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死刑再審,最近の動き
再審事件交流会 山際 永三

◆国連規約人権委員会の勧告

日本政府は、自国の人権状況について「市民的及び政治的権利に関する国際規約に基づく第4回報告」を国連規約人権委員会に提出し、日弁連はじめNGO(非政府機関)から日本の欺瞞的な人権侵害例がカウンタレポートとして提出されていたが、この11月5日相当厳しい勧告が日本政府に対してなされた。

前回の1993年には、「再審事件交流会」として『日本には、無実事件が多すぎる』と題するカウンタレポートを送付し、その結果もあってか規約人権委員会は、日本に「拷問等禁止条約」や「死刑廃止条約」への加盟・批准を勧告するなどの成果があった。今年は「再審事件交流会」としては力量不足でカウンタレポートの提出をパスした。前回のときは、勧告を報ずる日本の新聞がほとんどベタ記事で、くやしい思いをしたが、今回はいくらか大きく報道されたようである。

要するに、前回勧告の大部分が改善されておらず日本政府は何をしているのかというのが、規約人権委員おおかたの見解である。死刑制度およびその運用、代用監獄問題、婚外子差別、在日朝鮮人差別、入国管理施設の劣悪な処遇等の面で、この5年間に何の進展もないというのである。18人の規約人権委員(各国から派遣された裁判官や学者など。日本からも出ているが、日本の審査では発言しないことになっているという)は、日本の人権状況が政府勧告のような綺麗ごとではなく裏側で侵害事例が多いことをよく研究しているようだ。日弁連としてジュネーブに行っていた海渡雄一弁護士のレポートによると、モーリシャスの委員からは「日本の裁判官の中には考え方を変えていただかなくてはならない人がいるようだ。外部に目を向けることを躊躇しているように見える。国際人権法に関する裁判官へのセミナーを組織すべきだ」などという発言もあったという。裁判官への人権研修については、インドやアメリカの委員からも同様の発言があった。死刑制度・確定者処遇の点でも相当具体的な指摘があった。死刑適用の条項が多い点、無期懲役に対する検察官上告(二重の危険)、執行数の上昇、執行が秘密で本人・家族に予告されない点、高齢者への執行、外界とのコンタクトが制限されていることなどである。また、代用監獄について日本政府は捜査と管理は別と説明するが、上が同じ警察署長では意味がないという厳しい批判が出た。裁判における証拠開示がアンフェアーな点も、狭山事件(石川一雄さん)の名を出して改善が要求された。

◆尾田事件につき最高裁決定

この10月29日、福岡の確定死刑囚尾田信夫さんの再審(第5次)について最高裁は、請求棄却の福岡高裁決定を指示して特別抗告を棄却する決定を下したが、「一つの行為が複数の罪で裁判された場合、その一部について無罪を主張して再審を求めることも許される」との判断を示した。尾田さんは、殺人は認めているが、その際ストーブを蹴倒して放火したことについて否認し、長く再審を請求してきた。1970年に確定して、現在の死刑確定者の中では一番古くなった人だ。日弁連に委員会(弁護団)が設置された三つの死刑再審のうちの一つで再び棄却の逆流があったわけだが、それだけ再審請求側が一歩前に出たということにもなるわけで、今回の決定を他の事件でいかに活用するかが問われることになる。

冤罪事件では、いわゆる別件が重要なネックになっていることが多い。「別件逮捕」で被疑者は徹底的に悪い人と決めつけられ、その後同じ論理で「本件」も押し付けられる。動機や状況が似ているというわけだ。 波崎事件でも、いわゆるハワイ屋事件があって、本件があった。幸いにしてハワイ屋事件は二審で無罪となったのであり、本来その延長に本件の無罪もあるべきだった。ここで、再度ハワイ屋事件も研究し直す必要があるように思える。

死刑確定者の中には「部分冤罪」の人も多くいて、総合されて死刑宣告となっているケースがある。この際、尾田事件の最高裁決定を生かして一部の小さい「別件」についてでも新証拠があれば再審を請求し、その「別件」が無罪であるならば、本件の証拠構造・情況にも変化が起きるはずだと、検証をせまることが必要であろう。

◆名張事件、名古屋高裁に異議

名張事件(奥西勝さん)の第6再審請求で、10月12日名古屋高裁に異議申し立てが行われた。奥西さんは、尾田さんに次ぐ古い確定囚で、その次が波崎の冨山常喜さんということになる。名張事件は日弁連に弁護団ができており、証拠評価の問題で少しずつ裁判所を追い詰めてはいるが、相次いで棄却の逆流にさらされている。

◆佐々木哲也さん、遂に再審手続き

1992年死刑確定の佐々木哲也さんは、両親を殺害したことにされているが、全くの冤罪を主張してきた。しかし、新証拠の点でなかなか再審請求手続きが行われず、執行の危機さえも指摘されていたが、この11月12日に千葉地裁に対して再審請求手続きが行われた。これで死刑確定囚のうち再審請求をしている人は約18人となる。


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