文字と発音

クリンゴン語に使われる文字は、映画でも見られる様に、とげとげしい感じのする文字です。この文字体系をクリンゴン語ではpIqaD[ピカッド]と言います。現在のところ、このpIqaDに関してはあまりよく分かっていません。見たところ、一つ一つの文字はつながらずに独立しており、左から右へ進む横書きの文字であることは分かります。文字の数からすると、明らかに音表文字であると思われますが、ローマ字の様な音韻文字なのか、かな文字の様な音節文字なのかは分かりません。(但し、これも文字数から音韻文字であると思われます。)また、ところどころに空白が挿入されていますが、それが語の切れ目なのか、文の切れ目なのか、または全く別なものなのかは、はっきりしません。ピリオドやコンマ等の句読点はありません。

現時点では、pIqaDの代用として、クリンゴン語の音をローマ字で表記する方法が一般的です。実際、この方法があまりにも普及したため、pIqaDの解読への努力はおろそかになっている様です。

以下がクリンゴン語のローマ字表記に使われる文字の一覧です。クリンゴン語辞典等の見出しもこの順番になっています。ちょっと見にくいかもしれませんが、
一番最後の「’」も見落とさないで下さい。

a, b, ch, D, e, gh, H, I, j, l, m, n, ng,
o, p, q, Q, r, S, t, tlh, u, v, w, y, ’
英語の音とは違っていることを強調するためか、いくつかの文字は大文字になっています。従って、大文字・小文字の区別はなく、例えば、文頭でも文字を大文字にするということはありません。大文字のものは常に大文字、小文字のものは常に小文字です。クリンゴン語を書く時には、この大文字・小文字に注意しましょう。

また、2,3文字で一つの音を表わしているものもあります。これらはみな一文字とみなされます。クリンゴン語を読む時には、このことに注意して2,3音に発音したりしない様にしましょう。

クリンゴン語の発音はほとんどローマ字読みでよいのですが(そのためのローマ字表記なのですから)、一部日本人には馴染みのない音もあります。しかし、地球上に存在しないという音は一つもありません。つまり、どの音も地球人にも発音可能なのです。

では、各音の発音を見ていきましょう。言葉で説明しただけでは、分からないかも知れません。言語音は実際に耳で聞くのが一番です。しかし、当入門ではまだサウンドを扱うことは出来ませんので、映画等を見て参考にして下さい。(サウンドは現在 .au 形式で準備中です。)


母音

単母音

a[ア]
e[エ]
I[イ]
o[オゥ]ただのオでないことに注意。
u[ウー]長く延ばすことに注意。

二重母音

aw[アゥ]
ay[アィ]
ey[エィ]
Iy[イー]
oy[オィ]
uy[ウーィ]
ew[ェウ]euを同時に発音する。ドイツ語のoウムラオトに近い。
Iw[ィウ]Iuを同時に発音する。ドイツ語のuウムラオトに近い。

子音

b:英語のbと同じ。

ch:英語のchと同じ。

D:英語のdは舌の先を上のはぐきに付けますが、このDは舌の先を真上(硬口蓋)に付けて発音します。いわゆるそり舌音です。普通のd音よりも深くくぐもった感じに聞こえるはずです。アラビア語の分かる人は「ダード」を発音すればよいです。

gh:下のHの有声音です。g音にならない様に注意しましょう。こちらはもっとのどの力を抜いてルーズに発音します。

H:ドイツ語のch、スペイン語のj、ロシア語のx、中国語の「花」の先頭の子音と思ってかまいません。英語にはない音ですが、普通khと綴られる音です。
「ハヒフヘホ」を言う時には、息は口の真ん中を通り抜けていく感じがしますが、この息を口の奥、あるいはのどの当てるつもりで発音します。つまり、冬に手を暖める時に「ハーッ」とやる時の様にして声は出さずに息だけを抜きます。この時、声を出せばghが発音出来ます。よく分からない人はドイツ語、スペイン語、ロシア語、中国語、アラビア語、ヘブライ語等の出来る人に聞きましょう。

j:英語のjと同じ「ジャ・ジ・ジュ・ジェ・ジョ」の音です。フランス語やロシア語のjとは異なります。フランス語を知らない人は気にせず「ジャ・ジ・ジュ・ジェ・ジョ」と発音しましょう。

l:英語のlと同じ。

m:英語のmと同じ。

n:英語のnと同じ。

ng:鼻に抜ける「ガギグゲゴ」の音。口から出る「ガギグゲゴ」とは異なります。「音楽」と言うときの「ガ」はngで、「学校」と言う時の「ガ」はgです。現代の日本語ではあまり区別されなくなりつつある音です。お年寄り等はこの二種類を区別して、近ごろの日本語はくずれたと嘆くわけですが、私自身このng音を避けて全てg音で発音しているのが現状です。クリンゴン語にはg音がなくngのみなので、gh共々注意して発音しましょう。

p:英語のpを強くした感じの音です。実際、唾を飛ばすくらい激しく発音して下さい。

q:英語のkに似ていますが、もう少しのどの奥の方で発音します。「カキクケコ」の時よりも、のどに力を入れて、のどを一度閉めてから、突然開放し、一気に息を放出させる感じです。しばらく練習するとのどが痛くなりますので、無理をしない様にご注意下さい。

Q:のどを激しくきしらせて発音する音です。Qaはまさに啖を出すときの「カーッ」という音です。クリンゴン語ではれっきとした言語音なので、出し惜しみせずに思いっきり強くはっきりと発音しましょう。この後に「ペッ」と続かない様にご注意(?)。

r:いわゆるまき舌のrです。舌をトリル(激しく振動)させます。

S:英語のsとshの中間で、アラビア語の「サード」です。Dの時と同じ様に舌の先を真上に付けてsを発音します。くぐもった感じの「シャ・シ・シュ・シェ・ショ」が聞こえるはずです。

t:英語のtと同じ。Dにつられてそり舌にする必要はありません。

tlh:おそらくこれが一番厄介な音でしょう。綴りの通り、tとlが合わさった音としか言い様のない音です。tは、舌の先をはぐきに付けて、次にそこに空気を送り込み、舌の先を突然開くことによって音を出します。lは、舌の先をはぐきに付けたまま、舌の両わきに空気を流して音を出します。tlhは、舌の先を上のはぐきに付け、舌の両わきも下の奥の両はぐきに付けます。そこに空気を送り込み、舌の両わきを突然開くことによって音を出します。
多分、言葉で説明されても分からないかもしれません。実際には、これらの動作はほんの一瞬の内に完了してしまうもので、いちいち考えながらやっていたのでは発音出来ません。映画等を利用して、耳から覚えましょう。

v:英語のvと同じ。

w:英語のwと同じ。但し、話し手が思案ぎみの時にはHw
更にはHuwの様に長めに発音されることもあります。

y:英語のyと同じ。

:これは声門閉鎖音です。アラビア語の「ハムザ」です。また、ドイツ語でも、綴りには現われませんが、母音で始まる語の先頭にはこの音が軽く添えられており、このため、ドイツ語にはリエゾンが起こりません。
日本語で言うと、「あっあ」「いっい」「うっう」「えっえ」「おっお」と母音の間に「小さなつ」を入れると、ちょうどこの「っ」の部分がこの音になります。のどの奥の方を一時的に閉めて、次の瞬間一気に開いて、息を放出します。後に母音が続かない場合は、息をのみ込むかたちになります。難しいことは考えずに、とりあえずは「小さなつ」を意識的に発音していれば、コツがつかめるでしょう。

アクセント

クリンゴン語のアクセントは、英語風の強弱アクセントと日本語風の高低アクセントが混ざり合った感じのものです。アクセントのある音節は、他の音節よりも強めに、そして高めに発音されます。

動詞の場合は、(接辞ではなく)動詞自身にアクセントが置かれます。また、’で終わる接尾辞があり、それが他の接尾辞によって動詞から離されている場合、つまり動詞の直後でない場合には、動詞とその接尾辞の両方にアクセントが置かれます。また、他の接尾辞でもその意味を強調する場合には、そこにもアクセントが置かれます。

名詞の場合は、接尾辞を除いた最後の音節にアクセントが来ます。但し、’で終わる音節があると、アクセントはそちらへ移ります。’で終わる音節が二つ以上あれば、その全てにアクセントが置かれます。

なれない内は、とにかく’を見たら強く発音すれば、それなりに聞ける発音になるでしょう。


発音の仮名表記について

日本語を表記するために開発された文字である仮名を、外国語の表記に使うことには当然ながら無理があります。

例えば、英語の「this」を仮名ではどう表記すればよいでしょうか。普通は「ジス」と書かれるでしょう。あるいは「ディス」と書くこともあるでしょう。しかし「ジス」は[zjisu]または[dzisu]、「ディス」は[disu]であり、いわゆる「舌を噛むth音」ではありません。この場合、「じス」という様にth音はひらがなで表記すると決めてしまえば、取り敢えずは解決します。

では「this」のs音はどうでしょうか。仮名の「ス」では[su]になってしまいます。外国語に見られる子音のみの音を仮名では表記出来ません。しかしこれも結局は決めの問題で、仮名に下線を引いたり、何らかの記号を付けたりで、解決することでしょう。

しかし、もう一つ残るのは母音の問題です。日本語では母音は「あいうえお」の5種類ですが、英語には10種類以上もあります。まあ、これも記号を付ける等で対応出来ないこともありません。

私は、文字の表記は単なる決めの問題であると思います。「あ」を[a]と読むのはそう決められて、それが世間一般に広く認められているからであって、決してそこに論理的な理由があるわけではありません。ですからクリンゴン語を仮名で表記する時にはこうします、と約束ごとを決めておけば、それはそれでよいわけです。

但し、ここで一つ重要なことがあります。それは、言語は文化であり、文字もその文化の一部であるということです。日本に暮らして日本語だけ知っていればよい、別に外国には興味がない、外国の情報も日本語訳で分かればよい、というのであれば、特に文字まで覚える必要はないでしょう。しかしそれなら言語そのものも学ぶ必要はありません。これからクリンゴン語を学ぶからには、その独自の表記体系も併せて習得すべきだと思います。(もちろん、ローマ字自体はクリンゴン文字ではありませんが...)

しかしながら、皆さんの中には英語が嫌い、ローマ字はどうも苦手だ、という人も少なくはないでしょう。そこで、当入門ではクリンゴン語の例文に読み仮名をふることにしました。これはあくまでも、かなり大ざっぱな近似音を示すのみなので、これに頼っていてはいつまで経っても発音は上達しません。出来ればこのページの発音の説明をよく読んでローマ字に挑んでみましょう。但し、文法はこの限りではありません。発音が難しくて先へ進めないというのでは困ります。そこで、発音がよく分からなければ、細かいことは気にせずに、カタカナ発音でもよいから、読み進めて行きましょう。文法知識が増えて余裕が出てくれば、自ずと発音にも注意を配ることが出来る様になるでしょう。実際、クリンゴン人だからといって正確な発音をしているというわけでもありませんから、あまり神経質になる必要はありません。

当入門では以下の仮名表記を使います。

母音
aawアゥayアィ
eewェウeyエィ
IIwィウIyイー
oオゥoyオィ
uウーuyウーィ

子音。母音「a, e, I, o, u」と結び付いた形。
bバ・ベ・ビ・ボゥ・ブー
chチャ・チェ・チ・チョゥ・チュー
Dダ・デ・ディ・ドウ・ドゥー
ghガ・ゲ・ギ・ゴゥ・グー
Hハ・ヘ・ヒ・ホゥ・フー
jジャ・ジェ・ジ・ジョゥ・ジュー
lラ・レ・リ・ロゥ・ルー
mマ・メ・ミ・モゥ・ムー
nナ・ネ・ニ・ノゥ・ヌー
ngンガ・ンゲ・ンギ・ンゴゥ・ングー
pパ・ペ・ピ・ポゥ・プー
qカ・ケ・キ・コゥ・クー
Qか・け・き・こぅ・くー
rら・れ・り・ろぅ・るー
Sシャ・シェ・シ・ショゥ・シュー
tタ・テ・ティ・トウ・トゥー
tlhてぃら・てぃれ・てぃり・てぃろぅ・てぃるー
vヴァ・ヴェ・ヴィ・ヴォゥ・ヴー
wワ・ウェ・ウィ・ウォゥ・ウゥー
yヤ・イェ・ユィ・ヨゥ・ユー
ッア・ッエ・ッイ・ッオゥ・ッウー


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Ver.1 1996.1.15
Ver.2 1996.7.14仮名表記について追加。

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