'uQ vISoppu'：私は晩餐を食べ終えた。

reH 'uQvam vIqawtaH：私はこの晩餐をずっと忘れません。

jagh Duj wIQaw'ta'：我々は敵の船を破壊した。

De' lI' vIlI'lI'：私は有益な情報を送信中です。

• 英語では、現在・過去・未来を示す時に、do, did, will doの様に動詞が変化します。この現在・過去・未来の区別のことを「時制」と言います。

• クリンゴン語には、「時制」はありません。つまり、現在・過去・未来の区別によって動詞が変化することはありません。以下のクリンゴン語の文と英文を較べてみて下さい。

  DaHjaj jIjaH
  ：Today, I go.
  ：今日私は行きます。

  wa'Hu' jIjaH
  ：Yesterday, I went.
  ：昨日私は行きました。

  wa'leS jIjaH
  ：Tommorow, I will go.
  ：明日私は行きます（行くでしょう）。

• ここで一つ気付かれるかもしれませんが、日本語も現在と未来では表現上の区別がありません。未来の表現には「〜でしょう」とも言われますが、日常会話では「〜です」と言っても未来の表現として通用します。

• 日本語にも「〜する・〜した・〜するでしょう」と現在・過去・未来がそろっていますが、これらは英語の学習・翻訳のための表現で、実は日本語にも時制はないのです。「〜でしょう」は推量の表現で、まだ確定していない未来の表現に流用されているのです。では、「〜した」はどうでしょうか。日本語で過去のことを言う時には「〜した」が必要です。ということは過去時制はあるのでしょうか。

• 実はこの「〜した」は、正確には「完了」つまりもうすでに終わってしまったことを示す表現なのです。過去のことはもう過ぎたことなので、この「完了」が使われるのです。

• この様な動作が完了したかどうかの区別のことを「アスペクト」または「相」と言って、「時制」とは別に考えられます。

• 「アスペクト」には「完了・不完了・継続・不継続」等の区別があります。「完了・不完了」は動作がすでに終了したものか否かを区別します。「継続・不継続」は動作が継続・進行中か否か、あるいは動作が一回限りのものか等を示します。

• つまり、英語は現在・過去・未来の「時制」の区別を持った言語であるのに対して、日本語は完了・継続等の「アスペクト」を持った言語なのです。

• では、肝心のクリンゴン語はどうでしょうか。クリンゴン語も、日本語同様「時制」を持たずに「アスペクト」を持つ言語なのです。つまり、この点では日本語の言語感覚がほぼ通用します。

• 英語話者に対するクリンゴン語の解説では、クリンゴン語の「アスペクト」を英語の「時制」体系に変換して説明がなされます。この時に「現在完了」等が出てきます。これはちょうど、私たち日本人が学校の英語の授業で「現在完了」等を苦労して日本語の「完了相」に当てはめて、結局はよく理解出来ないのと、逆方向の現象と言えるでしょう。

• つまり、日本人がクリンゴン語を学ぶ時には、この様な変換操作が必要ないということです。この点は米国人よりも日本人の方が優利です。しかし、だからと言って全く同じというわけでもありません。クリンゴン語はあくまで「外国語」なのですから、当然違いもあります。上述の例文に見る通り、昨日のことを言う場合、日本語では「完了」が使われるのにクリンゴン語ではそうではありません。

• さて、前置きが異常に長くなってしまいましたが、以上の点を踏まえた上で、クリンゴン語の「アスペクト」について見ていきましょう。

• クリンゴン語のアスペクトには以下の５種類の区別があります。これらはみな、第７類接尾辞で示されます。

  接尾辞なし	：中立
  -pu'	：完了（perfective）
  -ta'	：達成（accomplished, done）
  -taH	：継続（continuous）
  -lI'	：最中（in progress）

• まず、第７類接尾辞が付いていないのは、完了でもなく継続でもないことを示します。単にその動作をするという事実のみを表現します。日本語の場合、単に「〜する」と訳せばよいです。

  jISop：私は食べる。

• さて、以下は基本的には「完了」と「継続」なのですが、それぞれ２種類づつあります。これらはクリンゴン語特有の区別なので、日本語で訳し分けることは難しいものです。一応、「THE KLINGON DICTIONARY」の用語を、完了相は「完了」と「達成」、継続相は「継続」と「最中」という様に、それぞれ直感的にイメージがわく様な命名（訳）をしました。

• これらの違いは、簡単に言うと、はっきりとした明確な到達点があるか否かの違いです。

• まず、完了相の-pu'「完了」と-ta'「達成」から見ていきましょう。これらは、どちらもその動作がすでに終了したことを示す接尾辞です。日本語では「〜した」「〜してしまった」等と訳せます。以下の文はどちらも日本語に訳すと同じ表現になります。

  vIHoHpu'：私は彼を殺した。
  vIHoHta'：私は彼を殺した。
  （vI-：私は彼/彼女/それを、HoH：殺す）

• 二つの接尾辞の意味の違いは、-pu'が単純に動作の完了を示すのに対して、 -ta'の場合はその完了した動作には明確な到達点があった、ということです。ですから上の例文でvIHoHta'の場合には、相手を殺すという明確な到達点、言い替えれば目標、を持った上で動作を起こし、その結果殺すということを成し遂げたことを意味します。vIHoHpu'の方は、例えば事故等で誤って相手を殺してしまった場合に使われます。

• 次に継続相の方を見てみましょう。こちらは動作が継続中であることを意味しますので、日本語では「〜している」に当たります。-taH「継続」は単純な継続で、-lI'「最中」は明確な到達点を持った継続です。

  mucholtaH：私に近づいて来ている。
  muchollI'：私に近づいてて来ている。
  （mu-：彼/彼女/それは私に、chol：近づく）

• 上の例では、どちらもある何かが「私」の方に近づきつつあることを示します。muchollI'の方には、明確な到達点、つまりこの場合には「私」に向かって来ていることを示します。mucholtaHでは、特に「私」が目標ではなくどこかある方向へ向かっていて、たまたまその進路上に「私」がいるので、その結果「私」に近づいて来ていることになります。

• もう一つ例を挙げましょう。バード・オブ・プレイを連邦航宙艦が追跡しています。この時、バード・オブ・プレイのレーダー係は船長にこう報告するでしょう。

  nughoSlI' DIvI'may'Duj：連邦戦艦が向かってきます。
  （nu-：彼/彼女/それは私たちに、 ghoS：向かう、近づく、 DIvI'may'Duj：連邦戦艦）

• しかしバード・オブ・プレイが透明偽装中に、たまたまその付近に連邦航宙艦がやって来る時にはこう言うでしょう。

  nughoStaH DIvI'may'Duj：連邦戦艦が向かってきます。

• 以上のことを表にまとめると以下の様になります。

  	完了	継続
  単に動作を示す	-pu'	-taH
  明確な到達点を持つ	-ta'	-lI'

• 明確な到達点を持つということは、人物の行動の場合には明確な意思を持つ、つまり意図的な動作であるとも言えるでしょう。

• 明確な到達点を持つ場合でも-pu', -taHの使用は可能です。しかし、その逆は出来ません。明確な到達点を持つかどうか不明の場合には当然-pu', -taHの方が使われます。つまり、普段は-pu', -taHを使い、明確な到達点・意思の存在を示したい時に-ta', -lI'が選ばれるのです。

• この項はずいぶんと長くなってしまいました。結局よく分からなかったという人もいるかもしれません。動詞の「時制」または「アスペクト」はどの言語でも重要な要素なので、それだけ説明も長く、ややこしくなります。よく分からなくても、より多くの例文に接していく内に自然に身に付くものです。（但し、クリンゴン語の場合この例文が少ないのが現状ですが．．．）

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Ver.1 1996.3.10　コウブチ