Friends of X

2003.03.06


●ソフトウェアの個展

Mac OS Xのプログラマーが集まって「ソフトウェアの個展」のようなことを行うFrieds of X、初日(3/6〜8)。Barとギャラリーを兼ねた面白い構造の店、Sugar Water GALLERY BARで開催されるという話を事前からつかんでいたので、行ってみた。Barのためか、準備のためか、夜9時オープン、0時まで。

そう大規模な告知がされていたわけではないし、寒く雨も降っていたから空いているんじゃないかと思いつつ、入る。9時前なのに、すでに狭い店内に、ギューギュー詰め。ていうか、なんで濃いMacユーザーって、あんなに身体が大きい人が多いの?(すみません、悪気はありませんのでご勘弁を。)

珍しくビールを一口つけて、ふらふらしながら、バー・コーナーからギャラリー・コーナーへ足を運び、ソフトウェアを動かし、開発者に説明を受ける。これ、面白い試みかもしれない。こういうことって、MacWorld Expo in Tokyoで行われるのが通例だったけど、ああいうところでは小規模開発者って埋もれがち。ここでは対面し、膝を詰めて?話すことが出来る。また、実用一本やりというより、Mac OS Xになり、マシン環境が向上したからこそ思いついたこと、またそういう環境だからこそやれるバカなことに力を注いでいる。1980年代文化ともいえるが、こういうくだらなさこそが新しい道を開いてきたのだから(そもそもMacintoshが採用したビットマップディスプレイによるウィンドウ描画自体、出た当初は「バカじゃないか」と多くのエンジニアに言われ続けたのに、いまやWindowsを中心に当たり前)、こういう技と力を駆使した遊びって、とても大切。


●作品紹介

そういう意味で、私がバカうけしたのは、藤本裕之氏xToy。キーワードを入力すると、それに応じた画像をインターネットから拾い上げて、16 個、画面に並べて表示してくれる。一定時間おきにランダムに切り替わる。たとえば、Johnとキーワードを入れると、それにひっかかるページを検索エンジンで探し、ヒットしたページにある画像を表示する。画像は、まさにJohnその人を表示することもあれば、彼が撮影した何かの写真である場合もあるし、犬の写真もありえるし、イラストが表示されるかもしれない。何が出るかわからない。見ていたある方が「常時接続時代の環境ソフトね」と表現していたが、そうでもあるし、それ以上に不思議な感慨を湧き起こす何かでもある。作者いわく「具体的な名前より、形容詞や概念の単語を入力したほうが面白い」。ほうら、見てみたいでしょ? (ありゃ、そうでもない? でも、見ればわかります、iTunesのインターネットラジオの、Visual版だから。)

言い出しっぺであるバスケ氏は、LAN接続されたMacから、他のMacのiTunesを操作するリモコンソフト、iCon Server & Remoteを発表。Finderに替わるソフトウェアは間に合わなかったのだそうな。ただし、こうやってTCP/IP経由で他のMacをいじるソフトは、Mac OS XとRendevousなどの基礎技術がなければ簡単には作れないし、逆に言うと簡単に作れるからこそ、一度出来ると「次はこんなのがほしい」といったアイデアが湧く。そういうことを考えるための基礎実験。急造のためか、まだ専用ターミナル画面から、直接制御コマンドを入力することもあって、それがまたUNIXっぽいアップルイベント送信画面という興味深いものだが・・・これはプログラマー経験者でなければ面白いとは思わないわな。


圧巻というか、びっくりしたのは、小池邦人氏えもん(そういうソフトウェア名)。初代Macintoshからしばらくの間、標準お絵描きソフトウェアだったMacPaintというものがあったが、あれはビットマップの集積が絵である、という発想を明確に眼に見える形に収めたものだった。えもんは、3D画像もビットマップの集積と定義し、表面のレンダリングを行うタイプの3Dソフトとまったく異なる発想で表示・編集を可能にしたもの。2次元では、X軸とY軸にピクセル(1ドットごとに、色の情報を持たせる)の集積があるとして取り扱う。3次元では、X軸、Y軸、Z軸の空間がボクセル(Boxcel、1ドットごとに色と透明度の情報を持たせる)の集積であるとして取り扱うことになる。この最大の利点は、単に表面を処理するのではなく、掘ったり、潰したりすることが可能になる。また、掘った面に対して、色をつけたり絵を貼り込んだり出来る。ろくろをまわして茶わんの形を作ることもできれば、立方体を掘って彫刻をすることも出来る。ムービーを流し込めば、Z軸を時間に見立てた紙の束として扱えるし、この紙の束を掘ったり、それぞれの絵を修正したりエフェクトをかけたりもできる。しかもどんな処理を行っても、3Dにつきものの光線レンダリング(光源からの光線状態を考慮に入れた、物体の表面処理のための演算)を行わないから、処理も軽い。作者いわく「この3Dのボクセルを、出力するデバイスがほしい!」。私も見てみたいわ、どっか作る会社、ないかしら?

他にも、高橋政明氏ユニバーサルポイントという、ユニバーサルアクセス機能(handy cappedのための表示補助機能)の足りない部分を補完するユーティリティを出していた。また、高木義人氏ZOOM X ZOOMは超ハイレゾのQuickTime VRムービー再生ソフト(ほんとにきれいに拡大できる!)、宮田正秀氏コビトは部屋の中を見て回るQuickTime VRと、MacならではのQuickTime VRネタ。一転して、田中太郎氏スーパーバナナビュアーなるFinder + iPhotoのような画像閲覧ソフトウェアという実用系(iPhotoに不満な方にはいいかも。WindowsのExplorerっぽいけど、テイストはだいぶ違う)。

さらに、Peter Hoddie氏(アップルでQuickTimeのアーキテクトを勤めていた)は、Kinoma PlayerというPalmの有名な映像プレイヤーを展示。実は、Mac OS Xのストリーム配信をリアルタイムで表示するという驚異的なことを行っていた(注意:PalmのようなPDAは、処理をつかさどるCPUが貧弱でこうした処理には適していないのに、それをやってのけていた)。

それぞれのソフトウェアはみな、各人が自分で開発して発表している。一人でここまでやれるのは、各人の能力もあるが、Macintoshという環境の面白さもあるだろう。


●バー・コーナーにて

ちなみに、私はバー・コーナーでWebObject使いの方々とお話などしたりしたのだが、なぜかC++だのLispだの、Objective-CだのSmalltalkだの、今後はフレームワークの時代だの、Mac OS Xと関係ない話ばっかり。

でも、話していて思うのだが、Windows界でも、UNIXやエンタープライズでも、そしてMacでも、ソフトウェアを開発するという業種自体に大変革が進行している自覚を皆が持っており、その中でどうあるべきかを考えながら行動したいと思っている方々が多数いるということ。これは、ここで取り上げるにはでかすぎるのでまたの機会に。


ちなみにこのバー、ビール中心で、注文するとビールと冷えたグラスがやってくる。日本人はやってきたビールをだぁっとあまり考えずにつぐ。欧米人は出身国に関係なく、ざっとまず泡立てて注いでから、ゆっくりと泡を紡ぐように注ぐ(KirinCityの厨房でもやっていますよね)。その時、表情もそうだが、腕の動作自体にリズムがあって、まるで「おいしいビール、おいしいビール」と呪文でもかけているように優しく量を整えて注ぐ。それを終えると、「こうして待ったからこそおいしいビールが飲めます」と顔に書いてあるがごとく口に運び、喉仏を1回上下させてからグラスを離し、本当にうれしそうに微笑む。いいなぁ。ほんとうにビールが好きなんだと伝わってくるこの笑顔、好きです。私なら、コーヒーかお茶だけどね。

[追記]ZDNet Mac(旧MacWire)3/7号に記事が掲載されています。


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