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西沢渓谷行きのバスは、途中徳和という集落に寄り道する。いつも、このバス停ではぞろぞろと人が降りていくから、私はいつもこんなところに手軽な
ハイキングコースがあると思っていた。いつしかそれが乾徳山という名であることを覚えたが、特に興味ももたずそのままになっていた。
ここのところ二子山、天狗山と岩峰のある山を登ってみて、次に登る山を探していたとき、どこかに、この山の頂上は岩場であることが書かれていたことを思いだした。
塩山市なら鉄道でも行きやすいし、思い立って出かけるには、ちょうど手ごろだ。登ってみようと地図を広げると思っていたよりもおもしろそうな山であった。
そして、実際に登ってみると、なによりも山自体の形が美しい。植生も登り口を除けば広葉の混合林で美しい。この山の真南には富士山がそびえていて、眺望に文句のつけようがない。
頂上は岩場だから視界は360度である。名山の条件をすべて含むこの山に気づかなかったことが不思議であった。
塩山駅8時8分発の西沢渓谷行きは乾徳山入口を経由する。川にそって登ってきたバスは馬込バス停
を出ると、徳和川に沿って登っていった。
8時40分、乾徳山登山口に着いた。バスを降りると、橋を渡り右側のコンクリートの車道を登っていく。吉祥寺の先で左に曲
がると登山道入り口が現れた。いっしょに降りた乗客はだれもこないので不思議に思いながらも、道満尾根登山道に入った。
登口は植林であったが10分ほど登った後は、広葉の混合林に変わり雰囲気もよくなったので、木の葉を眺めながら簡単な朝食を
取ることにする。食事をしていても、まだだれも現れない。ほとんど平坦な尾根道を進むと、大平から登ってきた林道が接近してくるが、
歩道は道路には出ずにそのまま続いている。その後、少し広めの歩道に出た。
登ってきた方角の視界が開ける。真南の位置には富士山が見えている。生い茂った木々が邪魔して写真を撮るにはちょっと
むかないけれど、ここで景色を眺めながら少し休憩をすることにした。このあたりの木々は葉によっては黄変を始めていた。紅葉の季
節は一段と美しいことだろう。ここから少しだけ登りが続いたが、再び尾根上の平坦な道にもどった。
枯れたススキの原に出ると、視界は開けた。
道の脇の岩の上に腰を下ろし展望を楽しんだ。岩の上に立てば、東側には、笛吹川の
深い谷を挟んで雁坂峠から奥多摩方面の山々が広がっている。西には、手前の低い山々の背後には、岩の鋭い峰が並ぶ。南アル
プスの山々であろう。
これから向かう方角の北には、乾徳山の紡錘体の峰が立っている。これまで思い浮かべていた平凡な山頂と異なっていただけに
改めて今日来てみてよかったと思った。
頂上の登り口になる扇平という場所は名の通り少し広々としたところである。ここで徳和渓谷から登ってくる登山道も合流している。
ここで気づいたのだが、こちらの道から登る方が一般的なようで、ここから登山者の姿が急に増えた。朝バスを降りたときの私以外の
乗客もこちらから登ったのであろう。
それにしても、私が思うには、薄暗い沢沿いを登ってくるよりも尾根道の方がいくらも快適だと思うのだが、人々の嗜好は不思議なもの
である。下山時は錦晶水を通るこちらの道を下ってみたが、道満尾根に比べて距離が格段に短いとも思えない。
扇平からは、いよいよ登りになり、鎖のつけられた岩場が3つ現れる。岩には髭剃岩という名前がつけられていた。
最初の鎖場は難なく越える。このくらいなら鎖はいらないだろう。かえって登ってから岩の上を歩くときの方が怖い感じだ。
2番目の鎖場は、鎖を使わず右側まで岩をへつってから登った方が楽だ。
最後の長い鎖場を超えて這い上がると岩のごつごつした頂上に出た。北に黒金山に続く尾根、その一つ奥には金峰山、国師ヶ岳の稜線が
見える。南を向き笛吹川を追っていくと、その先に塩山の町が見え、その背後には富士がそびえている。
乾徳山は、すべてそろった名峰である。あらためて来てよかったと感じた。
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