Hide美人画研究所
「築地明石町」1902年作
- 鮮やかな白緑の着物に漆黒の羽織。すらりとした姿態。小首を軽くかしげ、見返って・・。足元には可憐な一輪の朝顔・・。なんとしっとりとして落ち着きの有る美しい美人画でしょうか・・。ため息が出ますね、所長。
* 「築地明石町」だな。美人画の大家、鏑木清方の代表作だ。ううむ、しかしほんとに美しい日本画だなあ。
- まるで西洋のヴィーナス像のようですね。
* ん、ああ・・まあね。ヴィーナスね。そうかもしれんが、すこし方向がちがうかな。ちょっと固いこと言うと、ヴィーナス像はギリシャ神話を題材として描かれている為、一応宗教画と言えるだろう。背後に壮大な歴史と物語性を秘めている。しかしこの 「築地明石町」はどうかな。これはジャンルとしては風俗画に属するだろうね。日常生活の一こまを描いてるといえるからね。
- はあ。じゃ、美人画っていうのは風俗画ってことで歴史的重みは無いってことですか?
* ん、まあね。でもそんな重みなんて無くたって、人に感動を与える絵は多いよ。現に君は「築地明石町」を見てえらく感動してたよね。
- ええ、もう、心が洗われる気分でしたよ。サーッと涼風が顔をなでていったような・・
* うん。私もそんな気がする。さわやかな風景画を見たときの感覚に近いと思わないかい?私は美人画は風景画に近いと思っているんだ。
- へ、でも人物画ですよ。
* しかし、描かれた人物は我々に何も訴えかけてこない。彼女の人柄や思想は伝わってこない。彼女の視線は遠くを見ていて、我々とは目が合わない。つまり完全に我々に見られる立場に設定されているだろう?清涼な雰囲気があるのみだ。でもそこが美人画のいいところなんだよ。ああ、美しいなっていうね。
- そうですね。そう言えばこの絵の題名も「築地明石町」で地名ですもんね。さわやかなある日の風景と考えられますね。
* うん。事実、清方は明治期の港町、明石町の、ちょっとモダンな異国情調をこの絵で描きたかったと言っている。彼女の髪型も日本髪に結ってなくてモダンだろ。指輪はめて。すらっとした7頭身だしね。モデルは5頭身だけど。
- え、モデルがいたのですか!
* いたよ。この絵は清方の絵画教室で絵を習っていた、江木ませ夫人という人がモデルなんだ。
- へえー。美人だったんですねえその人。んじゃ題名も「ませ夫人」とかにすればいいのに。
* おいおい、それじゃこの絵の目的からそれちゃうでしょ。清方は明石町のモダンさを描きたかったんだから。まあでも清方も純粋にませ夫人の美しさを描きたかったっていうのもあるだろうけどね。とにかく清方は日本が、女性が、西洋の風にふかれているのを敏感に感じとっていたんだよ。どんどん紹介される西洋画にもおおいに興味を持っていたんだ。特にラファエル前派の画家の絵には関心があったようで、有名なジョン・エバレット・ミレイの「オフェーリア」の水死図を参照して描いた金色夜叉・お宮水死図なんてのも描いてる。ミレイの油彩に対して清方のは水墨画だけど雰囲気がそっくりなんだこれが。官能的で美しいぞ。
- へええ!エバレット・ミレイですか!?清方って西洋絵画好きだったんですかねえ。
* 挿絵画出身の清方は、頭コチコチの日本画家ではなく、柔軟な感性で世間の雰囲気を自分の画風に取り入れていったんだよ。
- なるほど。そう言えば清方は最初、新聞の挿絵画家でしたね。じゃ4こまマンガも連載してたんじゃないですか?「ほのぼのお宮ちゃん」とか・・
* ・・君が連載しなさい・・
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