■ 事件(4) - IYさんの死 -

IYさんの死の前後の時刻については複数の説があり,以下の文章中の時間は確定した数字とは言えないし,最近になって波崎事件を知った筆子の誤りもあると思われる.時刻については文献(例えば)ニュースレターに関連する部分があるのでそちらもご参照ください.

八日市場での借り入れが決まらなかったIYさんと金融ブローカーTSさんは午後11時30分頃,車でTTさん宅に戻ってきた.TTさんは既に就寝していたが起きてきて,翌日再び八日市場の金融業者EMさん宅にTTさんの車を使って行きたいので,IYさんがそのままTTさんの車で帰宅するという話をしている.

IYさんを残して先に,午後11時40分頃,金融ブローカーTSさんはTTさん宅に停めていた自分のスクーターに乗って約1km離れた自宅に帰っていった.

次にIYさんがTTさんの車に乗って約1.3km離れた自宅に向けて出発した.TTさんの証言ではTSさんが帰って2〜3分後(つまり午後11時42〜43分)にIYさんは帰ったという.検察はこの時間を午前0時15分とし,裁判所はこちらの時間を認定した.

IYさんが自宅についた時刻は午前0時より前なのか午前0時20分頃なのか,議論がある.水戸地方裁判所の判決文には,IYさんが,

「翌26日午前零時一五分頃,被告人方から辞去するに際し,被告人の乗用自動車を借り,同人だけ乗車運転して」「真直ぐ無事に,同日午前零時二〇分頃,前記同人の自宅に帰着し,部屋に上がつて就寝せんとしたところ,間も無く,青酸中毒の症状を起こし,猛烈な苦悶を始め,漸く同人の妻IN及び近隣の人たちの救護を受けて,鹿島郡波崎町八,九六八番地済生会波崎済生病院に運び込まれたのであるが,いくばくもなく,同日午前一時三〇分頃,同病院内において,青酸化合物の中毒によって死亡」

と記述されている.

IYさんが苦しみはじめたため,妻のINさんは,近隣のNYさん宅に行き,電話で二軒の医院に往診を頼んだが断られた.この後,別の近隣住民SMさん宅に行き,自動車で済生会波崎済生病院にIYさんを運んだ.済生病院国民健康保険被保険者診療録によると午前零時50分に病院に到着している.死亡した原因は左心室不全のためとされた.

IYさんの妻のINさんの証言では,

「IYは帰宅して二,三分後に苦しみ出したので,『酒を飲んだのか,父ちやん』と言うと,苦しそうに,『薬を飲まされた.箱屋だ』と言い,『薬はな二つ,あと一つ,飲まされた』『俺,箱屋にだまされた』と三,四回言つた」(水戸地方裁判所判決文)

となっている.

事件当夜,午前1時20分頃に済生会病院の入院患者から派出所に,IYさんの病状が不審だと医者が言っているという連絡があった.午前1時30分過ぎ,IYさん死亡を知らせる電話が派出所に入り,特別捜査班による捜査活動がはじまった.



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