っていうイメージがあって、あんまりまじめに聞いたことがなかった、一番。これがね、すごかった。なんていうのかな、まじめな交響曲。決して派手ではないんだけれども、重厚、っていうのかな、こういうの。10年前くらいにいっしょうけんめい通 った外タレのオケでは、フランスものとか、近代物とか、そういう「企画もの」を主に選んでたんだけれども。だからたぶん、高校生のときの「第九」以来のドイツの交響曲。
 よかったよ。すごく。たとえば二楽章の終わり、コンマスのヴァイオリンが一瞬はだかになるところ。こういうところ、演奏者冥利に尽きる、っていうんだろうなあ。そういえば、知り合いのヴァイオリン弾きが、コンマスに昇格してブラームスの一番、すごく燃えてたっけ。
 パンフレットに、大阪の客は曲が終わると余韻を待たないですぐ拍手して品が悪い、とか書いてあって、始まる前はちょっと憂鬱だったんだけど、気がついてみたら、率先して拍手する方に回ってた。いいじゃん、余韻を楽しむのは最初の三楽章でできてるじゃん。
 そして、鳴りやまないカーテンコール。律儀にいつまでも出てくる朝比奈さん。もう、精も根も尽き果 てて、オケが帰ったあとに一人で出てきたときは、団員の座っていた椅子にもたれて、でも拍手に答えてくれる朝比奈さん。なんか知らないけれど、それまでいっしょうけんめいこらえてたのに、涙出てきたよ。
 ありがとう、朝比奈さん。クラッシックって、いいね。

 ちょっと追っかけ、してみるよ。