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11.さよならバースディ 12.あの日にドライブ 13.ママの狙撃銃 14.押入れのちよ 15.四度目の氷河期 16.サニーサイドエッグ 18.愛しの座敷わらし 19.ちょいな人々 20.オイアウエ漂流記 |
【作家歴】、オロロ畑でつかまえて、なかよし小鳩組、噂、誘拐ラプソディー、母恋旅烏、コールドゲーム、神様からひと言、メリーゴーランド、僕たちの戦争、明日の記憶 |
ひまわり事件、砂の王国、月の上の観覧車、誰にも書ける一冊の本、幸せになる百通りの方法、花のさくら通り、家族写真、二千七百の夏と冬、冷蔵庫を抱きしめて、金魚姫 |
ギブ・ミー・ア・チャンス、海の見える理髪店、ストロベリーライフ、海馬の尻尾、極小農園日記、逢魔が時に会いましょう、それでも空は青い、楽園の真下、ワンダーランド急行、笑う森 |
我らが緑の大地 |
●「さよならバースディ」● ★☆ |
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2008年05月
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主人公である田中真は、多摩の山の中にある東京霊長類研究センターの研究員で、現在類人猿について言語習得能力の実験を行っている。 その真には大切な人が2人います。それは、実験対象であると共に子供のように可愛がっているボノボ(ピグミーチンパンジー)のバースディと、同僚の藤本由紀。 子ザルのバースディを使っての会話実験は元々安達助教授が始めたものでしたが、その安達が1年前突如自殺を遂げ、今は真と由紀が中心になって実験を継続しているという状況。 バースディの会話実験が順調に成果を挙げていることから、センターの責任者である野坂教授は、バースディの成果を大々的に発表しようと目論んでいる。 そんな折、真は由紀に正式にプロポーズしますが、その夜由紀は謎の死を遂げてしまう。飛び降り自殺か、あるいは他殺か。鍵を握っているのは、その場にいた筈のバースディのみ。 真はバースディの会話能力に全てを託し、バースディから真相を引き出そうとする、というストーリィ。 帯には「サルだけが知っている愛する人の真実」「長編ミステリー」とあり、確かにミステリに違いはないのですが、読後感からすると愛する者たちの切ないストーリィ、と言いたい。 読了後には、バースディのこれからの幸せを願わずにはいられません。 |
●「あの日にドライブ」● ★★ |
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2009年04月
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主人公の牧村伸郎は、大手都市銀行で順調に昇進ルートを歩んでいた元エリート銀行員。でも、今はタクシー運転手。 少し前まで大企業もリストラ大合唱していた今日、他人事ではないのです。早期退職者募集に応じて退職していった元同僚たち、今頃どうしているのやら。ですから、この主人公には身につまされるのです。 「明日の記憶」で荻原さんは現代社会に生じた新たな個人の問題を鮮やかに切り出して見せましたが、本作品もそれに連なるストーリィと思います。切り口の鮮やかさがお見事。 |
●「ママの狙撃銃」● ★☆ |
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2008年10月
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帯の宣伝文句には「ふたり(福田曜子と孝平)は、ごくふつうの恋をし、ごくふつうの結婚をしました。ただひとつ違っていたのは・・・」とあるのですが、見た途端、それはないよなァと声を洩らしてしまいました。 本書の主人公である福田曜子は、凡人の夫、フツーの娘と息子をもつ平凡な主婦。しかし、彼女には隠している過去があった。それは少女時代、アイルランド系米国人の祖父・エドと共に過した米国・オクラホマでの10年間の暮らし。 本書は、荻原作品の中では軽い方の部類。それなりに読ませてはくれるものの、もうひとつ迫力を感じません。 ※リメイク版映画の感想はこちら → “奥さまは魔女” |
●「押入れのちよ」● ★ |
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2009年01月
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「今ならこの格安物件、かわいい女の子が(14歳・ただし明治生まれ)ついてきます−」というのが帯の売り文句。 多少不気味なところがあるのは構わないけれど、後味の悪さが残ってしまうのは私にはいただけない。 本書で注目すべきは、はやり表題作の「押入れのちよ」。失業中の青年と、彼が引っ越した先の安アパートに住み着いていた女の子の幽霊の話。明治生まれながら少女という設定のからにじみ出てくるコミカルさが楽しめます。 お母さまのロシアのスープ/コール/押入れのちよ/老猫/殺意のレシピ/介護の鬼/予期せぬ訪問者/木下闇/しんちゃんの自転車 |
●「四度目の氷河期」● ★★ |
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2009年10月
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丹念に描かれた少年の成長ストーリィ。 大学の研究者である母親との2人暮らしである主人公・南山ワタルは、狭い町の中で日本人離れしている風貌、母親が未婚であることから疎外され、子供の頃からイジメられているのが普通という状況の中で育った。彼がその中でめげなかったのは、人並みはずれた身体能力をもっていたおかげ。 周囲の冷たい視線を跳ね返すように雄々しく成長してワタルのストーリィはそれだけで読み応えありますが、それだけでは特筆するようなものはありません。 ストーリィの背景はスケール雄大なものですが、逆境に打ち勝って成長していく少年・少女の姿を描いているところは極めて地道なものです。その2つをうまく纏め上げているところが本作品のミソでしょう。 |
●「サニーサイドエッグ」● ☆ |
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2010年05月
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「ハードボイルド・エッグ」に続く私立探偵・最上俊平もの第2弾。 フィリップ・マーロウばりのハードボイルド風探偵を気取るものの、最上探偵事務所には閑古鳥が鳴き、たまに来る仕事といえば逃げ出したペット探しというものばかり。 ハードボイルドを気取るにも関わらず現実は、そしてそんな現実にも関わらずハードボイルド探偵並みの格好づけを余儀なくされるという、最上俊平のパロディのような展開が本作品の面白さでしょう。 |
●「さよなら、そしてこんにちは」● ★★ |
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2010年11月
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仕事で翻弄される人たちの喜怒哀楽を温かい目で、ユーモラスに描いた短篇集。 7篇の最後はクリスマスにまつわる話ですが、本書はクリスマスにとらわれるストーリィではないにも関わらず、温かい心でクリスマスを迎えたいという気分にさせられてしまいます。 ・実は笑い上戸の葬儀社社員。初めての女の子がもうすぐ生まれるとあって、つい嬉しさがこみ上げてしまう。 7篇中では、表題作「さよなら、そしてこんにちは」が私は一番好きですね〜。 さよなら、そしてこんにちは/ビューティフルライフ/スーパーマンの憂鬱/美獣戦隊ナイトレンジャー/寿し辰のいちばん長い日/スローライフ/長福寺のメリークリスマス |
●「愛しの座敷わらし」● ★★ |
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2011年05月
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祖母、夫婦、中学生の長女に小学生の長男、それに犬のクッキーというのが、本書主人公となる高橋一家の構成。 ボケの入っている祖母=澄代、お調子者で根性のない晃一、前の学校で除け者にされていたという傷を抱える梓美(あずみ)、喘息もちの智也、しっかり者の主婦=史子という高橋一家は、この家でどんな生活を営むことになるのやら。 紺色の着物を着た4、5歳位の子供といった姿で、ぼさぼさの髪は銀杏の葉っぱをさかさにしたような形。性格は怖がりや。 しかし、残念ながら物語には常に終りがあります。それはもう仕方ないことと観念する他ないものですが、最後の最後であっと言わされます。 |
※映画化 → 「HOME 愛しの座敷わらし」
●「ちょいな人々」●(絵:益田ミリ) ★★ |
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2011年07月
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本書で描かれるのはどれも身近なことばかり。それが、こんなにも滑稽なストーリィに成り得るなんて! 「ちょいな人々」とはどんな意味だろう?と誰しも思う筈。 「ガーデンウォーズ」は、庭木とガーデニングを巡り角突き合わせる老人と主婦という隣人同士の信義無き戦いを描いた篇。子供たちも呆れる程ヒートアップしてしまう様が何とも可笑しい。 ちょいな人々/ガーデンウォーズ/占い師の悪運/いじめ電話相談室/犬猫語完全翻訳機/正直メール/くたばれ、タイガース |
●「オイアウエ漂流記」● ★★ |
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2012年02月
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桐野夏生「東京島」が現代的なサバイバルゲームを漂流記に持ち込んだものとしたら、本書は現代的サラリーマン社会+αに無人島生活ノウハウ例を加えてコミカルに語った荻原版漂流記。 トンガからラウラに飛んだボロいプロペラ機が嵐にあって海上に不時着。乗客が救命ボートでやっと辿り着いたのは、小さな無人島。 主人公であるその下っ端社員を叱咤激励して後押しするのが、女性主任という構図は、まこと現代的ですなぁ〜。 ノー天気な副社長やパワハラ部長の存在など、最初こそとんでもないと思っていたのが、いろいろな人物がいてこそ無人島生活も退屈しない、かえって楽しいところもある、と思えてくるところが、本作品のユーモラスなところ。 ※「オイアウエ」とは、現地で「おお」「ああ」「いやはや」とか、喜怒哀楽すべてを表す言葉とのこと。 |
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