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波崎事件の概要と最近の状況について

1963年8月26日午前0時20分頃,冨山常喜さん方から自宅に帰ってきたIYさん(35歳)が急に苦しみはじめ,波崎済生会病院に収容されたが,同日午前1時30分に死亡した(判決文から).

IYさんの妻INさんが,「夫は苦しみながら箱屋に(冨山さんは通称箱屋と呼ばれていた)だまされ,薬を2,3粒のまされた,と言った」と証言したことから事件となり,冨山さんはIYさん死亡から59日目に保険契約をめぐる私文書偽造,同行使で別件逮捕され,11月9日殺人容疑で再逮捕された.

判決では,保険金目当てに青酸化合物をカプセルに詰めて飲ませた殺人事件として死刑の判決を下したが,冨山さんは一貫して無実を訴え続け,毒物などの物的証拠は何一つ発見されなかった.

裁判は証拠も自白もないまま,状況証拠のみで極刑を下すという異例の判決となった.

●殺人の動機とされた保険証券は,事件当日に至るも,冨山さんのところへは届いていなかった.
●IYさんへの保険加入は,IYさんが以前自動車事故を起こしたからで,IYさんも承知していたとみられる.
●毒物に関しては,入手先も所持していた証拠もない.
●毒物をカプセルに詰めて殺人の準備をしたと判決の認定する時間は,不可能であり,不合理である.
●事件当日,IYさんの自動車を目撃したという証人の証言には矛盾が多いなど,裁判に現れた証拠を検証すると,冨山さんを有罪とするには疑わしいものばかりである.

ドイツのアムネスティの会員ディミトゥリアス ゴスティスさんから小淵総理宛に送られた手紙のコピーが届きましたのでご紹介します。

総理大臣 小淵 恵三様

アムネスティ・インターナショナル
ドイツ ハーゲン市在住
ディミトゥリアス ゴスティス

親愛なる総理大臣、

 私は人権団体「アムネスティ・インターナショナル」の会員です。冨山常喜さんが1966年12月24日にIYさんに毒を飲ませた罪で死刑判決を受けたことを知りました。
 私はこの事実を大変憂慮しております、というのは、人間の生きるという基本権利を犯すすべての死刑判決に対して反対しているからです。殺人者は罰せられるべきですが、死刑が執行されれば、殺人は殺人によって罰せられるということになります。これは過ちであり、殺人はどのような場合であっても間違っているのです。
 一方、私は、冨山さんに本当に罪があるか、多くの疑問点があることを知りました。第一は、冨山さんはIYさんに本当に毒を飲ませることができたのかという点です。冨山さん宅からはシアン化合物は見つかっていませんし、その入手方法も不明なままです。第二に、IYさんは冨山さん宅を辞してから10〜15分後に亡くなったそうですが、冨山さんは、平均5分で死を招くシアン化合物入りのカプセルを用いて毒害したと認定されている点です。これらの理由により、私は、冨山さんにIYさんの死について責任があるのか疑問に思っています。もしも、無実の人が国家権力によって殺されるようなことがあれば、それば悲劇としか言いようがありません。
 以上の点から、私はあなたに冨山さんを無条件で釈放するための必要な手続きをお願いしたいのです。あなたがこれからなさる尽力に前もって感謝の意を表します。


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