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ふねのゆめ


海に降る雪
初めて見たよ
埠頭のしぶき
真似ては落ちる

鴎の影を
捜したけれど
ひと気の無さを
知らしめただけ

きみのおばあさんの家から
国道を横切って来た

火の這入らない
船に腰掛けてゐる

吊り鐘に似た
巌は遠く
版画を描いた
波間を飾る

どこへ行かうと
よそ者なんだ
きみのジャケット
貸しておくれよ

きみのおばあさんの家から
国道を横切って来た

使はれてない
船に腰掛けてゐる

大切なことを言ったの?
冴え渡る風に紛れた

照れてゐるのを
見逃してくれないか

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根無し草


ぼくらは
根無し草みたいに言われてる
きみらは
そんなぼくらを嫌ってるんだ
グラスにジンを湛え
貧しい夢を叶え
明日もきっと今日のために働く

ハイスクール時分のぼくらの噂を聞いたかい
それは酷いもんだぜ

Samansa, dear
Samansa, dear
今夜は逢いに行けない
愛してるよ
愛してるよ
今夜は我慢してくれ

とにかく
手持ちの品を比べてみよう
恐らく
蹴りの付かないままになるだろう
小さなクルマを買い
零れたごみを拾い
明日もきっと今日のために働く

カレッジ時代のぼくらの噂を聞いたかい
それは愉快だったぜ

Samansa, dear
Samansa, dear
今夜は逢いに行けない
愛してるよ
愛してるよ
今夜は我慢してくれ

Samansa, dear
Samansa, dear
今夜は逢いに行けない
愛してるよ
愛してるよ
今夜は我慢してくれ

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フェリーにて


下関を起つ
フェリーの上から
無いことにしたい
日日を見送る
穏やかな
波はテイプの束を飲み込んで行く
陽射しが痛くて
キャビンに這い込む
あなたの居ない街にさよなら
あなたの居ない街にさよなら

あなたを乗せた
赤い単車は
中央線を
頼りに走る
緩やかな
カーヴと対向車のライトに騙され
冷たいアスファルトは
時間をくれたかい
22年を振り返るのに
22年を振り返るのに

悲しんだのは
ぼくだけではない
あなたを愛した
人の辛さよ
過ちは
残した傷の深さが秤となる
約束していた
国まで送ろう
あなたの居ない果てしない陸
あなたの居ない果てしない陸

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BREEZE


足並みを揃へ小学生が
行進の練習してゐる校庭
まだ舗装されない土手の草が
懐かしく見えたせゐ

飛び石を跳ねるやうに
古い思ひ出を辿るけど
春休みきみと目が合ふまで
ああ,ぼくは何にもしなかった

FAIRLY GIRL
BREEZEは
北で生まれた

英語を知らない変なクォータ
グラン マはLANCASHIRE,日本を知らない
木漏れ陽を選びきみを誘った
溶け込んで行くみたい

細過ぎる身体あづけ
歩きにくさうにするけど
抱き締めて寒さを凌げば
ああ,きみは何にも喋らない

FAIRLY GIRL
透明な
風を操る

蔭りない瞳を見てると
ああ,ぼくは何にも迷はない

FAIRLY GIRL
BREEZEは
北で生まれた

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少し不便なんだけど
この町に住む
潮騒で時を知り
多く望まず
海風あまく
浮雲たかく
とても清しい

廻り道を楽しんで
きみを誘った
自転車を立て掛けて
仔犬をあやす
気が付かないね
零れそうな胸
とても眩しい

厭な物を見ていない
瞳を向けて
髪を伸ばしたいのと
帽子を取った
きみがこれから
恋をするなら
とても嬉しい

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秋になった


ガスの切れたビートルを
蹴飛ばしてから
別に困るふうも無く
きみは笑った
空は深い蒼
これからのことを
訊くのは止めた

レストランを探し当て
ビールを飲んだ
スタンドは開いてるけど
きみもやりなよ
気が付かないの
俯いたときの
シャツのデサイン

寝転んだら窓の外
月が満ちてた
大事そうに胸を抱き
きみは眠った
しばらく横顔
見た後でキスを
頬にあげよう

潮騒に飽きて
気温が下がって
きみを起こした

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all words written by nii. n