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1999年


2月21日(日)
徒歩:ポートラッシュの町 〜 ダンルース城 〜 ジャイアンツ・コーズウェイ

朝、ポートラッシュの町

この日はアイルランド島の北海岸にある、ポートラッシュという町に泊まっていた。 この町から東に十数キロの地点にある 「ジャイアンツ・コーズウェイ(大男の土手道)」 という名所を訪れるために、昨日のうちにこの町まで移動して来たのだった。

朝8時に、B&Bで朝食をとる。 このB&Bの主人〜青年とおじさんの中間くらいの年齢〜が、アイリッシュ・ブレックファストを焼いてくれた。 皿の上には・・・
目玉焼き×2個、ベーコン、ソーセージ、トマト、 はんぺん状のポテト、そしてマッシュルーム、トースト。
朝食にマッシュルームが入ってたのは、アイルランドに来て初めてだったので、結構うれしかった。

B&Bの部屋の窓からは、だれもいない遊園地が見える。 海沿いの行楽地であるこの町は夏は賑わうらしいのだが、 真冬のこの時期に訪れる観光客はほとんどいない。 遊園地も閉園中。 空しくそびえるジェットコースターには、廃墟と言われても信じてしまいそうな雰囲気が漂っている。 遊園地のバックには北の海が広がる。 ダーク・グリーンの海面を、北からの強風が 絶えず無数の白い波しぶきを運んでいる。 【写真】

アラン島へ渡ったとき以上に、「地の果てまで来てしまった」 という感じがした。

チェックアウトするとき、ご主人に
『ジャイアンツ・コーズウェイまで行って戻ってくるから、午後まで荷物を預かって欲しい』
と交渉する。 だが、どうやらこれから家族で出かけて家を留守にするらしく、 二重になってる玄関の扉の、外扉の鍵をくれた。 外扉と内扉の間に荷物を移しておくから戻ってきたら鍵を開けて荷物を持っていけ・・・ということだった。 ありがたいことだ。


9:50AM 東へ向けて出発

目差すは 「ジャイアンツ・コーズウェイ」・・・直訳すると『大男の土手道』。 フィン・マックールという大男が築いた土手道だという伝説があるが、 その正体は海に突き出た "柱状節理" という地形。 【写真】 溶岩が冷え固まってできた珍しい地形で、世界遺産にも指定されている。

フィン・マックールという人物は、アイルランド神話・民話ではかなり有名な人物。 伝説のフェーナ騎士団(フィアナ騎士団)の隊長で、他にもいろんなエピソードがある (が、ここではいちいち紹介しない)。

白馬に乗ったオシーン(オシアン)という詩人が永遠の国「ティル・ナ・ノーグ」に行ってしまう物語は、 アイルランドを代表する民話で 映画 「タイタニック」 の中にも登場するそうだが、 実はフィン・マックールは、このオシーンの父親である。

さて、その 「ジャイアンツ・コーズウェイ」 へは、このポートラッシュの町からバスが出ている。 しかしこの時、なぜかバス停を見つけることが出来なかった (後で気付いたのだが、実は鉄道駅のすぐ近くにあった)。 まぁ、街道を歩いてれば次のバス停にも出会うだろうから、 一日に何本もないバスを心細く待つよりも、少しでも先に進んでおこうということで、バスを調べるものそこそこにして、徒歩で東へ向かうことにした。

補足説明をすると、この日はオフ・シーズンである上に "日曜日" だったので、 バスや電車などの公共の交通機関が極端に少ないのだった。 日本人の感覚だと日曜は 「遊び歩く日」 なのだが、 アイルランドのようなキリスト教の国にとっては 「安息日」。 日曜日は観光には不便な感じだった。

寒空の下、海岸線を左手に見ながら、国道A2号線を東に向かう。

途中にバス停はあったけど、なんと時刻表がない・・・。 主要なバス停以外には、時刻表はないのだ。 これではどれだけ待ったらバスが来るのかわからない。 とりあえずひたすら歩くことにする。 後ろからバスが来たら、その場で手を挙げたらなんとか乗せてもらえるだろう。田舎っぽいし・・・。

だがこの後、結局バスに出会うことはなかった。 途中、バスの路線とは若干違うコースを歩いていたようだ。 まぁ、方向は合ってるから、3時間も歩いたら 目的地には着くだろう。


これがいつものことなのか、この日が特別だったのか・・・とにかくひどい天候だった。 とても風の強い北海岸。 時折 雨やアラレ が降ってくる。 ・・・と思ったら、さっと晴れ間が差したりもする。

でもこの気まぐれな天気のおかげで、キレイな虹を見ることができた。 先日アラン島でも見たような、根元までくっきりと見える完璧な半円だった。

ポートラッシュ近くの国道沿いにはゴルフ場があって、 こんな天候の中でもゴルフを楽しんでる人たちもいた。 2匹の犬を連れてコースを周ってる人もいて、 「実はあの犬たちがキャディーで、2匹でご主人様に意見を進言してるんだよ」 と想像したりして歩いた。

しばらく行くと、左手の海岸線が断崖に変わる。 【写真】  しつこいようだが、とても風が強い。 【写真】  断崖の下から波しぶきが吹き上げて来る場所もあって、 後でメガネを見たら、塩がたくさんこびり着いていた。

前方の海岸の断崖の上に、お城のようなものが見えてきた。 ダンルース城だ。


10:50AM ダンルース城に到着 【写真】

海岸に突き出した巨大な岩塊の上に建てられた、16世紀の城跡。 城の建てられている岩は周囲が断崖になっており、一本の橋で陸側と繋がっている。 橋を渡って城内に入るのは有料だが、 日曜日の見学時間は 14:00〜16:00となっており、 この時はまだ閉まっていた。 平日は午前中からオープンしているらしいのだけど・・・。

城内に入ることができなかったので、周囲をちょっと探索してみる。 【写真】  海岸の方に出る小道を見つけたので下りてみると、城の建っている岩塊の下部に出た。 【写真】  そこにはなんと、海へと通じる洞窟があった。 【写真】
ここに船を置いていたのだろうか? なかなか興味深い作りになっている。 子供の時に見ていたロボットアニメ 「UFOロボ・グレンダイザー」に出てくる "秘密基地" のような城だ。

海をバックにそびえる城はなかなかカッコイイ。 撮影しようとカメラを構えてたら、ちょうど晴れ間が差した。 【写真】

11:10AMころ、ダンルース城を出発してさらに東へ向かう。

その直後から風がいっそう強くなる。 追い風だったのが不幸中の幸い。 さらに途中、激しいアラレが叩き付けてきた。 やがて雨になり、全身びしょ濡れになりながら先へ進んだ。 カサは持ってないし、持ってたとしても、この風の中カサなんか差したら歩けなくなりそう。


11:50AM ブッシュミルズの町

ポートラッシュを出発してからちょうど2時間、 びしょ濡れになりながらも、ブッシュミルズという町に到着した。 村と呼んでもよいような小さな町だ。

しかしながら、お酒に詳しい人ならご存知の通り、ここはウィスキーで有名な町。 この時は関連施設を見学したりはしなかったが、 アイルランドを去る間際、空港の免税店で 「ブッシュミルズ・ウィスキー」 もちゃっかり買ってきた。

小さな町のまんなかに喫茶店を見つけたので、迷わず駆け込む。 ちょうどお昼だ。 スープ付きポテトと、ブッシュミルズ・ティー(スコーン付き)をもらって温まる。 冷えて消耗した体力が、ここでかなり回復した気がする。

12時30分ころ出発。 外に出ると、雨が上がっていた。ちょうど雨やどりをした形となったようだ。
さらに東へ進む。ここからジャイアンツ・コーズウェイまでは、おそらくあと1時間もかからないだろう。


13時ころ、ジャイアンツ・コーズウェイへ向かう道路が国道から枝別れする地点に達する。 そちらの道を進む。残りはあと1キロくらいだ。

ところが進行方向が変わったことにより、それまで追い風だったのが、斜め前方からの向かい風になった。 シャレにならないぐらいの強風で、とても歩けたものではない。 左前方の海岸からこの道路のある丘の上までは、 少し距離があるものの、その間はなだらかな斜面が広がっているだけで、風を妨げるものは何もない。 北極から北大西洋上を渡ってきた風が、そのままダイレクトに全身を襲ってきてるような気がした。

にっちもさっちも行かない状態。 向かい風で進めなくなり、2人してアスファルトの上で固まる。

そんなとき、対向車の一台が止まってくれた。 運転してたのは 優しそうなおばさんで、助手席には彼女のさらに母親らしい女性。

『ジャイアンツ・コーズウェイまで行くのね。乗りなさい。』

僕らを乗せると、 彼女たちはわざわざUターンして、ジャイアンツ・コーズウェイまで1キロ弱ばかりの距離を引き返してくれたのだ。 ヒッチ・ハイクするつもりはなかったが、自然と全身からサインを出していたようだ(苦笑)。 それにしても、感謝、感謝・・・である。

「サンキュー、ベリマッチ」
それ以上の感謝の言葉も知らず、ただただ連発して彼女たちに手を振って別れた。

というわけで、13時20分 "コーズウェイ・センター" に到着。


コーズウェイ・センター

ジャイアンツ・コーズウェイのビジターセンターである "コーズウェイ・センター" で、 まず最初にポートラッシュの町へ帰るバス時刻を調べる。 この日の最終便は、なんと14時30分(冬期間かつ日曜日の場合の運行ダイヤ)。 このバスを外すともう後はない。 3時間半かけてやって来て、現地では1時間程度の観光時間しかない。 まぁ、しょ〜がない。 とてもじゃないが、あの道のりを徒歩で戻る気は起きなかった。

早速 「ジャイアンツ・コーズウェイ」 を見てみよう・・・と思って、 センターの横から出ている散策路に進む。 ここまで来たら、 すぐに「ジャイアンツ・コーズウェイ」にお目にかかれると思っていたら、 間違いで、結構な距離を歩くハメになった・・・。 センターは高い崖の上にあって、 ジャイアンツ・コーズウェイに行くには はるか崖の下にある海岸まで降りなければならないのだ。

実は海岸へ行く道はもう1つあって、 短い周期でセンターと海岸を巡回するシャトルが運行していたのだが、 このとき気付かなかった。 そんなに距離があるとも思ってなかったし・・・。 参考までに・・・このシャトルは100円程度で利用できる。

散策路は崖っぷちを通っている。 【写真】 あいかわらず風が激しくて、何度か足が止まる。 もし風に身を任せたら、崖の下に真っ逆さまだ。 かなり恐い。
散策路の陸側は私有地らしく、その柵に捕まろうとするが、 そこには有刺鉄線が張られている。

妻(波留子は) 「もう帰る」と半べそ状態。 【写真】
しかし 「ここまで来て、それはないべ」 と思い、強行する。

どのぐらい風が強かったかというと、 普通にかけていたメガネが顔から離れて数メートル飛ばされたほどだ。 おかげでこのとき、レンズの縁が少し欠けてしまった。 しかし、メガネを崖下に落とされなかっただけラッキーだった。

崖の上からは海岸を見渡すことができ、 なかなかよい眺めだったと思うのだが、 とにかく身の安全を計るのに精いっぱいで、景色を楽しむ余裕もなかった。

その後、散策路は、崖の斜面をスイッチバックしながら下っていた。

しかし何とか、無事に海岸まで降りることができた。 海岸では、磯の岩の間に白いアワが、"アク" のように溜まっており、 それが強風で吹雪のように舞っていた。
【写真】 【写真】


ジャイアンツ・コーズウェイ

ジャイアンツ・コーズウェイに辿り着いたのは、13時50分ころ。 センターを出発してから30分もかかってしまった。

「ジャイアンツ・コーズウェイ(大男の土手道)」 は、先に言った通り "柱状節理" という地形。 6角柱に冷え固まった溶岩が地面から垂直にたくさん立っており、それが集まって桟橋のように海に20〜30メートルほど突き出している。 この "桟橋" 、昔は長さが倍ぐらいあったそうなのだが、戦争時に鉄をとるためにかなり破壊されたとか。 【写真】

6角形のひとつひとつは、直径40〜50cmほど。 長さの少しずつ違う鉛筆を、削っていない側を上にしてたくさん束ねると、こんな風になる感じだ。 "鉛筆" の1本1本は、ちょうど人間1人が腰掛けるにはちょうどよい大きさ。 ここを訪れた観光客は、ほぼ必ずその "椅子" に腰掛けて記念撮影をしている。 【写真】 【写真】

この奇妙な地形に、触ったり、座ったり、登ったりしてしばし堪能。 ただ、表面はちょっと滑りやすいので、注意が必要だった。 特にこの時は風が強くて、あんまり上まで登れなかったのが残念。 【写真】 【写真】

ジャイアンツ・コーズウェイも面白いことは面白かったが、 それ以上にここに来るまでの過程がかなりハードで、 そちらの印象が強く残ってしまった(苦笑)。

【写真】 【写真】


時刻は14時。 急いでセンターまで戻らなくては、 ポートラッシュに帰るバスに乗れない。
・・・と歩き始めたら、ちょうど下りて来た巡回シャトルとすれ違ったので、 乗り場まで走って戻って乗り込む。 こんな便利なものがあったのか・・・下りるときも気付けばよかった・・・。

で、10分後にはセンターに到着。
売店でおみやげを見て、絵ハガキを購入した。

ポートラッシュ行きのバス時刻は14時30分だが、5分前に丘のすぐ下にあるバス停へ行く。 バスを待っているのは、僕らのほかには若い女性客が1人だけ。 定刻になってもバスは来ず、かわりにまたしても激しいアラレが降ってくる。 風上に背中を向け、じっと耐える。バチバチと痛い。

客の誰も乗ってないバスが到着したのは、ほんの5分遅れだったが、 この時間がなんと心細く、長く感じられたことか。
しかし、バスが本当に来たときは、心からホッとした。


この後は、ポートラッシュの町に戻ってから、鉄道を利用してダブリン方面へ南下するつもりだった。 しかし、朝に駅で調べたところによると、もう2〜3時間は適当な電車がないようだった。

そこで、午前中に閉館だったダンルース城で下車して、見物することに決めた。 この後のバスはないが、ダンルース城からポートラッシュの町までは、徒歩一時間。 歩く覚悟を決める。


ダンルース城ふたたび 【写真】

15時ごろ、バスはダンルース城に着いた。 運転手さんともう1人のお客さんに 「バイバイ」 と手を振って、下車する。 ダンルース城の見学時間は、 日曜日に関しては 14:00〜16:00 (ただし入場時間は閉館30分前まで)となっている。 ちょうどいい時間にバスがあってよかった。

受付で 1人1.50ポンド を払って、中に入れてもらう。 一本橋を渡って城内へ。 【写真】

天井は残ってなくて、壁だけの廃墟。 周囲が断崖になっており、スミの方は一部崩れているところもあって、ちょっとコワい。 廃墟の窓の間から海が見えるのが気に入った。 【写真】 【写真】

こんなところに城を建てたのはいいが、 強風と荒波で、侵食は激しいんじゃなかろうか。 実際この城が現役時代にも、崖の一部が崩落して海に落ちた・・・というエピソードが残っているみたいだ。

風と波は、音もすごい。こんなんでよく毎日眠れたもんだ。 この城は気に入ったが、実際に住むのは遠慮したい。 ただ、分厚い石の壁には、強風にもびくともしない安心感はあった。

この城から見える隣りの岬も、 周囲が断崖になっているのだが、その上の草地には羊が放牧されていた。 この強風にも飛ばされずに、マイペースで草を食んでいる様子がおかしかった。 【写真】

場内を見終えて売店に戻ると、まだ15時20分ころだというのに スタッフ(おばちゃん2人)がもう帰り支度をしている。

とりあえず絵ハガキと城の資料を購入。 『40ペンスでタクシーを呼べます』 という張り紙があったので、電話してもらう。

僕らが立ち去ると、スタッフのおばちゃんたちも、 入り口に鍵をかけていそいそと出て来てしまった。 まだ 15時25分 (閉館時間は 16時、入場は 15時30分まで・・・と案内板に書かれているのに)。 まるで仕事をやる気がないようだ。

3人連れのドライブ客が来るが、おばちゃんに追い返される。 そのうち1人が、 『まだ3時半前だ』 というように腕時計を差して抗議しているが、聞き入れられない。 かわいそう。 こんなんで、いいのだろうか???


10分後にタクシーは来て、さらにその10分後にはポートラッシュの町に着いた。 タクシー代は3ポンド。

うろうろしてたらバス停発見。 なんと間もなく、南へ向かう長距離バス (ベルファスト行き) があるようではないか。 ちょうど良かった。 これを利用することにする。

急いで荷物を預かってもらっていた宿に行く。 やはり留守だったので、借りていた鍵で扉をあけ、
「 We enjoyed. Thank you so much! 」 というような書き置きを残して、リュックを持ち出す。

バス停に戻ると "ベルファスト行き" のバスが待っていた。


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