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1999年


2月13日(土)の宿

ミッチェルズタウンの酒場宿(名称不明)


次の町

レンタカーを借りて4日目。

この日はディングル半島をドライブした後、そろそろ内陸方面を観光しようと思い、そちらに向かって車を走らせた。 どこに泊まろうと決めてたわけでもないが、18:00時ころ、ミッチェルズタウンMitchelstownという町に着いた。 もう暗くなっていたので、この町で宿を取ることにする。

マーロウの北東約30kmにある、観光地ではないごくフツーの町だ。 多少悪く言ってしまうと、平凡で地味なところで、アイルランドの全国地図だと、かなり詳しいものでもなければ載ってない。 しかしまぁ、飾り気のない、ありのままの自然体な町といった印象を受けた。

観光地でもないためか、B&B宿も少ない。 町の中心部に、酒場の2階にあるB&B宿を2件ほど発見するが、認定機関の品質保証<シャムロック>マークがないので、敬遠。

この後、宿をかなり探して、ようやくキレイな一軒家を町外れに見つけるも、留守らしかった。 手持ちの資料を見ても、この近くには夏季限定の宿しか載ってない。

背に腹は変えられないので、結局、町の中心部に戻ってさっきの酒場のB&Bへ向かう。

1件目を訪ねると、無愛想な娘さんが出てきて断られる。 というか、そもそもこの時期に泊まりに来る客なんて想定していないんだろう・・・そんな感じだった。 レストランの調理場で揚げ物の途中だったようで、忙しくて不機嫌に見えたのかもしれない。

宿が決まる

で、もう1つの宿、メインストリートにある馬の看板の酒場(パブ)を訪ねる。 この家の息子だろうか、20歳前ぐらいの、正直そうできびきびした兄ちゃんが出てきて対応してくれる。 酒場の裏口から2階の客室に行けるようになっている。

しかし案内された部屋は・・・汚なかった。洗面台に吸い殻が残ってる。家具もちょっとよれよれ。クローゼットがあるが、ハンガーがない。しおしお感が漂っている。

しかも、この部屋の鍵が見つからないようだったので、他の部屋へ案内される。

次の部屋はファミリースィート・ルームで、なんと子供用の2段ベッドもあった。 面白いので 『ここでいいよ』 と言うと・・・、やっぱり鍵が見つからないらしい。

しかし兄ちゃんは 『大丈夫』 と、鍵の隠し場所らしい廊下のカーテンの蔭を手探りして、鍵を持ってくる。 ところが鍵は合わない。

それは、最初に案内された部屋の鍵だった。

というわけで、結局最初の部屋に落ちつく。2段ベッドのある部屋が良かったなぁ。

と、難儀な宿ではあるが、酒場の上っていうシチュエーションが、おもしろい。
(おもしろいけど、こういう所に泊まるのは今日限りにしようと心に決める。)

朝食は何時にするかと聞かれたので、いつもどうり 『8時』 と答えると、兄ちゃんは
『え、8時だって!?』 と目を真ん丸くさせてすごくびっくりしたあと、あわてて口を押さえた。

『日曜の朝はみんな遅いんだ、だいたい10時くらいが普通なんけど・・・。』 と彼。
こちらも無理してもらうのは申し訳ないので、
『朝、早く出発しなきゃいけないんで、朝食はなくてもいいよ』 と言うと、接客業としての立場上そういうわけにも行かないのだろう、
『なんとか用意する』 とのこと(調理するジェスチャー付きで)。
朝食は8時ということで話がついた。逆にすまないが、ありがたい。

日曜日の朝ものんびりしないなんて、東洋人はせっかちだと思われたかな?

スーパーに行く

食事を買いに、SPARへ行く。SPARといってもコンビニ風ではなく、普通の食品スーパーだ。
そこの惣菜コーナーの娘さんが、終始にこやかに応対してくれたのが印象に残っている。 東洋人がよっぽどめずらしかったのかもしれない。 言葉が通じなさそうなので、余計に親切にしてくれた感じだ。 パンを買ったら、バターを多めにサービスしてくれた。

波留子いわく 「ハイジがそのまま大きくなったような」 ソバカス顔のふっくらした娘さんだった。

酒場にて

宿の部屋に戻って食事を済ませた後、1階の酒場にビールを飲みに降りる。
ちょっとキツそうな宿のおかみさんが、忙しそうに他の客の相手をしていた。 僕らが飲んでると、さっきの兄ちゃんが、申し訳なさそうに
『あ〜、え〜、宿の代金を前払いで欲しいんだけど・・・』 と請求に来た(きっと母親に言われたんだろう)。 ちなみに、この宿では、おかみさんと直接話す機会はなかった。

酒場では音楽も演奏されていた(これを書いている時点では、どんなジャンルの音楽だったか忘れてしまったが)。 ギネスビール片手に音楽を聴いてると、店に来ていた20歳代前半くらいの若者が親しげに話し掛けてきた。 『音楽は好きか』 とか、こっちの英語力も難ありなので、特にたいした内容の会話でもなかったが、 それなりに楽しかった。

宿の兄ちゃんといい、スーパーの娘さんといい、この町の若い人たちは、擦れてなくていい感じだった。

そうこうしているうちに、近所から夕食を食べ終えた人々が続々と集まってきて、酒場は世間話の会場となる。 年配の女性がテーブルに集まっている。きっといつものメンツなんだろう。 近所のじいちゃんが、ちょっとエッチで滑稽な人形(どんなものかはご想像にお任せする)を持ってきて見せると、ばあちゃんたちは大いに盛りあがってた。

若い人達は酒場の奥のコーナーにあるダーツで遊んでいる。宿の兄ちゃんも一緒になって。 酒場でダーツっていう言葉から連想されるクールな(?)雰囲気でもなく、近所のガキンチョたちが集まって遊んでいるといった雰囲気。

酒場(パブ)はまさに、町の子供から大人までの社交場(パブリック・ハウス)だ。

波留子は眠くなって先に帰ってしまった。 僕のいたテーブルはどんどん合い席され、地元民の中、よそ者が1人ういていた。 いつもの酒場に、見なれぬ東洋人がで1人、ビールを片手にじっと音楽を聴いてる。まったく怪しい。

隣には、家族連れで来てた中学生と小学生くらいの姉妹が座っている。 だんまりしているのもなんか不自然なので、会話を試みる。 こちらから何か話し掛けると、好奇心ある眼差しで返事はしてくれるが、 こっちもそんなに喋れる訳じゃないので、向こうで話を適当に膨らませてくれないと一方通行で会話が弾まない。 もっとも、よそ者のおじさん(?)相手に、自分からどんどん話す勇気のある子供なんていないよな、フツー。 トホホ。

しばらくして部屋に撤収。
酒場から小さくもれ聞こえてくる音楽を聴きながら、24時になる前に就寝。

翌朝

宿の廊下に出ると、酔っ払ってよれよれのおばあちゃんを見かける。 波留子の推測するところによると、この宿屋は旅人の宿というよりは、 酔っ払って帰れなくなった客を泊めるところではないか?

朝食を用意してくれたのは、中学生くらいの女の子だった(昨日の兄ちゃんの妹だろう)。 彼女の目玉焼きは、まわりがカリカリに軽く焦げ目のついた親しみの湧くやつ。 今まで他の宿で食べてきた目玉焼きは、このカリカリがなくて、ちょっと上品すぎてた感がある。 ブラックプディングと、ホワイトプディングも出た。

妹さんの接客態度は、もう立派なホストぶりである。 将来この宿のおかみさんとなったら、もっと部屋をキレイにしてほしいと密かに期待をかける。

食事をすませ、宿を去る。

面白かったけど、宿屋としての質は良くなかったので、おそらく再びここに泊まることはないだろう。 しかし、あの兄ちゃんか妹さんが経営者になって、宿を良くしてくれれば話は別だが。


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