難題詠百首和哥 定家・為家・為定・安嘉門院四条

  明応八年運賢筆本 翻刻

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はじめに

一、藤川百首について

 全て四字のむすび題から成る百題百首である。春・秋・恋・雑、各二十首。夏・冬、各十首。定家の冒頭の歌に「関の藤川」が詠まれていることから『藤川(藤河)百首』と通称される。定家の家集『拾遺愚草』の古写本の多くはこの百首を欠き、後人の手によって家集に増補されたものと見られる。御所本六家集本などは正編上巻の末にこれを収め、六家集板本などでは員外の末に収めている。

 定家の百首の成立年は不詳であるが、「寄木述懐」で詠んだ「九重のとのへのあふちわするなよ六十むそぢの友は朽ちてやみぬと」は作者自身が六十歳前後であったことを示すと思われ、また「潤月七夕」の題から七月に閏月があった年の撰定と推測されるため、貞応三年=元仁元年(一二二四)頃の詠とする説がある(久保田淳氏『藤原定家』『訳注全歌集』)。この説は首肯すべきものと思われ、すなわち定家六十三歳頃の作であろう(官位は従二位民部卿)

 子の為家も同題の百首歌を詠んでいるが、『夫木和歌抄』には「貞応三年湖上千鳥」「貞応三年七月百首歌、水郷寒蘆」などの題詞と共に為家の当百首詠を収めており、二人の詠出がほぼ同時期であったらしいと知られる。同じ頃、他の歌人がこの百首題を詠んだ記録は見当たらないので、親子の間で内々になされた百首歌だったのであろうか。また『為家集』下巻の当百首の表題に「当座」とあり、その場で即詠したものらしい。定家の作にも十分に修辞・趣向が練られていない歌が散見されるのは、比較的短時間に百首を即詠(速詠)したためと思われる。こうした性格の百首歌ゆえ、定家は『拾遺愚草』正編・員外いずれにも敢えて収録しなかったのであろう。

 難題百首として後代の歌人によって重視され、多くの歌人がこの百首題に取り組んだ。定家・為家・為定・安嘉門院四条・三条西実隆の百首詠を収めた『藤川五百首鈔』なる書も編まれている(編者未詳。定家の歌にのみ注が付く)

 

二、本テキストの底本について

 「順徳院御百首」の題簽をもつ、四つ目袋綴じの古写本である。題簽は剥がれたらしく、こよりのようにして綴じ糸に結びつけられている。「百首」の「首」のところで紙が切れており、この後にも何か字があったのかも知れない。「順徳院御百首」(定家の評語付き)を始め、慈円の「詠百首和哥」、定家・為家・為定・安嘉門院四条(阿仏尼)の「難題詠百首和哥」、慈円の「難題詠百首和哥」(藤川題ではない)、為家の「百首一夜詠」、良経の「治承題百首」と、計六種の百首和歌を収める。識語は「順徳院御百首」の奥書に「明応八己未年三月廿三日 運賢」云々と記すのみで、他の百首歌には記していないが、当然同じ頃に書写されたものであろう。このうち三番目の「難題詠百首和哥」が本テキストの底本である。詳しくはスキャン画像(pdf)を見られたい。なおスキャニングの際、袋の部分に白紙を挿入し、裏面の文字の透けを防いだ。

 

 本翻刻はなお校正が万全でないと思われる。誤りに気づかれた方は、ぜひご教示下さい。

 

例言

 

難題百首和哥  定家 為家 当座

春二十首

関路早春 

定家

たのみこし関のふち川春きてもふかき霞にしたむせひつゝ

為家

あつまちに春やきぬらん関の戸もあくれはかすむあしからの山

為定

やすらはてこえける春のたよりとや霞の関の名にもたつらん

                      や(群)

安嘉門院四条

関守もまたおとろかぬあふ坂の山路夜ふかく春やこゆきぬらん

湖上朝霞

あさほらけみるめなきさの八重霞えやはふきとくしかのうら風

かすみぬと氷もけさやとけぬらん汀にちかき志賀のうらなみ

志賀のうらや浪まもかすむ朝なきにのとかにわたるあまのつり舟

けさはみなかすみにけりなさゝなみやあふみの海は空もひとつに

霞隔遠樹

三輪の山まつさとかすむ初瀬河いかにあひみむ二もとの杉

昨日まてそれとはみえし山もとの梢もしらすかすむ春かな

花さかぬよもの梢の春かすみまつとはかりのこゝろへたつな

木末こそそれともみえねはゝそ原いはたのをのはかすみこめつゝ

羈中聞鴬

都いてゝ遠山すりのかりころもなくねともなへ谷のうくひす

鴬は梅さくさともたのむらむ宿さたまらぬ旅そかなしき

ふる〔す〕いてゝなれも旅なる程なれやしらぬ野山の鴬のこゑ

きゝなれしこゑは都のうくひすを旅の空まてたれをくりけん

隣家竹鴬

山かつのそのふにちかくふしなれて我竹かほにいとふうくひす

おなしくは垣ねの竹枝かはすこなたにきなけ鴬のこゑ

聲は猶かくれぬ物とあしかきのへたつる竹に鴬そなく

ちかけれと人のまかきの竹なれはへたてゝつらしうくひすのこゑ

田邊若菜

小山田のこほりにのこるあせつたひみとりのわかな色そすくなき

いさゝらは山田の沢のうす氷とけなは跡にわか菜つみてん

秌ならてとはるへしともしらさりしおなし田のもにわかなをそ摘

          は(群)

とちむるこほりの下の小山田にいかて若菜の春をし〔る〕らむ

野外残雪

かすか野は昨日の雪の消かてにふりはへいつる袖そ数そふ

若草のつまもや雪にこもるらんまた春さむきあさきむさしのゝ原

もえいつる草の葉末あらはれてあさゝは小野に残るしら雪

なかめやるすゑ野の原の若草につもるとりてみれはきゆるあは雪

山路梅花

色も香もしらてはこえし梅の花にほふ春への明ほのゝやま

梅かゝをふきつ山の春風にいく木のもとの花になるらむ

梅か香も袂にとまるにほひとてしはしやすらふ春の山こえ

梅かゝをみねのあらしやさそふらんさなからかほる春の山路を

                          みち(群)

梅薫夜風

にほひる枕にさむき梅かゝにくらき雨夜のほしやいつらむ

   く(群・私)

忘るへき春のよのまの程をたに心もよほすむめの下かせ

さそひゆく風のたよりの梅の花かを尋ても猶やまとはむ

はるかせのふきおとろかす梅かゝにねなましとこ夢もむすはす

                      の(群)

水邊古柳

年月もうつりにけりな柳かけ水ゆく河のすゑの世の春

澤水にしつえくちたる河柳まちる春の色もすくなし

              う(群)

影うつす池にみ草のしけるまて春をそへぬる青柳のいと

河きしのあやうなからもわか身世にひさしくへぬる青柳のいと

雨中待花

けふいまイよりや木のめも春の桜花おやのいさめの春雨の空

草も木もおなしめくみの春雨に猶そさくらの枝はゆかしき

またれつる心つくしにふる雨のめくみをいそく山さくら哉

さきぬへき日数はふれと山さくらもよほす雨に猶そつれなき

野花留人

玉きはるうき世忘れてさく花の散すは千代も野への諸人

行さきはくるゝもしらやとらし花の影ふむ野路の旅人

          す(群)  る(群)

花のにとめし心のなこりとてすみやはてなむのへのかりいほ

  香(群)

たつぬへきみ山さくらをきなからすそのゝの花にけふやくらさむれなん

           を(群)

遠望山花

色まかふまことの雲やましるらんころまつは桜のよもの山のは

花の香と吹きてつくる風もうしなかめにかゝる峯の白雲

まかへつる雲ともみえす山さくらはては霞の立ちへたてつゝ

山さくら色たちまかふ雲もなを霞にきえてえやはみえけ

             ほ(群)          る(群)

暁庭落花

あかなくをのか衣ゝふくかせに苔のみとりも花そわかるゝ

    に(群)

ちりかゝる庭の桜をたよりにてはるゝもつらし有明の月

有明の月はつれなき庭の面に花やわかれの時をしるらん

しのゝめのわかれをしはしとめかほに花ちりかくす庭のかよひち

故郷夕花

里はあれあれぬ庭の桜もふりはてゝたそかれ時とふ人もなし

  あれぬ(群・私)            を(群・私)

なかめあかすけふもくらしつあすからやあすかの里の花の白雪

                           雲(群)

人もなき故郷の梢とてくるゝもやすき花のいろ哉

 る(群)

ゆふ暮のかすみにこもる古郷に人みぬ花のなにゝほふらん

河上春月

ゆく春のなかれてはやきみなの川霞のふちにくもる月かけ

行水は霞のしたの音羽河いかにほりてうつる月かけ

              冰て(群)

春ことにかすむならひの名取河なき〔名〕ともみぬ月の影哉

影やとす月をそれともわき〔か〕ねつふかき霞のなか川のみつ

深夜帰鴈

春の夜の八こゑの鳥もなかぬまにたのむのかりのいそき立覧

かりのねよあくるたにうき帰るさを深行空はさそなかるらん

                        む(群)

したふそよまたふかきよの月影に面影とてかへるかりかね

春のよのあり明の月もいてぬまに帰るこしちいそくかりかね

藤花随風

松かせのこゑもそなたになひくらかゝれる藤の末もみたれ

               し(群)          す(私)

風わたる汀の松のしつ枝よりふくかたしれとなひく藤浪

かせふけは松の下水ゆくかたに木末もなひく春のふちなみ

むらさきの雲のゆきゝを行衛もさためぬや〔藤咲比の峯のまつかせ〕

橋邊款冬

橋はしら色に出けることの葉をいはてにほふ山吹のはな

風ふけはこほれておつる山ふきの花をわたせる谷のかけはし

いたつらにとはれてしとはれし春を山吹の花にそかこつ谷のかけ橋

      とはれし(群)

山ふきの花いろころもかけてけりさほの川原のせゝの岩はし

船中暮春

けふは猶かすみをしの友舟の春のさかひをわかれすもかな

          へ(私)

行春のかたをしらせよゆらのとやこき出る舟の跡のしほ風

したとも春はとまらぬおなし江にたなゝし小舟漕や帰らん

  へ(群)

こく舟もくれゆく春ももろともにさもあともなき浪のうへかな

夏十首

夘花隠路

うの花の枝もたはゝの露をみよとはれし道のむかしかたりは

さらに又けふこむ人みるはかり雪に道なき庭のうのはな

         と(群)

夘花の色にも猶やたとるらん雪にまひしのゝほそ道

                よ(群)  を(群)

〔我ためはあなうの花のさかりとていとふ山路も跡絶ぬへし〕

初聞郭公

昨日こそ霞たちしかほとゝきす又うちはふくこそのふる聲

きゝつとも人にはいはしほとゝきすたのまぬほとの初音なりけり

数ならぬ身にはならはぬはつ音とてきゝてもたとる郭公哉

ことし又はつねはきゝつほとゝきすうたかはれつるいのちまつまに

山家時鳥郭公

この里はまちもまたすもほとゝきす山とひこゆるたよりすくすな

今は又さとなれはてゝほとゝきすすむ山もとのこゑそすくなき

時鳥きかすといはゝ山ふかみすむかひなしと人やおもはむ

まちわたるこの山もとほとゝきすなかなくさとの数にもらすな

池朝菖蒲

あくるよりけふひくあやめ池水にのかさ月そなれてわかるゝ

               を(群・私)

池水のみきはのあやめあさな〳〵浪にかくるゝさみたれの空

池水のなみよせかけてあやめ草けさひく袖は露そみたるゝ

さ月とてけさひくあやめなナシきねにいけの心もそこしられつゝ

閑居蚊

こかると煙もみえし時しらぬ竹のは山のおくのかやり火

    て(群・私)

夏も猶煙をたにとたのむかなさひしきやとのよはの蚊遣火

蚊遣火の煙たてすはいかにしてこの山かけのやとをしらまし

かやり火の煙のすゑもやとらはおもひなしにやさひしかるらむ

            あ(群)

廬橘驚夢

袖のかは花たち花にのこれともたえてつれなき夢の面影

あはれなりたか袖の香のならひとて花たち花に夢のこすらん

夢ならてむかしにかよふ名残とやね覚の袖に香るたちはな

にほへたゝゆ〔め〕にかはせる袖のかの名こりもしるき軒のたち花

杜五月雨

わひ旅イ人のほさぬためしやさみたれのしつくにくた衣手の森

榊さす杜のしめなはくり返しなかきいくかのさみたれのそら

かきくらす日数もしらすかしは木のもりて久しき五月雨の比

さしてそのみかの杜たのめとも猶袖ほさぬさみたれのころ

野夕夏草

あたしのゝをかやかしたはたかためにみたれそめたる暮を待らん

秌きなは風にもたし草の原心とむすへのへのゆふ露

露むすふゆふへになれは夏の野の草のしけみもわけそかねぬる

                     分ち(群)

おもふことあまりにしけき夏草のしたにみたるゝおのゝゆふ露

                      を(群)

澗底蛍火

日影さすさきてとくちる色もなし谷ほたるそひかりなりける

                は(私)

  見す(群)

  みす(私)

すむとたにしられぬ谷の下水をありとほたるそもえてつけくる

谷ふかみあさからぬ身のおもひとはよそにしられてとふ蛍かな

たれかしる忍ふの山の谷ふかみもゆるほたるのおもひありとも

                           は(群)

行路夕立

夕たちに袖もしほゝのかりころもかつうつりゆくおちかたの空

                      を(群・私)  くも(群)

                           雲(私)

さらてたに草わけわふるぬれ衣日もゆふたちの雨きほふな

こえやらて日数かさぬる山路をもやすくそすくる夕たちの空

                          雲(群)

ゆくさきも家路もとをき中空にやとる影なきゆふたちの雨

秋二十首

初秋朝風

秋きぬといふはかりなるに やよもきふにあさけの風のこゝろはかりにか は れ り

                         はかりよ(群)

                         かはりよ(私)

夏衣またかたしきのさむしろにけさ吹とほす秌のはつかせ

いつのまにふきかはりけむこのねぬるあさけの袖の秋の初風

けさかはる風につけてや荻の葉も露をきあへぬ秌をしるらん

                お(群)

閏月七夕

天の川ふつきは名のみかさなれと雲のころもやよそにぬるらん

ふたよまてなにそはありて天川のちせわたらぬほしあひの空

天川あはぬふ月をかさねてそおなしうらみの数もそひけ

             なれし(群)

おなしくは後のふ月のなぬかにも又ほしあひのあよなりせは

野亭夕萩

秌萩に玉ぬく野への夕露をよしやみきてみたさてやとなからみむ

               みたさて(群・私)

秋はきの花のとさしの色にいてゝ夕暮しるき野への露かな

秌萩の花もあたなる夕露にむすふもかりの野へのいほかな

花にさし萩の古枝のゆふ露をかけてむすへる野へのかりいほ

  さく(群)

江邊暁荻

明わたる荻のすゑはのほの〳〵と月のいり江をいつる舟人

あか月はうきねもさし舟とむる入江の荻にわたるあきかせ

         ひ(群)

あけわたる入江の浪しつかにて荻の末葉に残るうら風

あかすみるいり江の月をおしむまによもあけわたる荻のうは風

山家初鴈

秌風の雲にましれる峯こえて外山の里にかりは來にけり

すきぬ也わかすむ山のもみち葉に涙しらするはつかりのこゑ

憂ことをおもひつらねぬかりかねもなきてそきぬる秌の山さと

山こゆるはつかりかねのとつれも軒はにちかき雲のかよひち

           を(群)

海上待月

淡路かた秌なき花をかさしもていつるもおそしをうしといさよひの月

  島(私・群)             もをそし(群)

                  をうしと(私)

さしいつるゆかりはうれし月はまたつれなき沖のあまの釣舟

わたの原いつくを浪のかきりとて空行月の影を待らむ

おきつ舟ゆたのたゆたにこきくれてるへなみちは月そまたるゝ

                と(群)

松間夜月

袖ちかき色やみとりの松風にぬるゝかほなる月そすくなき

住吉のうらはの浪は音もせて月よりかる松の白ゆふ

もる月の心つくしのつれなさも松にそことにおもひしりぬる

たかさこの松に木の間のなかりせはいさよふ月を猶やまたまし

深山見月

花ならいたくなわひそとはかりもみ山の月を人やとはまし

   は(群)           に(群)

山ふかみわれからむすふ草の庵に人もすむとや月のもるらん

花なて又あくかるゝこゝろ哉よしのゝおくの秌のよの月

秋のよのあはれは月にしられけり鳥の音きかぬみ山なれとも

草露映月

武蔵野につらぬきとめぬ白露の草はみなから月そこほるゝ

秌のよは露のそこなる草葉まてのほとをりてすめる月の影哉

               とを(群)

むすひをく露の契りもあらはれて軒のしのふにやとる月哉

                         かけ(群)

こきませに草の花咲く秌の野の露にしたかふ月の色〳〵

    て(群)

関路惜月

逢坂〔は〕帰りこむ日をたのみても空行月の関守そなき

よせ帰りなにしか浪の清見かた月をとをさぬ関守もなし

夜もすからやとるはかりの月かけをとめすはつらしすまの関守

かくはかりおしむ心をとはかりはゝかり の関ともいはす月そあけゆく

          はゝかり(群)

鹿聲夜友

山さとの竹よりほかのわか友はよるなく鹿の庭の草ふし

よはになく山路の鹿のこゑなくはひとり秌の袖はぬれまし

数ならぬうきみの友とたのむ夜はおもひまさるさをしかのこゑ

                  や(群)

うとかりしみ山のしかもよもすからなくを友とてたつねきにけり

田家擣衣

露霜のおくての山田吹風のもよほすかたに衣うつなり

月のすむ田中の庵のいなむしろもるやすさみに衣うつなり

                   ひ(群)

まとろまてもるとはかりのしるしかな秌の田面に衣うつこゑなり

夜さむなる山田のしねかりそめのいほもる庵のしつも衣うつなり

        お(群)

古渡秌霧

夕霧にことゝひわひぬすみた河わか友舟もありやなしやと

跡もなきすみ田河原の秋霧に都とふへき鳥たにもなし

わたし守舟さしかけて急くまて暮ぬとみゆる淀の河霧

たとらしなわたなれたる浪路とてきりのしたこくよとの河舟

秌風満野

宮城野は木のした露もほしはてゝはらひもやぬよもの秋かせ

                    ま(群・私)

しら露もみなから草のむさしのをふたにたぬ秌の夕風

                    え(群)

かはりゆく色をはしらす武蔵野やなへて草葉に秋風そふく

あたし野は露のかくれもなかりけり秌風たちていろかはるころ

籬下聞虫

みたれおつる萩のまかきの下露に涙色る松むしのこゑ

風わたる籬の草のしたおれにうつもれはてぬ松虫の聲

          を(群)

さきみたす花のまかきに鳴虫や秌は千草に物おもふらむ

くすかつらくる人たゆるまかきにも心なかやまつむしのこゑ

紅葉

山川のしくれてはるゝもみち葉におられぬ水もいろまさりつゝ

ちりかゝる色たにあかしもみちはの影みるかたの水の鏡は

谷川のあさせの水やまさるらんふかき紅葉の色をうつして

谷川の水も時雨やそめつらん峯のもみちのちしほうつして

山中紅葉

山めくる時雨のおくのもみち葉のいく千しほとかこかれはつらん

秌にあへぬみむろの山のもみちはは草葉をかけていつ時雨れけるら

山ふかき秌の紅葉の色よりもあさからすこそたつね入ぬれ

ありとたに人にしられぬもみちかな木末よもの山をへたてゝ

                  は(群)

露底槿花

秌風のうは葉にためぬしら露しほらてひたす朝かほの花

             を(群)

哀なりきゆるにやすき白露をやとしよはれるあさかほのはな

はかなしやあたなる露の色にたに猶うつまるゝあさかほのはな

日影まつさす露のしけさをおもしとやかつしほるらんあさかほの花

  さす(群)

河邊菊花

大井河ゐせきの浪の花の色ナシうつろひすつるきしの白菊

いくちよをせきて岩まにとゝむ留ぬらん菊のかけゆく谷川の水

色かはる霜やはをそき河風にほのかにうつるしら菊の花

むすふ手にかこそしるけれしら菊の花のみひたす山川の水

獨惜暮秋

又人のとはぬもうれし草に草木たになれてはおしき秌の別れを

          草木(群)

          木草(私)

哀ともくれゆく秌をおもひしれ我身ひとつにおしむこゝろを

とまらすはいかにせむとて行秌の我身ひとつにかなしかるらん

く霜もたれとともにかかはらはらはましふるきまくらに秌のくれなは

を(群)          はらは(群)

冬十首

初冬時雨 

けふそへにさこそ時雨の音信て神無月とは人にしられめ

忘ては猶秌そとおもはましわれをしらぬ時雨なりせは

                り(群)

神無月あはれはかはしるしにて秌より冬にふる時雨哉

      はかなき(群)

ことさらに打時雨てそしらける空さためたのめなき冬のはしめ

              り(群)

霜埋落葉

朝霜の庭の紅葉はおもひしれをのか下なる苔の心を

ちりしよりあさをく霜にうつもれてわか色としもみえぬ紅葉は

さそひこし嵐もをのかままならて霜に朽ぬる庭のもみちは

ちりつもる冬の木の葉のくれなゐ色ことになす庭のあさ霜

               を(群)

屋上聞霰

真木の屋にあられの音もと絶つゝ風のゆくゑになひくむら浮イ

霰ふる槙のいた屋のかたひさしをとにたてゝそ冬はきにける

いとはれし時雨のゝちのま木の屋に音もかはらてふるあられ哉

時雨にも木のはにもにぬ似す音たてゝあれはしるき板ひさしかな

古寺初雪

むかしへやなに山姫の布さらす跡ふりまかへつもる今朝のしら

                       はつ(群・私)

ふりそむる雪より跡そ絶ぬへき高野の山の冬の人めは

さそはるゝ雲のまよひにかつふりて雪もはつせの山かせそ吹

霜よりもさえまさるらし初雪のふりそふ山のかねのひゝきは

庭雪猒人

わか門はけふこむ人に忘られ雪のこゝろ庭をまかせて

             ね(群)

今よりは人をもとはしふる雪の庭には跡もつけうかりけり

とはれける身のならはしのありかほに跡はとはるゝいとはるゝ庭の白雪

                  いとはるゝ(群)

しら雪の庭をさかり消ぬまにとへとおもひし人もまたれす

         に(群)

海邊松雪

住吉の松やいつくとふる雪になかめもしらぬとをつしま舟イ

難波かたあさみつ塩はとをけれと雪かくるゝうらの松かせ

           ほ(群)

ふる雪はつもりにけりなしら波の音せてこゆる末のとをまつ

                        松(群)

おきつかせ雪ふみ吹きかけて白妙なるをの松は葉かへしてけり

      ふき(群)

水郷寒蘆

蘆の葉もしたおれはてゝ三嶋えの入江月の影もさはらすイ

                         す(群・私)

汀なるあしのしほれ葉ふきさやきこほりもよほすまのゝ浜かせ

         に(群)

難波かた入江のなみは音たてゝあしのうれ葉はかせもまらす

                 枯(群)

難波えやかたありしにもあらぬ冬枯にあとまはるゝ霜のあし原

                  と(群)

湖上千鳥

にほの海や月まつうらのさ夜千鳥いつれの嶋をさしてなくゆくイらん

風さむみ奥つさゝ波さく花にいろまとはせる浦ちとりかな

音絶音信て志賀の浦なみこほる夜はたちもさはかて鳴千鳥かな

とをさかるかた江かたゝのおきのさ夜ちとり跡やはとはぬとめぬ波のうへ

     かたゝ(群)            とめぬ(群)

寒夜水鳥

きとめす松を嵐のはらふ夜はかもの青羽の霜そかさなる

を(群)           に(群)

かつこほる池の玉ものかりまくらむすふ霜夜におしうらむなりらん

                     を(群)    らん(群)

池水にたちもはなれぬあしかものうきねはかりそこほらさりける

かつこほる涙のとこにならはすはおしのうきねよそにきかまし

               を(群)

歳暮澗水

いまいくかうちいつる浪のはつ花も谷のこほりのしたに待らむ

谷川のはやく暮ゆく年なみにむすふ氷もあすやとくへき

                    は(群)

いたつらにこほりかさねてゆく年の日数もしらぬ谷川の水

のうへはつれなくこほともあすを春とやしたにとくらん

 川(群)

戀二十首

初尋縁戀

おもひあまりその里人にことゝはむおなし岡へ〔の〕松はみゆやと

けふこそは浦はによするみるめをもしらするかせを尋ねそめつれ

さそひくる霞のひまの春風にまたみぬ花のゆくゑをそとふ

ことゝはむおもふそなたのうき雲にかゝる心のしるへありやと

聞聲忍戀

秌の霜にうつろふ花の名はかりもかけすよむしのなく音なら

                           ね(群)

松風の音をきゝてもなけきのみくははることのねをやしのはむ

よそにきく雲井の鴈の一こゑにうき名忘ていかゝしたはむ

音はかりそれと吹こすくこそ松かせを身にしむとたに人にしらせし

忍親

    眤(群・私)

めもはるにもえてはみえし紫の色こき野への草木也とも

ちらすなよしたにふせ屋のよはの露そのはらからの風もこそふけ

なき名そといひてもはてのいかならむおやのまもりをそむく身ならは

おなし野の草のはらからたつぬとも物おもふ袖の露とこたへし

祈不逢戀

    会(私)

ゆき帰りあふせも知らぬみそき河かなしきことは数まさりつゝ

さても猶かけてかひなき手向かな人はうき田のもりのしめなは

いかに猶つれなからまし神たにもうけぬちきりのほとゝしらせは

あふことをいのりししるしあらはさて神もつれなき三輪の杉むら

        て(群)

旅宿逢戀

龍田山木の葉のしたのかり枕かはすもあたに露こほれつゝ

       後(私)

忘るなよ草ひきむすふ新枕かはす契りは一よなりとも

かはらてもあたなる中そしられぬ(群も)るたゝ一よなる草の枕は

あたなりな夢路ほとなきかりそめの草のまくらも露のちきり

                           も(群)

兼猒暁戀

こよひたにくらふの山やともかなあか月しらぬ夢やさめぬと

をのつからまちるよ半のさ莚にかねてそ鳥の音はなかれける

       う(群)

うき物ときゝしはかりのあか月をわかれぬさきの身にいとふかな

わかてふあか月ありときゝし思ふより夜ふかきかねもおとろかれつゝ

  る(群)        思ふ(群)

帰無書戀

朝露はさゝわくる分けし袖にほしかねて夢かうつゝか問ふ人もなし

帰りつる道も草葉に分つれとまたふみも見す袖ぬれそふける

                     も(群)  ける(群)

立かへりとはれぬほともつらからすこよひうきみと人にしられは

きぬ〳〵のわかれおもはゝけさはまつとはれなましと身をそうらむる

遇不

よそ人は何中〳〵の夢ならてやみのうつゝの見えぬおもかけ

夢かとよ見しを心になくさめて又よそになる夕暮の空

つれなさはかはらぬ中のつらさにてみしを忘るゝ心ともかな

花すゝきなひきはてにしたもとより又ふきかへし秌風そふく

契経年戀

秌かけてふり敷木の葉いく帰りむなしき春の色にもゆいつらん

                      いつ(私)

哀なりたかまことなる契とておしむいのちも年をへぬらむ

                     の(群)

契りしをたのむはかりになからへてきぬへき身の年そへにける

                        は(群)   り(群)

いつまてそ年月とをくなからへてちきりし末をたのむいのちも

        ほ(群)

疑真偽戀

たかまこと卋のいつはりのいかならむたのまれぬへきふての跡哉

たのめしは猶いつはりの暮かともおもひさためて身をくたかはや

かはりゆく人の心のいつはりはうらみもはてぬつらさなりけり

まことゝはおもひさためぬことの葉もよしたゝしはしたのみこそせめ

返事増戀

うちなひく煙くらへにもえまさるおもひの薪身こかれつゝ

引返すうらにかきくもしほ草やかて涙にくちぬへき哉

        を(群)

恨つるわかことはりも忘られてまさるつらさに書る玉つさ

よそへても猶うとまれぬなてしこに露をきそふる水くきのあと

                 お(群)

被猒賤戀

色にいてゝいひなしほりそ桜とのあけなからなる春の袂を

人そうき賤のたまきいやしきを身しるとかはなきになされて

      を(群)

うきなから数ならぬ身のつらさをもいとはれてこそおもひしりぬれ

ことはりやさしもけはしきむくらふのやとからつらき人のよかれは

途中契戀

道のへのてのしからみ下帯引むすひ忘れはつらしいてしまはつくさの露

    ゐ(群)  下おひ(群)           はつくさ(群)

                      はつ草(私)

めくりあはむ末をそたのむ道のへのゆき別ぬるあたの契りを(群も)

あたなりや道の芝草かりそめにむすひは(群も)てぬる露の契は

なをさりの道ゆきふりも忘るなよちきりしまゝのこゝろかはらて

従門帰戀

思ひやれむくらのかとのさしなからきてかへさるゝ露の衣

                          手(群)

                          て(私)

秌のよのあけせぬ槙のとはかりにゆきてはかへる袖を見せはや

ふかき夜の別といひて槙の戸のあけぬに帰る身とはしられし

たつねつる人はつれなき槙の戸をあけぬ夜からさて帰るやかへらん

                        やかへ(群)

忘住所戀

いかにせむたのめしさとを住の江の岸におふてふ草にまかへて

われそうきそことはそこをしら雲のしへし月の影は入にき

                を(群)

忘るとて人のかこたはなをさりにしへしやとゝ我も恨みむ

               を(群)

せめておもふ心まよふとひといひなからしへし宿をさやはわすれんるゝ

        とひ(群)      を(群)         るゝ(群)

依戀祈身

なからへよあらはあふよと手向して年のをいのる森のしめなは

今はたゝ戀をいのりになしはてゝあらはとはかり身をおしむかな

神にたにうき身のほとをしられすはあふにかへむと猶やいのらん

なからへてあふをかきりとたのますはおしからぬ身をいのりやはせむ

隔遠路戀

わたつ海やいく浦〳〵にみつしほのみえてらくすくなき中のかよひち

                 らく(群)

我か心いく山河をあくかれてしのふのおくにみちたとるらむ

いとふそよかよふ心のたのみたになくてへたつる峯のしら雲

野も山もこえていくかをへたつらんさかひはるかにまよふ戀路は

借人名戀

かりそめのたゝ名のりそになひくらんわか身のかたは絶ぬ煙を

ほかさまに名をかる草のつかのまもなひくにつけて身そしられぬる

いかにせむうき名をかへてかこつともつらき心の人をわかすは

かよふとはよひ〳〵ことにしるくともあらぬ人をやそれといはまし

絶不知戀

あふひ草人のかさしかとはかり名をたにかけてとふかたもなし

おなし世になしやありやもしら波のよるへ絶にしかたのなかはま

おなし世に行ゑをさへにたとるこそあまりよそなる契りなりけれ

おほつかな嵐にまよふさゝかにのいかなるかたとたれにとはまし

        か(群)

互恨絶戀

もしほ草あまのすさひ住居かきたえぬ里のしるへの心くらへに

       すまひも(群)

       すまゐも(私)

今は又ゆくゑもしらす跡たえぬかた見にふきしくすのうらかせ

つらかりし心くらへをたかうきに思ひさためてとをさかるらむ

はては又つらくらへことのはもおのかさま〳〵色かはさかりけり

          し(群)     を(群)

雜二十首

暁更寝覚

明やらぬ鳥の音ふかくおく霜に寝覚くるしきよゝのふること

          を(私)

枕たにうきたちぬへきね覚かなむかしおほゆるあかつきの夢

あか月の鳥のなく音をしるへにてね覚のほとそ身にならひぬる

鳥の音に我か涙そふあかつきをいつよりなれしね覚なるらん

薄暮松風

うへをきしわか物からの庭の松夕は風のこゑそくやしき

                      る(私)

そのことゝおもはぬ暮もかなしきは松ふきわたる嵐なりけり

吹かせもおなしみとりの枩か枝に夕はなにとさひしかるらむ

いとせめて夕暮ことにかなしきはきくわれから庭の松かせ

                     の(群)

雨中綠竹

色かへぬ青葉の竹のうきふしに身をしる雨のあはれ世の中

雨おもきまかきの竹のおれかへりくたれはのほる露のしら玉

 を(群)

わか君のめくみをそへてふる雨にみかきの竹の色そことなる

なよ竹の心よはさはよのほとの雨にもたへすなれふしにけり

浪洗石苔

はやせ川岩打つ浪のしろたへに苔のみとりの色そつれなき

                たもと(群)

むす苔色もかはらてうちよする岩間の浪の音そくたくる

   は(群)

浪あらふ磯への石の苔ころもほすまも群見えぬ興津塩風(前歌と逆順)

こけ衣わかなきぬらすたくひとや岩こす浪のまなくかくらん

                        帰(群)

高山待月

比良の山峯の木からしはらふよこゝろきよくも月をみる

 え(群・私)

よのつねの嶺には影も出なまし冨士のねしらむ秌の夜の月

待出るほとそひささひしきかつらきやたかまの山の秋の夜の月

よのつねのやまにはまさる峯ならはまつよふくるも月のとかゝは

山中瀧水

雲ふかきあたりの山つゝまれて音のみおつる瀧のしら

山にても猶憂時やまさるらんみたれておつる滝のしら玉

瀧のおともまたきゝなれぬ山水にならはてすむは心なりけり

おちこちのいもせの山のへたてすにかくれすはよしのゝ瀧やあらはならましなるへし

河水流清

秋の水きよ瀧川の夕日影木の葉もうかすくもるはかりに(群も)

底まてもなかれてきよし神かせやいすゝの河の水のしら波

千代をへて一たひすめる河水のなかれは君そくむへかりける

あさしとはおもひなはてそ山川の底まてきよきこゝろみえなは

      おもひはてそ(群)                ね(群)

春秋野遊

おなし野ゝ霞も霧も分なれぬ侘ひぬはつね子日(ねのひ私)のこ松まつ虫のこゑ

桜花千代もぬへく見し野邊に秌さく色のうつろひにけり

立帰りおなし野原にあくかれて花も紅葉も身にそなれぬる

すみれつむ春のならひにこ萩さく野をなつかしみやとやからまし

関路行客

ゆく人のかたみもあたにおく露をふきなはらひそ関の

           を(群・私)

〔知しらすゆきゝもしはしとゝまらん清見か關の浪にひかれて〕

旅人のたえぬゆきゝに逢坂の関守いかにくるしかるらむ

あつまちの関のゆきゝはたれとしもしらぬになるゝ契りあ(群も)りけり

山家夕嵐

暮かゝるよもの木の葉草木の山かせにのれしほるゝしもの袖かなしはの袖かきイ

        草木(群)     を(群)     しはのそてかき(群)

                を(私)     しはの袖かき(私)

くれゆけはそのふの山に吹嵐なれすはいかにこゝろうかれむさひしからまし

山里にたへてすまむと思ひしはあらしもきかぬ夕なりけり

    え(群)

あらしふく山のしは屋のすみうさよきになれて年ふるゆふへなれとも

山家人稀

古郷をしのふる人やわたしけむさてもとはれぬ谷のかけはし川の橋イ

                      川のはし(群)

はれすのみ雲しく岩の峯のいほわれより外の跡をやはみる

おもひやれかゝる人めの冬にたにかきらぬ山の奥のさひしさ

すみあらすいほりあまたになりにけり猶うき時をわかしのふまに

海路眺望

しるらめやたゆたふ舟の浪間よりみゆるこしまのもとの心を

わたの原浪路の末は中絶て雲にうきたつあまのつり舟

見わたせは浪間の日影くれぬらしはやこきかへれあまのつり舟

山もなく雲もかはらてうな原やゆくゑもしらぬなみのはてかな

       か(群)

月羈中友

ゆふつくよやとかりそめし影なからいく有明の友となるらん

旅の空うきて出にし野山まて道もやとりも月そともなふ

契らすよなれし都の夜半の月草の枕の友となれとは

くる月をよな〳〵たのむかな旅の空なる友なしにして

をくりくる(群)              なる(群)

夜雨

     夢(私)

旅ころもぬくや玉のを夜の雨〔は〕袖にみたれて夢もむすはす

都おもふ涙も露もかりの屋に猶もるよ半の雨しほりつゝ

みやこ思ふかりねの袖にふる雨やほさぬ涙のたくひなるらん

よもすから雨に涙を手もたゆくしほりそへたる旅ころもかな

海邊暁雲

明ぬとてとまり漕出る友舟のほしのまきれに雲そわかるゝ

くらきよの八重のしほちの浪間よりはなれてあくる空のよこ雲

へたてつる夜のまの雲やわかるらんあらはれそむる沖津しら波

いもか嶋かたみの月の有明に浪こそかけ雲なへたてそ

                   め(群)

寄夢無常

まとろめはいやはかなゝる夢のうちの身いくよとてさめぬ歎そくれ竹イ

                に(群)

あるも夢なきもゆめそといひなからけにさとられぬ身をいかゝせん

あたに見し一よの夢のそのまゝにさめてはもとのうき世なりけり

ある物とたのむこの世のはかなさは夢を見てこそおもひあはすれ

寄草述懐

ひき捨るためしもかなしかきつめしおとろの道のもとの朽は

                を(群)          は(群・私)

卋の中をわきてはいはす夏草のたゝ我からと露そこほるゝ

逐日懐ママノ哥也

しのはるゝそのいにしへはへたゝりてまたぬ月日のなとつもるらん

ねをたえてみなはにましるうき草のうきなから又ゆくかたもなし

寄木述懐

九重のとののあふちわするなよむそちの友は朽てやみぬと

     へ(群・私)

世の中はあまの塩木のからくのみありふるまゝに思ひとられて

                        よ(群)

寄草述懐ノ哥なり

うつもるゝ霜の下草あらはれてさかへん春の光をそまつ

枝かはすむかしの契りくちはてゝひとりふる木のなにのこるらん

日懐

     旧(群・私)

天の戸あくる日ことに忍ふとてしらぬむかしはたちも帰らす

過にける昔を今と思ふまにけふも昨日となりぬへきかな

寄木述懐ノ哥也

さりともとたのみをかれて春日山うき身わするゝ北の藤浪

とし月も遠さかりゆくむかしそとおもふにつけて戀ぬ日なし

社頭祝言

いのるより神もさこそはねかふらめ君あきらかに民やすくとは

ゆるきなくときはかきはにまもるらんいすゝの川の神の宮ゐは

よろつ世に松の千とせの色そへて君をそまもる住吉の神

よろつ世をさそな久しくてらすらたのむ日よしの神のちかひ

                            に(群)

 


mail:mizukaki@j.email.ne.jp

公開日:平成270118
最終更新日:平成270223

やまとうた表紙 拾遺愚草資料集