目次


大丈夫って言って

いちばん遅い時間の
映画館で並んで観てた
レイア姫になりたい

大好きな男の子
一所に居ると本当に楽しい
友達も誉める

デモヤッパリ
シナクテハイケナイノカな

暗くなって家の側
目を瞑ってと誘われ泣いた
ぎこちなく触れる

デモヤッパリ
シナクテハイケナイノカな

誰か背中を押して
大丈夫って言って

終電車に乗ったり
夕方まで寝惚けていたり
ひとり暮らしてみたい

暑くなくても裸で
仔猫と戯れながら電話
アイスクリーム食べる

デモキットネ
逃ゲ帰ッテシマウダロウな

誰か背中を押して
大丈夫って言って
大丈夫って言って

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おどけ者

夕映えの
消える間際の
街並みの
息吹を閉ざす
硝子窓
いつかしら
黒い鏡の
真似事

頬杖を
突いてゐるのを
止めぬのを
言ひ訳にする
ポラロイド
いつかしら
遠い昔の
戯言

この胸は不安なのに
張り裂けさうなのに
きみの眼に映る男は
おどけ者なの

遠吠えの
犬の首輪の
冷たさの
代はり務める
筈だけど
いつかしら
甘い時間の
空言

この胸は泣きたいのに
張り裂けさうなのに
きみの眼に映る男は
おどけ者なの
おどけ者なの

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一から千まで

もしも外の娘と
結婚するよと
告げたら彼女は
驚きはしても

だけど心から
喜んでくれて
惜しがったり
悔しがったり
しないだらう

一から十まで
十から百まで
好きだよ
彼女もぼくを
好きであれば
どんなに良いだらう

もしも誰かと
結婚するなら
きっと最初に
ぼくに打ち明ける

十から百まで
百から千まで
好きだよ
彼女もぼくを
好きであれば
どんなに良いだらう

だから目を伏せて
相談に乗って
彼女の幸せ
見送ることになる
一から千まで
一から千まで

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矜恃を保て

ろくに陰の無い
町中を歩き
陽に焼けないでゐるの難しい

ひと休みすれば
汗は引かうけど
へたばりさうなのは心のはう

好きな人はみんな
指輪をしてる
優しくされても
言へやしない

ほら
頭を上げて!
矜恃を保て!
おまへの決めたルールを守れ

誰も見てゐない
裏通りへ向き
人にぶつからないの難しい

腕組んでゐれば
手ぶらぢゃないけど
支へを望むのは心のはう

好きな人はみんな
指輪をしてる
優しくされても
言へやしない

ほら
背筋を伸ばせ!
瞳を凝らせ!
おまへの決めたルートを辿れ

頭を上げて!
矜恃を保て!
おまへの決めたルールを守れ

 

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答へを知りたい

夜明けの近いバイパスに
車を停めて
仮眠を取ると言ひだして
済まなそうにした

軽い寝息消すだけの
ヴォリウムに気を付けながら

FM二・三きいたけど
皆つまらなかった

県境こえた辺りから
落ちてきた雨
これから見に行くはずの
湖のよう

わたし何故ここに居るの
どうして付いてきたの
後悔よりも今さらに
答へを知りたい

薄膜ひいたアスファルト
青い信号を
地中に写し続いてる
篝火のよう

ここで引き返したって
同じような気がする
時計がひと周りしても
誰も通らない

わたし何故ここに居るの
どうして付いてきたの
後悔よりも今さらに
答へを知りたい

わたし何故ここに居るの
どうして付いてきたの
後悔よりも今さらに
答へを知りたい
答へを知りたい

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よそ者

厚い雲を潜り抜け
揺れる機体で来たのは
匂ひも色も見慣れぬ
きみを育んだ街

暗いうちに起き出して
揺れる気持ちで来たのは
よそ者と呼ばれつけた
昨日をなくしたいから

必ず幸せにすると
まだ約束できなかった
あのとき黙って攫っていったなら
決して訪へない所

「皆に喜ばれないと
うまく行かないワきっと」
何も悪くなどなかった
きみを喜ばせたい

つらい恋をしてきたと
嘆いてみたくとも
失ふことの痛みに
代はるものぢゃないから

必ず幸せにすると
まだ約束できなかった
あのとき黙って攫っていったなら
決して訪へない所

変はらぬ思ひを誓ひ
紙に署名を載せても
時は緩やかに洗ひ
消し去らうとするだらう

必ず幸せにすると
まだ約束できないけど
あのとき黙って攫っていくよりも
この日を待つはうを採った

「皆に喜ばれないと
うまく行かないワきっと」
何も悪くなどなかった
きみを喜ばせたい
きみを喜ばせたい

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恥づかしすぎる

近くに住んでいるのにくれた
あなたの便り
嬉しく読んだ

すぐに返事をあげようとして
便箋ひろげ
はたと困ったわ

近況報告や
お礼の文句より
記したい
言葉があった
だけど
書いたなら
恥づかしすぎる
できないヨ

季節が移り職場が代わり
顔を合わせる
機会も終わり

最後もういちど交わしておいた
名刺の裏に
住所をメモした

毎年のスキーも
今年は行かないわ
寒がりで
早起きなんか
しない
あなたを
説得できなかったから

近況報告や
お礼の文句より
綴りたい
言葉があった
これは
書けないヨ
恥づかしすぎる
書けないヨ

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all words written by nii. n