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冤罪・死刑再審について

山際 永三(再審事件交流会)

◆死刑再審第五の扉を開こう

免田栄さん(1983年)から赤堀政夫さん(89年)と四人続いた死刑再審無罪によって,日本の司法の腐敗が明確になったはずなのに,その後死刑再審第五の門は全く開く気配がありません。現在五十数人になっている「確定」死刑囚のうち十数人が再審手続きをすすめています。最高裁の「白鳥・財田川両決定」(75〜76年)は,新証拠と旧証拠を総合判断することにより,「疑わしきは被告人・請求人の利益に」の原則を示したはずでした。ところが,最近は新証拠に独立した過大な証明力を要求して,「新規性・明白性」を否定しようとする傾向が顕著になってきています。

◆死刑囚「確定」までの裁判の実体は−

私たち「再審事件交流会」では,「年報・死刑廃止'97」という本に発表するため,53人の「確定」死刑囚の弁護人や支援者に,それぞれの裁判の問題点につきアンケート調査を行い,27の事件からの回答を得ました。これら死刑囚は,完全冤罪・部分冤罪(例えば,殺人はしたが,放火は否認など)・適用法令の誤り・刑量不当などを訴えている人・いまのところ判決に不満を訴えてない人に分けられますが,それぞれの裁判に実に多くの問題点があることが明らかになりました。

まず多くの事件で裁判があまりにも早く進み,被告人は十分な弁解の機会もないまま判決を迎えてしまうという問題があります。自分が起こした事件に責任を痛感するために粗雑な審理でも我慢してしまった例,冤罪だが自白をとられて否認の機会がないまま死刑判決を受けて二審になって否認した例,十分な弁護を受けられなかった例などが非常に多いのです。マスコミの影響も大きな問題です。凶悪事件ということでマスコミは犯人とされた人を徹底的にバッシングし,裁判が始まる前から死刑が当然という雰囲気ができており,弁護人でさえそれにのまれてしまっていること,裁判に出てくる証人もマスコミの影響で被告人に不当な証言をしてしまうこと,被害者家族がマスコミ情報で犯人とされた人への憎しみを煽られていること等々の問題があります。このほか,裁判所が弁護側の証拠を殆ど採用しない傾向,被告人に有利な証拠が開示されない問題,検察官の不当な上訴,被告人の精神障害・覚醒剤中毒などの責任能力についての審理不十分,粗雑な鑑定,死刑と無期懲役との基準が曖昧などなど,実に多くの問題があり,とても公正な裁判で死刑判決になったとは言えないのです。

◆再審を目指してあらゆる工夫を−

冤罪者の裁判だけが酷いのではなく,裁判全体が不公正で,犯人を懲罰に処して抹殺すれば社会の秩序は守られるという発想が根っこにあり,だからこそ冤罪も多発しているのです。日本は三審制で,再審は例外中の例外とされていること自体がおかしいのです。法の安定性などというが,刑事裁判全体が形骸化して誤判決が多いのあれば,再審請求が多くなって再審ラッシュになるのは当然ではありませんか。手続法は絶対ではないのだから,今後大いに変えていくべきです。日弁連は,以前から再審に関する法改正を要求しています。

◆何としてでも再審を−

再審事件についてもう少し日弁連が支援してくれるといいのですが,現在日弁連に委員会(弁護団)ができている事件の再審もなかなか進展しないし,新たな事件を日弁連が支援してくれるのが困難な状況です。これまで死刑再審無罪となった4つの事件は,どれも日弁連に委員会ができた事件でした。死刑事件で日弁連の支援なしに再審開始になった例は皆無です。しかし,何が何でもこのままでは済みません。死刑執行という冷厳な事実がせまっています。われわれは,再審事件相互の連絡を密にし,力を尽くして,死刑再審の門をこじ開けねばなりません。ホームランを狙うことなく,小さな事実からでも新証拠を発見していきましょう。


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