■ 事件(6) - 鑑定 -

波崎済生会病院のMF医師によりIYさんは、

「急性左心室不全のため昭和三八年八月二六日、午前一時三〇分 当院に於て死亡した」

と診断された。

8月26日午後、波崎済生会病院において白十字会鹿島白十字病院のIS医師により解剖が行われた。結果は「外傷はなく、劇毒物の反応もみとめられないが胃にうっ血」(いはらき新聞、8月28日)と報道されている。このとき摘出された胃の内容物と心臓血液は、茨城県警刑事部鑑識課に分析が依頼された。

9月2日、茨城県警察本部長から胃内容物の鑑定依頼が科学警察研究所にだされた。県警鑑識課が入手した胃内容物は約100グラム、資料は蓋をした広口瓶に入れ県警鑑識課の冷蔵庫に9日間保管されたのち、9月4日、約30グラムが県警鑑識課IS技師により警察庁科学警察研究所に届けられた。

10月18日、茨城県警刑事部鑑識課IS技師、AH技師により「胃内容物に青酸反応を認める」という鑑定が出された。

10月23日、私文書偽造同行使容疑によりTTさん逮捕。

10月30日、科学警察研究所KH技官、「資料中青酸化合物の存在を認める」と鑑定。

11月9日、留置場から一旦釈放したあと殺人の逮捕状を執行し、TTさん再逮捕。

11月26日、IS医師は以下のように鑑定した。

(1)特記すべき外傷を認めず。
(2)この死因は、青酸化合物の経口摂取による中毒死と鑑定する。この屍の剖検所見は、その大部分が急性心機不全による急性死の所見を呈し、出血性胃炎及び膵臓の異常なる色調のみが、わずかに中毒死を疑わせる所見であるが、茨城県警察本部鑑識課の胃内容鑑定結果によれば、予備試験、確認試験共に青酸反応を認め、殊にベルリン青反応の結果より推定し、相当量の青酸化合物を胃内容に認めるので、前記急性心機不全は青酸化合物の中毒により惹起されたものと鑑定する。この屍の剖検所見のみにより、自他殺の別を鑑定することは極めて困難である。
(3)この屍の死後の経過時間は死体現象及び気候より推定して、剖検開始時現在、死後約一三時間ないし一四時間と考えられる。
(4)この屍のABO式血液型はB型と認める。
(5)この屍の青酸中毒現象はやや非定型的なり。よって青酸化合物はなんらかの型で包埋して摂取された可能性が大である。
以上の通り鑑定する。

弁護側は、IS鑑定の「青酸中毒現象はやや非定型的」という結果に対して、再鑑定を申請し、裁判所は東大医学部US教授に鑑定を依頼した。US鑑定は、IYさんの死因を「空腹時に相当量の青酸塩を服毒した定型的な急性青酸中毒死」とした。しかし、青酸がどのくらいの量であるかという定量分析は行われていない。

後に、TTさんの弁護人が胃の内容物の提出を求めたが、警察は既に変質しているとして拒否している。



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