■ 第二次再審請求補充書の提出にあたって(1997/07/29) もどる

波崎事件第二次再審請求補充書の提出にあたって

事件の概要と裁判の経過

茨城県波崎町で1963年8月25日の深夜、冨山常喜(つねき)さん方から車を運転して帰宅した同町のYさんが帰宅後間もなく(病院の診療録には数分から10分後発病と記載)苦しみだし、病院に運ばれたが26日午前1時30分頃死亡した。Yさんの妻が「夫は箱屋(冨山さんの通称)に薬を飲まされたと言った」と口走ったことや、Yさんの胃の内容物から青酸と微量のチタンが検出され、チタン化合物は薬用カプセルの着色などに利用されることから、県警は保険金目当てに青酸化合物を薬用カプセルに詰めて飲ませたと断定して11月9日冨山さんを逮捕した。

冨山さんは逮捕以来一貫して無実を主張し、一度も自白しなかった。一方県警の大捜査にもかかわらず、物証は何一つ発見できなかった。一審判決は、状況証拠による推論と推断で1966年12月24日死刑を宣告した。1973年7月6日二審東京高裁は別件の傷害罪を無罪としたが、本件については一審判決を維持した。1976年4月1日最高裁上告棄却、死刑確定。

1980年4月9日第一次再審請求書提出

原審判決では胃内容物から検出されたチタンを根拠にカプセルの存在を認定したが、チタンは土中に多量に存在し、食物にも含まれているので、胃の中に入るのは当然であるという鑑定を提出した。これに対し、東京高裁はチタンが自然界に存在することは認めながらも、チタンがカプセルに由来することを排除するものではないとして棄却した。

第二次再審請求と今回の補充書

1987年11月4日提出の第二次再審請求理由では、原審の認定した犯行段は、交通事故死に偽装するために青酸化合物をカプセルに詰めて飲ませて時間を稼ぐ必要があったとしているが、当時の冨山さん宅とYさん宅1300メートルの道路状況は道路の両側が大部分生垣であり、判決の認定する時速30キロ程度では事故になっても死に至らないとして専門家の論文などを新証拠として提出した。

補充書の要点

原審の認定ではカプセル薬の種類を特定せず、乳白色のカプセルと漠然としている。単に乳白色のカプセルと言うなら、いかなる薬剤のカプセルなのかを明示すべきである。原審がカプセル所持の根拠としているのは冨山さんの供述と内妻Mさん、その娘Aさんの供述に拠っている。仮に百歩譲ってカプセルを所持していたとしても3人の供述から導き出されるカプセル薬は大木製薬の車酔い止め薬トリブラである。当時のトリブラは透明なカプセルに充填されていたことが同社の回答で今回明かになった。トリブラが白色に見えるのは、内部の薬剤が白色であるからである。透明なカプセルは着色剤としてのチタン化合物を含まない。従ってYさんの胃内容物から検出されたチタンが、カプセルに由来するという根拠はなくなった。
原審判決ではYさんが青酸化合物を詰めたカプセルを飲んでから溶解までの時間を明示していないが、判決に挙示された、冨山さん宅でカプセルを飲み帰宅して発症したとされている時間を仔細に検討すると、10分から15分以上経過したことになる。原審判決ではカプセルの胃中の溶解時間は数分から30分であるとした鑑定によりカプセル犯行説が裏付けられていた。しかし事件当時は胃中でカプセルが溶解する時間を測定する技術は開発されていなかった。またYさんは死亡時空腹状態であったことが分かっている。人が空腹時にカプセルを飲めば溶解開始時間が早まることは医学上知られている。今回、新鑑定のシンチグラム実験によってカプセルの溶解開始時間は平均5分であることが分かった。空腹時のYさんに限って10分乃至15分であった論拠はない。カプセルの溶解時間を数分乃至30分とする旧鑑定に基づく判決の不合理性は明かである。
判決はYさんが致死量の青酸化合物を飲んだとしているが、Yさんの妻の証言を検討すると発病したYさんの発言は異常に長く、青酸中毒の症状と一致しない不自然さがあることが新鑑定により明かになった。
原審が犯行の動機と認定した保険金の受取人は、Yさんの妻と冨山さんになっていた。しかもその保険証書は、事件発生から数日を経てYさん宅に届いている。保険金が動機ならば、保険証書に明記された二名に動機があったことになる。その受け取り人となっている合い方の証言を主要な証拠として、冨山さんを有罪と認定したことは不合理である。

今回弁護団と救援会は原審の挙示した旧証拠の分析と再評価の上に立ち、以上の事項を主要な論点として鑑定書等8点の新証拠とともに第二次再審請求の補充書を提出した。
東京高裁は白鳥、財田川決定を尊重し、疑わしきは罰せずの法原則に立ち、再審を開始されるよう要求する。

1997年7月29日

波崎事件弁護団
弁護士 倉田哲治、三島浩司、佐竹俊之、安部井上

波崎事件対策連絡会議
代表 篠原道夫

波崎事件の再審を考える会
代表 大佛照子

参考文献
足立東「状況証拠」朝日新聞社 1991年
安斎夘平「闇の時間」月刊 状況と主体 谷沢書房 1996年 1月ー 6月連載 
波崎事件ホームページアドレス http://www.asahi-net.or.jp/VT7N-YND/


もどる