お楽しみはこれからだッ!!
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第7回 “魔獣降臨(まけものきたりて)”
 掲載誌 CANTY44
 編集/発行 菊池久美子/仙台SFクラブ
 発行日 1990/9/30


 放浪の連載コラム“お楽しみはこれからだッ!!”第7回は突如CANTYに登場。思い返してみるに、僕が生まれて初めてCANTYに書いた原稿というのは、“お楽しみはこれなのよ”というタイトルで、大体これと同じような構成(レイアウト)のものだったのだな。うーむ。鬼のよーに懐かしい。しかし、それから8年近く経とうというのに今だにこんなことをしてる僕は一体何なのだ(笑)。

 さておき今回のテーマは“魔獣降臨(まけものきたりて)”。

「外道! きさまらこそ悪魔だ!
 おれはからだは悪魔になった……だが、人間の心をうしなわなかった!
 きさまらは人間のからだを持ちながら悪魔に! 悪魔になったんだぞ!
 これが! これが! おれが身をすててまもろうとした人間の正体か!
 地獄へおちろ人間ども!」

 僕の心の故郷。永井豪最大にして究極の傑作『デビルマン』! 初めて読んだのは小学校3年生の頃、同級生が学級文庫(懐)に持ってきていたKCコミックス。その後半の展開が、まだ10歳にもならない少年に与えた衝撃ははかり知れない。

 以後、毎週土曜日曜になると街の書店のマンガ売場で夕方暗くなるまで立ち読みに耽る少年の姿が長くみられたということである(笑)。どっとはらい(笑)。

 と、いうのは冗談にしてもこの作品は僕に、善と悪、神と悪魔といった二元論への懐疑、人間心理の暗部などといった認識変革を刷り込み(インプリンティング)してしまった。この刷り込み(インプリンティング)が、現在までに到る僕の嗜好、趣味に多大な影響を及ぼし続けているのはまず間違いないところだと思ふ。


「神がなんだろうが人類がどうなろうと知ったこっちゃねー。
 目的はおれのおふくろを殺った十三人の学者、そいつらだけだ!!
 もし、それが…、神とかいうやつと戦うことなら戦ってやる。
 おれの目的の前にたちはだかるやつはだれだろうと許さねー。
 それがなんであろうと、許さねー。
 神であろうと、
 宇宙全体であろうと、
 戦う!!」

 神と魔の相克というテーマ、破壊的、暴力的な描写等々といった点から永井豪と対をなす存在といえば、それはもう石川賢しかいない。

 一方に『魔王ダンテ』−『デビルマン』−『手天童子』−『凄ノ王』といった流れがあるとするなら、『魔獣戦線』−『聖魔伝』−『魔界転生』etc. という流れもまた確かに存在している。

 特にこの『魔獣戦線』は、“神”を人類を滅ぼす暴虐な存在とみなし、その“神”に戦いを挑む“魔”を描いたという点で、正しく『魔王ダンテ』石川賢ヴァージョンと呼ぶべき作品である。(余談になるが、この二作は、掲載誌の都合で打ち切りとなり、オープンエンドのまま未完に終わっているところも共通している(笑))

 これらの流れの中では、『デビルマン』を別格とするなら永井豪では『手天童子』、石川賢なら『聖魔伝』が最も完成度の高い作品といえよう。この二作においては、物語の発端から巧妙にはりめぐらされた伏線がクライマックスで見事に一つにまとまって、さながら一枚のタペストリを眺めているかの如き感覚を味わうことができる。

 しかして、同じテーマを扱っているかに見えて、永井豪と石川賢の作風には重大な違いがある(と思う)。それがこの二人の作品の印象をかなり異なったものにしている、というのはあながち僕の思い込みばかりでもないと考えている。

 一言で言ってしまえば、永井豪作品の主人公は“巻き込まれ型”であり、石川賢作品の主人公は“巻き込み型”である、と言えると思う。

 この台詞に象徴されるように、『魔獣戦線』の主人公来留間慎一は“復讐者(リベンジャー)”である。物語冒頭で母親ともども人体実験のモルモットとして扱われ、母親を殺された慎一は仇である十三人の科学者への復讐心だけで生き永らえてきた。その強固な目的意識と行動力が周囲に否応なしに波紋を起こし、物語を形造っていく。

 『聖魔伝』においては、姉弟としてこの世に生をうけた“魔女”テレサと“神”ユンク、この二人を中心に神と魔の抗争が描かれる。ユンクにとってのテレサ、テレサにとってのユンクは絶対無二の存在であり、二人の関係に介入しようとする者は神であろうと魔であろうとその前から排除される。ここでも主人公二人の強固な意志の周囲に物語が形造られる。

 石川賢作品の登場人物の行動原理は“私的”な憎悪や愛情である。その強固さの前には神と魔の相克といった壮大なテーマも単なるバックグラウンドに過ぎない。と、いった感が強い。

 対して永井豪作品においては、避けがたい巨大な運命が描かれ、登場人物はその運命の前に翻弄され続ける、と、いった話をしようと思ったがスペースがなくなった(笑)。えーい、くそ。そのうち必ずつづきをやってやる(笑)。


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