投函された一通の手紙

連載第4回 (秩父市 三木久幸)


 たのむよお、たこいさーん。

 また私の手紙が1ページも出てるじゃないですかあ。連載第3回って、一体……。連載なのお? こんなん面白いのお? ウイてる、ウイてるぞお。他の人の文章からウキまくってるじゃないすかあ。独自の個性を放つれんさんと緻密な内容でぐいぐい引き込む宮沢さんの文章の間の、この単なる手紙はいったいなに? 文章もだらだらしてるし内容もないぞお。たのむよお。泣いちゃうよお。

 ははーん。いじわるなたこいさんのことだ、この辺で私を「その気」にさせておいて「第4回目はないぜ」ってやるつもりだね。判っているぜ。そう簡単に「その気」になってたまるか。ということで、今回もただの手紙。よみ返さないぞ。

 しかし今回のってた宮沢善永さんの文章はすごいですね。最後の方で熊楠の生き方に共感を覚えていくあたり、感動すらありますね。北村薫『六の宮の姫君』のラストあたりで就職を決めた女子大生の「わたし」が「少しでも後の世に残る様なものを残したい」と決意する場面を思い出しました。がんばれ!! 宮沢さん!

 ところで今号には両谷氏の文章はありませんでしたね。もうのらないの? けっこう楽しみにしてたんだけどな。

 今回も引き続きEXフリッパーズの話をしましょう。しつこいといわれようと、最近はニュージャンルの開拓をする根性がなくて。コーネリアスの小山田はシングルを2枚出して、小沢健二はアルバムを出し戯けだけど、この歌詞を注意深くみていくと、

 “本当は何か本当があるハズ”(天気読み:小沢)
→“意味なんてどこにもないさ”(太陽は僕の敵:コーネリアス)
→“意味なんてもう何もないなんて、僕がとばしすぎたジョークさ”(ローラースケートパーク:小沢)
→“君が望んだ答え用意して、言い切った言葉のウソ、判るだろう?”(パーフェクトレインボウ:コーネリアス)

と、かなり示意的に並べればなんだかあまりにもスムーズにケンカをしている様にも見える。大体が小山田はコーネリアス、つまり“猿”で、小沢のアルバムタイトルは「犬は吠えるがキャラバンは進む」そして小沢自信が「略称は“犬”でお願いします」と言ってる。猿と犬。「僕達、犬猿の仲って事で行くことにしました」と言って澄ましてる2人が見えるようではないですか。この二人、まだまだつるんで情報の攪ましをやってる様な気がする…。頭の良い奴はこれだから扱いにくい。

 情報の攪乱、という事で言えばまえの手紙でちょっと触れたユニコーンは情報の攪乱をめざそうとして失敗したバンドでもあったんです。芸術家としてのエゴとそれで金をかせがなくちゃいけないというジレンマは表現活動を生業とする人にはつきものな訳ですが、それをゴマかす手の一つとして、「僕たち大して考えてませーん」という態度をつらぬくという方法がありますよね。ユニコーンはその手段で何とかエゴを守りつづけたバンドであったのです。ところが。バンドブームがおわって、いざ外からの圧力がなくなった時にバンド内はもうとり返しのつかない状態に陥っておりました。

 93年のベストソングに私が勝手に決めた「すばらしい日々」は「すれちがっている二人」をうたいつつも、「君が僕を忘れれば僕は君に会いにゆける」と結ぶ謎のラストが意味不明で色んな説を生んだ歌です。「長距離恋愛のうた?」「いやいや、仕事でスレ違ってる2人」「いや、友人を歌ったうたでは?」「そうか、このアルバム制作中に脱退したメンバーにうたったうたか?」等々。しかし解散してしまった今となっては、これはバンドの内部をうたったうただとするのが、やはり正しいでしょう。そうすれば、「君が僕を忘れれば会いにゆける」というラストも、こまかいごたごたは忘れてただの友人からやり返せたら良いのにという意味で解釈できる。それでも「あの頃」を「すばらしい」と言い切る。うー。うるうる。

 しかしこの歌、私は何度聴いても歌詞につい聞き入ってしまう。そして「(君のことをときどきぼんやりと考える」というトコロと、「君に会いたくなっても何もせずに眠る眠る」というトコロで涙が出そうになります。どーでも良いケンカやしょーもない事で友人とぎくしゃくしてしまう。あいつとしかできない話もあって、もとどおりの友人に戻りたいのに何だかだめで、あーあんなケンカしなきゃ良かった。そんな経験がある人ならぜったいに涙を目にためてしまううたですぜ。

 極個人的な事を表現するとそれがすごく普遍性を帯びてしまう。それは優れた表現者の条件なんでしょうが、奥田民生という人、なかなかの強者とみたぜ。ユニコーン後の活動がたのしみです。頑張ってほしい。

 あぁ、本当はこの後に電気グルーヴのハナシをつなぐつもりだったのにBGMで「すばらしい日々」をきいてたら何だか考えがまとまらなくなってしまった。ま、いいや。紙もだんだんなくなってきたし、この辺でやめる事にしましょう。

 最近の私はひたすらドクター論文をかく毎日です。自分の Mac SE/30 を家に持ち込んでコタツにのっけてパカパカと打ち込んでいます。漢字トーク7は大きすぎて重すぎて SE/30 には酷です。ところでたこいさん。私の研究室でも Mac IIvx を科研費で入れたんですけど、これがおせーのなんの。ベンチマークテストの種類によってはカラークラシックよりも遅いぞ。どーなってんの? うちの講座では「 IIvx はくわせもの」というのが定説になってしまいました。とほほほ。たこいさんのはどう?

 いろいろとだらだら書き連ねました。今回はこの辺で。あ、そうだ。「お楽しみはこれからだッ!!」にヤングサンデーの「デカスロン」をのせてほしい。けっこうすごいマンガですよ。

 それでは、また。

 1994/1/3 Miki


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