月末の週末は映画でも と云うわけで、ビリー・ワイルダーの映画のビデオを借りに図書館に出かけた。 目当ては「アパートの鍵貸します」(1960年制作)。 6年前、ジャック・レモンが亡くなったときは観ようと思ってその儘になっていた。 ところが人気衰えず(らしい)。 「アパートの鍵貸します」のビデオは何本もあるのにすべて貸し出しになっている。 代わりに「サンセット大通り」(1950)と「麗しのサブリナ」(1954)を借りてきた。 尤も、名匠ビリー・ワイルダーの名前は知っていたが作品は殆ど知らない。 なにしろ2002年3月27日に95歳で亡くなったとき、へェ、このひとまだ生きていたのだと思ったくらいで。 小林信彦さんが、<二十一年も映画を作っていない>と書いているのを知って、 それなら知らないわけだとも思った。 暗黒劇(これは小林さんの表現で言い得て妙)の「サンセット大通り」は、 売れない脚本家のウィリアム・ホールデンが、古びた屋敷のプールに死体で浮かんでるところではじまる。 「麗しのサブリナ」は、ロマンチック・コメディ。 オードリー・ヘプバーンに恋した兄弟、兄の実業家ハンフリー・ボガートと 弟の遊び人ウィリアム・ホールデンである。 これは朴念仁(ぼくねんじん)のボガートが可笑しい。 ビリー・ワイルダーの映画は、何を今更だろうと云われるが演出はうまい。 気の利いた台詞はイヤミでないしプロットは分かりやすい。 小道具はあとで生きてくる。 「サブリナ」では、ズボンの後ポケットである。 うーん、ビリー・ワイルダーの映画はいいなあ。 |
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大根おろし 天麩羅がいい具合に揚がっているようなので、冷蔵庫から大根を取り出した。 大根はよく冷えている。 たっぷりと大根おろしをこしらえた。 天麩羅はべつに旨いものではないけれど、たっぷりの大根おろしに天つゆをかけて食べるとなると御馳走になる。 大根をかじっても面白くもないが、大根おろしを豚カツにのせて醤油をかけると旨いのだ。 要するに、大根おろしが好きなのである。 こんな蒸し暑い日には、冷たい大根おろしをからめた天麩羅は旨いものですな。 そのあと、山葵(わさび)茶漬けで御飯を食べて、仕上げは熟したプラム(すもも)である。 蒸し暑い日は、こんな具合。 天麩羅と茶漬けのことを書いて、<天ぷら茶漬け>と云うのを思いだした。 北大路魯山人である。 食通の親玉が云う天麩羅茶漬けとはこんなもの。 天麩羅は前の晩の残りを使うべし。 天麩羅を網で焼いて焦げ目をつける。 御飯にのせて、塩や醤油を少しかける。 その上に大根おろし。 大根は辛いものならなおいい。 そして熱いお茶をかける。 飯が少ないなら煎茶。 飯が多いなら番茶。 うーん、旨いのかな。 |
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南風 梅雨前線が太平洋の方へ押されて南下したり、押し戻されたり。 それで、晴れたり曇ったり雨が降ったりの日が続いている。 梅雨の初め吹く南風(はえ)を黒南風(くろはえ)と云う。 梅雨前線が太平洋側にあって吹く風だから湿っている。 どおりで、きょうは生暖かった。 梅雨前線が北上して、日本海側に移ればいよいよ梅雨明け。 南風は太平洋の高気圧からの乾いた風で、これが白南風(しらはえ)。 この時候の緑の木々はみていて気持ちがいい。 晴れている日に緑に覆われた木もいいし、 雨に濡れた緑の葉もみていて気分がいい。 銀行に振り込みに行くと、ATMの前に人がずらずらと列をつくっている。 列は納まりきれずに三重に蛇行していた。 雨の日を避けて出かけたのだけれど、逆で、矢張り晴れを避けてくるべきだったかな。 この銀行の悪い癖は通帳から振り込みを行うと、 まず通帳とキャッシュカードを要求する。 そのつぎに、金額を入力させるのだが、振込先は最後である。 これは手順が逆だろう。 通帳とキャッシュカードを人質に取り、身代金を要求されるような気がするから、 はじめの頃は抵抗があった。 それも、段々となれると違和感がなくなるから恐ろしいものだ。 尤も、私は銀行というものを、もともと信用していないのである。 |
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無邪気な時代があった 日曜洋画劇場が「ダイ・ハード」をやっている。 また新作映画の宣伝番組かよ。 「ダイ・ハード4.0」の小数点は何だろう。 つぎは、4.1とでも云いたいのか、いや単なる戯れ言に過ぎないだろう。 つぎがあるとは限らない。 ただ、ハリウッド映画がネタ切れなのは間違いないのだが。 もっとも、「ダイ・ハード」を最初にみたときは面白かったのである。 ところが、何を今更と云う気がするし、 何度かみて飽きるのは名作ではない。 1988年の制作で、米国はブッシュ・パパが現役だった時代でもある。 この単純なプロットのアクション映画は平和で無邪気な時代の気分を存分に体現している。 日本企業のハイテク高層ビルに押し入ったテロリスト風情が、冒頭の段階で実は俺たちは強盗だよと白状する。 なめていたんだね。それが今のブッシュ・ジュニアは、「テロとの戦い」である。 もうひとつ、この映画はアメリカ人と正義の関係をよく示している。 それは塩野七生さんが『人びとのかたち』(新潮文庫)のなかで指摘している。 <アメリカ人とは、自分たちの考える正義のためならば、高層ビルがメチャメチャになろうがヘリコプターが爆破されようが 人が殺されようが、文字どおりダイ・ハード(絶対にくたばらない)で突き進みたいと願っている民族である>。 その通り。願っているのがアメリカ人。 ブッシュ・ジュニアはイラク戦争を仕掛けた。 ジョン・マクレーン刑事とは違って大統領として。 うろ覚えで恐縮だが、それを決めたのは9.11よりはるか前だそうだ。 戦争の<正義>の物件をいくら探しても見つからなかった。 あのころにもう戻れない。 |
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わさび 午前中に植物園に行ったその帰り、ちょうど午(ひる)時なので何処かで食事をしようと云うことになった。 日本料理の店と云えば大袈裟になる。 それより下がる料亭(これは高級の形容ではなく戦前は待合と称したところだそうで、 CMで料亭の味と自慢するのは間違い)と云うのも当たらない。 もっと下がって(そんなに云わなくてもいいが)、ごく普通の和食を出す店(むずかしいな)に這入った。 気楽な店である。 天ぷらのかき揚げとざる蕎麦と云うのがある。 かけ蕎麦に天ぷらが乗っているのは分かるが、ざるソバとかき揚げとはどう食べるのだろう。 天つゆがついているのかな、と思ってたのんでみた。 出て来ると、皿の上に大きめのかき揚げがひとつ。 脇に塩が盛られていて、塩を振りかけて食べるのである。 かき揚げは、海老に烏賊と貝柱、それを野菜にからめたもので、まずまずの味である。 気に入ったのは蕎麦のほう。 山葵(わさび)はやけくそのように山盛りである。 山葵は蕎麦の上に乗せて、それをつまんで、ツユにつけて食べる(山葵をツユに入れるものじゃない)。 摺りおろした山葵は、最初は鼻に来るが直ぐにぬける。 つぎの山葵もそうである。 これはチューブで売っている山葵とは別物で、あれは色々と混ぜているから辛いばかりである。 山葵は高い。 それを、やけくそのように出すのが気に入った。 |
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洗剤 はやいもので夏至である。 ようやく本降りの雨が降った。 梅雨に入ってしばらくは、晴れたり曇ったりの日が続いたが、 本格的な梅雨になる前にやっておこうとしたことがある。 それはエアコンのフィルタの掃除(そうじ)。 使っているときは一定の時間が経つと、赤いランプが点く。 はじめ何だろうと説明書をみると、フィルタの掃除のサインなのだ。 夏や冬のころは、大体ひと月経つとランプが点くので、 フィルタを取り出して、掃除機をかけてホコリを落としていた。 まあ、その程度の手入れはしていたのである。 せんじつの新聞の土曜版に暮らしの知恵みたいな記事がある。 フィルタの掃除の仕方があって、試してみようと思ったのである。 翌日曜は日が射している。 さっそく実行に移した。 まず掃除機をかけるところまでは、これまで通り。 つぎに、使い古しの歯ブラシに台所にある中性洗剤をつけて、ブラシで水洗いする。 するとどうだろう。 見えなかった汚れが浮き出てきた。 滅多にしない掃除だが、こんなに成果が現れると嬉しいね。 仕上げは、布にエタノールを染みこませて、フィルタに満遍なく塗りつける。 雑菌を防ぐためで、フィルタの掃除をする気になったのは、このエタノールを試してみたかったから。 後は干して乾かすだけ。エタノールの揮発性のため乾くのもはやい。 エタノールは薬屋で買ったもので消毒用エタノールと云うもの。 はじめスーパーに行ったら、これがない。 ところが似たようなものはある。 衣類、ソファーや寝具にスプレーで振りかけて、除菌・消臭すると云うもので、 主成分はエタノールなのに、色々と混じっている。 香料やら銀だとか。 工業アルコールは薬屋でしか売れないから何かを混ぜると売ることが出来るようになる、と云うことなのかは知らないが。 <暮らしの洗剤>とでも云うのだろうか、よくみるとスーパーなんかに置いてある。 台所、風呂場と用途別に驚くほどの種類があるんだねェ。 塩素系のカビキラーだとか、混ぜるな危険とか。 家にあるのは重曹(じゅうそう)とクエン酸。 それから界面活性剤の洗剤で台所や洗濯のもの。 重曹とクエン酸で大概済むそうだが。 で、売り場をみると色々ある。 メーカーも買う方も少しは考えた方がいいのではないかなぁ。 |
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インク切れ プリンタのインクは、時間が経てば段々と少しずつ蒸発するとはきいていた。 以前、印刷しようとするとディスプレイの下の方にダイアログが現れる。 <シアンのインクが少なくなっている>、とか何とか宣(のたま)う。 矢張り、蒸発するのかくらいに思って、そのときは印刷は白黒なのでシアンのインクは関係ない。 印刷してその儘にしている。 一週間前だったと思う。 印刷しようとすると、今度はマゼンタと黄色のインクも少なくなっていると宣う。 おいおい、どこか漏れているんじゃないか。 その間、カラー印刷はやっていないンだけどね。 そのうち纏(まと)めてインクタンクを交換してやるよ。 そしてきょう、<印刷>をクリックすると、プリンタはごそごそと何やら準備を始めた。 暫く待っていると、例のダイアログ。 <シアンのインクが切れましたよ、アハハ>、とは笑わなかったが。 白黒印刷だから構わない。 印刷の実行をクリックすると、ディスプレイの真ん中に別のダイアログ。 <シアンのインクタンクを交換してください>、とか何とか云っている。 <はい>と<印刷中断>のボタンがふたつあるので、<はい>をクリックした。 どうせ、白黒印刷だもの構やしない。 ところが、ダイアログは消えないの。 それで、中止した(この野郎)。 プリンタのプロパティを開いて、<モノクロ印刷>をチェックして、もう一度やり直すと印刷できた。 印刷のデフォルトはカラーである。 けれども、印刷するのは白黒であって、それくらいの分別があってもいいのになぁ。 莫迦。 |
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船徳 せんじつ梅雨入りしたのに、朝から晴れた日が続いている。 天気図を見ると北の高気圧が南の高気圧を押し下げて、 梅雨前線は太平洋の方に下がっているからなんだ。 お陰で暑い日が続く。 四万(しまん)六千日、お暑い盛りでございます。 と、云うほどではないけれど。 四万六千日は、観音様の縁日で、旧暦の七月十日。 この日にお詣りすると、四万六千日お詣りしたのと同じになると云う。 夏の風情を描いた噺、『船徳(ふなとく)』は、八代目桂文楽が珠玉の逸品に磨き上げたもの。 それは、 四万六千日、お暑い盛りでございます このひとつの台詞で、夏の情景を彷彿させる符牒となったと云う。 文楽亡き後この噺を十八番にしたのは古今亭志ん朝で、 より現代に通じる造形をおこなっている。 久しぶりに、志ん朝(しんちょう)の『船徳』を聴いてみた。 録音は、一九七九年七月五日の三百人劇場の独演会。 志ん朝のCDシリーズがでたのは90年代で、 その前にはレコードがでていてた筈だが、それは知らない。 若旦那ものを得意とした志ん朝のCD版の最初が『船徳』で、 録音から約30年経ったのかと思い至った。 まあ梗概は、船宿に居候(いそうろう)する若旦那の徳兵衛。 船頭になりたいと言い出す。 親方は無理だと断るが、ご大家の若旦那である。 無碍(むげ)に出来なく、にわか船頭をみとめる。 船頭の若い衆が何とも屈託ない。 場面一転、四万六千日様その日に、徳(つまり徳兵衛)はふたりの客を船に乗せた。 <棹(さお)は三年、櫓(ろ)は三月(みつき)ともうしまして>、と云うように、さんざんな目に遭う。 |
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