3−3監督がとるべき具体的行動

 それでは有効なリーダーシップにもとずいて、それを少年サッカーの指導に結び付けると具体的にどのような行動をとればよいか監督の具体的行動について述べていこう。
 私は前の方で、監督のリーダーシップは「勝利至上主義」に対しての「防御壁の役割」であるということ、リーダーシップには、時間的に見た組織の成熟度によって果たす役割が異なること、さらには、「参加的集団」を導く組織管理、あるいはそのためにY理論的意識に基づくリーダーシップが必要だということの3つを述べた。 したがって、これらの要素をもとに具体的行動は以下の4つにまとめられる。

     
  1. 子供の躾、特に、サッカー以外でのチームで最低限守らなければならないルールの指示や、確認、およびそれに伴う賞罰の提示、提示した内容に基づく「監視」、実際の賞罰の行使、ルールの再徹底。  
  2. チーム内人間関係の構築と維持。  
  3. チームメンバーへの少年サッカーにおける価値の提示、それに伴うコーチとの指導法、練習法の確認や徹底化、少年サッカーの価値を乱すメンバーがでてきたときの価値の再徹底。  
  4. 保護者への少年サッカーにおける価値の説明と徹底化、試合などチーム外組織との接触時のそうした価値の再徹底、その後のチームメンバーの不安の解消、弁護。

 この4つの具体的行動の基盤となるのが「子供を一人の人間としてみてあげる」ことである。つまり、たとえ子供であっても、どんなレベルであれ目標を与えれば努力し、責任を与えればそれを進んで負い、自ら高い想像力、工夫、創造性を発揮するのだということである。そして、「自分もまた一人の人間であると自覚する」ことである。自分が持っているエゴを自覚し、理解することで、それを見たメンバーは監督に理解を示すのである。メンバーの「心」を開けばコミュニケーションも盛んになり、チームへの参加意識も高くなるのである。それらを認識した上で、具体的行動に入る必要があるのだ。それでは一つ一つ述べていこう。
 まず第一に、監督がチームの成熟過程の中で一貫して行う必要があるのが、サッカー以外のチームのルールを守らせることである。中でも大変なのが「躾」である。この「躾」という要素はややもすると「厳しさ」になる恐れがある。
 そこで監督がなすべき事は「見る」ことと「聞く」ということである。まず、チームのメンバーが集まった時点では、「躾」についてのきちんとした説明を施しておく。また、そうしたルールが守れたかどうかに対する賞罰も一応、提示だけしておくのである。また、こうした内容は、事ある毎に常にメンバーには話しておくのである。あとは、徹底して子供たちを「見る」のである。問題となる行動に対してもきちんと「見る」のである。もし仮に、ルールの逸脱が著しい場合には、一言本人から理由を「聞いて」みて、その上で全員の前で一言だけ諭すように注意を与えたり、触る程度のげんこつや尻叩きなどの冗談的な体罰で済ましたりするのである。また、理由によってはなにもしないでおくのである。そしてまた、「見る」のである。もしその後、きちんとできたときにはしっかり誉めてあげるのである。特に、自分から進んでできた場合、指導者の目に届かないところできちんとできた場合、内発的動機付けのもとにいい行動ができた場合は、これを強化するためにも誉めてあげるのである。このような方法では、子供たちは一時的には監督の目を気にするような行動をするかも知れないが、後はルールの範囲内で自由かつ意欲的にサッカーを楽しむようになるのである。挨拶や整理整頓にしても、できなかったことをただ指導するのではなく、どうしてできなかったかちょっと聞いてみるだけで子供の意識は変わるのである。これがなぜ有効であるかというと、監督の「権威」の影響力が機能しているからである。「権威」という影響力は、実際に行動を起こさなくても、相手の人の行動を左右するものである。(「影響力の武器」より)従って、徹底した「見る」行為によって十分にチーム内のルールの遵守になるのである。
 実際、このような例があった。私がコーチをしていた学年に、どうしても説明どうりに練習をせずにふざけてばかりいるメンバーがいた。その子は私や監督がいくら叱っても、注意しても、同じ様にふざけ、練習を乱していたのだが、ある練習機会から、徹底してその子を「見る」ことにしたのである。初めは、人の顔色を気にするように練習していたのだが、見られてはいるものの、叱られないことから、徐々に顔色を気にするような行動から、自分からの意欲的な行動へと変化していった。この時、技術的なことを誉めてあげたり、簡単な技術的アドバイスを提示してあげたことによって、この子は技術的にめきめきと頭角を現し、チームを引っぱっていく主力メンバーへとなっていったのであった。
 「躾」というものは、大人に言われて出来るようでは本当の「躾」にはならない。監督の「見る」意識と「聞く」行為によってルールに対する子供たちの内発的な動機付けが養われ、「躾」は得られるのである。そして、これら一連の監督の行動によって、子供たちはある決まったルールの範囲内で自由に行動することや、自分で考えようとする意欲や創造性を身につけるのである。これが、子供の健全な成長につながるのだ。
 第二に、チーム内の人間関係の構築や、維持があげられる。誰と誰が友達か、仲がいいかなど、子供たちのグループを把握しておく必要がある。これによって、監督が直接観察できなかったり、得られなかった個人個人の様子や情報を、友達から把握することが可能になる。また、子供たちの間ではちょっとしたきっかけで喧嘩になることが見られる。これに対して素早く対応し、喧嘩の理由を聞いたり、仲直りを施してあげる必要がある。基本的には、どちらの子供にも言い分を持っているので喧嘩両成敗的に考えるのだが、厳しく叱る必要はない。クラブに来ておいて、喧嘩をするのは、自らがクラブでの「楽しさ」を放棄していることになる。従って、サッカーをしたくなるような状況に子供たちをもっていけば良い。ほんのしばらくそろって「サッカーをさせない」ことで喧嘩することより「楽しさ」の欲求を子供の意識に多くさせてあげれば良いのである。また常々そういったことを話しておくことで、子供たちの中から「クラブで楽しくサッカーするには喧嘩などしない方がいい」という価値が生じてくれば、自然と子供たちでいい雰囲気づくり、人間関係の構築に務めるようになるのである。
 また、人間関係に関しては、チームに新しいメンバーが加わったときの的確な対応も要求される。新しいメンバーにチームの価値や文化を伝えること、チームの子供たちにもそうした役割を与えることが重要になる。新しいメンバーに対しては、そのことの共通点、つまり、技術的なこと、同じ学校や近所であること、同じ話題を持っていること、等のより多い子をパートナーとして練習させると良い。そして、そういう時にはパートナーや、グループをつくって行うような練習が、よりメンバーを溶け込ます上で効果的である。この時に指導者が練習内容を説明するとともに、詳しい内容は、どんどん子供たちに説明を委せるのである。こうして、コミュニケーションの量を多くすることで、いち早く、新しいメンバーを取り入れることが可能になるのである。こうした監督の行動は子供が社会性を身につけるのに大きな役割を果たす。
 さて、第三に必要となるのは、メンバーに対して、「少年サッカーでは何が大切か」ということのきちんとした説明と、徹底である。この「何が大切か」の中身についてはすでに詳しく述べてある。そこで具体的に要求される行動が、コーチとのコミュニケーションと、価値を乱すメンバーへの対応である。まずは少年サッカーにおける価値をもとにコーチとの技術的な統一のための話し合いが必要となる。その中で、具体的練習法の探索や子供たちの中で生じた問題についてコーチの意見などを聞き、コーチとの対話の中から解決法がでるようにするのである。さらには、コーチの「援助」の意識の徹底である。これは、後ほどコーチの役割とその必要性について詳しく述べるのであまり取り上げないが、コーチとのコミュニケーションによって徹底された技術指導の内容をもとに、子供に対してのサッカーの指導はコーチにできる限り委任してしまうのである。そして、コーチの「援助」の意識のもとで、子供たちに「自由」にサッカーを「楽しま」せるような指導にするのである。
 また、子供たちの中から、価値を乱すような状況が生じることがある。サッカーをやる以上、練習の中でもゲームをすることがあるが、そうした中では当然勝ち負けが生まれる。この時に、「勝ち」による優越感を誇示するメンバーや「負け」による不安、劣等感を表すメンバーに、きちんと技術的な大切さ、価値をコーチを通じて説明する必要がある。さらには、そうした状況が生まれないように、あらかじめ「何人かわしたか」「何本パスが通ったか」「何本シュートが打てたか」などの技術的目標を与えたり、一応勝ち負けも決める上で、さらに技術的目標で競わせるのである。このようにしてコーチを通じて子供たちに技術的課題の把握とそれに伴う自主的行動を促すのである。こうした行動は、サッカーの将来的な発展には非常に有効なのである。  そして最後の第四番目には、チーム外の影響力に対しての対応である。その影響力は保護者であり、他チームであり、各大会そのものであり、また、Jリーグでもある。その中でも特に対応を重視しなくてはならないのが保護者に対しての徹底である。保護者はチームにとって最も強力な外部の影響力である。この保護者たちが少年サッカーにおける価値を理解せずにいることは「楽しさ至上主義」「技術至上主義」の組織文化を崩壊させることにつながる。しかしながら、最もチームに近い位置にある影響力であることから、逆に、保護者に対して少年サッカーの価値についての考えが徹底されれば、組織文化は強力に保護され、強化されることになるのである。言い替えれば、保護者をチームメンバーとして取り込んで、文化や価値を徹底化していく必要がある。そのために監督は、「指導の理念」や「技術至上主義」「楽しさ至上主義」と言った組織文化を、伝えやすいように組織を発展させたり、伝える機会をつくったりする必要がある。それは例えば、父母会を組織した上での、頻繁な保護者への「指導の理念」の説明などである。これによって試合での技術目標の徹底が容易になるのである。また、子供たちのJリーグを見ていての保護者との会話では、勝ち負けよりも技術的要素に着目されるようになるであろう。
 さて、監督は、試合の場では試合の結果に対して責任を負って上げることであるとか、試合の技術的内容に関してきちんとした評価をコーチを通じてしてあげる必要がある。特に、できなかったことに対してよりも、できたことに対して誉める評価が重要である。できたことをきちんと誉めた上で、できなかった技術的課題は、新しい目標、課題として、メンバーにコーチを通じて提示すれば良いのである。こうした外部からの影響力に対する対応は、サッカーの発展にも、少年の健全育成にも大きく影響するのである。
 具体的行動の3と4に関しては、去年の8月17日号のサッカーダイジェストの中で取り上げられていた世田谷区の尾山台S.C.の例があげられる。このチームでは試合の中で3本パスを繋げることが何回できたかが評価の基準になっており、充実した組織運営のもと、そうした目標を保護者も理解した上で、一試合毎にその記録をとっているのである。さらには、保護者たちはシュート、ゴールの記録もとっており、そのままチームのメンバーの成長の記録として、誉めていくための材料になっているのである。また、子供たちもゲーム内容や、技術の成長をしっかり把握できるようになったのである。
 これらの主に4つの具体的行動が、監督には要求される。実際、これだけの行動がきちんと実施されるだけでもかなり見た目にはいいチームが出来上がるだろう。それでもなお、コーチを必要とするのはなぜなのだろうか。それでは、コーチの役割と必要性について次に述べる。


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少年サッカー指導コラム「監督がとるべき具体的行動」
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